[JC06] 発達障害児の認知特性と学校適応の評価・支援
学習活動や学校生活のサポートを考える
Keywords:発達障害, 認知特性, 学校適応
〔企画趣旨〕
特別支援学校や特別支援学級はもちろん,通常学級にもLD・ADHD・ASDなどが疑われる学習・生活・行動面で特別な支援を必要とする児童生徒が6.5%程度在籍しており,いずれの教育フィールドにおいても,障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握し,適切な指導および必要な支援を展開する必要がある。また,指導や支援を展開する際にはどのような場面で困難さ・不適応が生じているのか,本人の強いまたは苦手な能力はどのような点かを理解し支援計画を立案することで,より効果的で,指導者によって対応が異なることなく一貫した支援・指導が可能となると考えられる。そのため,知的・発達障害児の認知機能のアセスメントと,学校生活(学習活動など)への適応状況(支援ニーズなどを含めて)をアセスメントし,この認知機能と適応状況を考慮した上で支援を立案することが重要であると考えられる。本シンポジウムでは,具体的なアセスメント法やサポートについて検討し討論する。
〔話題提供〕
知的障害のある生徒の造形学習における
プランニングの評価とその支援
渡邉雅俊(國學院大學人間開発学部)
プランニングとは目標状態を達成するために,前もって十分な連鎖的行為を考える認知プロセスであり,学習や問題解決における自己調整の鍵である。知的障害や発達障害のある児童生徒がプランニングを十分に行わない傾向があり,様々な躓きの一因となっていることはよく知られている。本報告は,その評価を学習支援に活かす方法について,見立て描画を事例として紹介する。筆者は,教育支援を計画するために,定型発達との相違といった定量的分析ばかりでなく,その内容に着目した定性的分析による評価も必要であると考えている。そのため,慎重なプランニングを「前もって適切な連鎖的行為(目標達成に近づくための操作)を十分に考える」と捉え,課題を遂行する前に,十分に考えるという態度的特質(熟慮性)と,その内容が適切な連鎖的行為(目標達成に近づくための操作)であったかという内容的特質(予期性)に分けた評価を試みた。このような方法によって,特別支援学校高等部に在籍する生徒7名の見立て描画の制作過程を分析したところ,2名は熟慮性が高いものの予期性が低く,5名はその両方とも低かった。これに基づき,予期性の低い生徒に対し,その促進を目的とした見立て方略(素材の構成方法)の支援を行った。また,両方とも低い生徒には見立て方略に加え,見立ての構想(テーマの解釈と構図を練ること)を促すように働きかけた。支援後の制作では,7名のうち5名が見立てにデザイン性や物語性の加味された作品をつくることができた。このことから,認知機能の評価はその内容的特質に焦点を置いた分析を含めると,支援に有効なのではないかと考える。
学校適応から見たAD/HD生徒への
支援と課題
宇野宏幸(兵庫教育大学大学院特別支援教育コーディネーターコース)
藤野光裕(姫路市総合教育センター)
中学校に入学すると,生徒は自身の思春期の発達課題に直面するとともに,学校環境が大きく変わることでの戸惑いを経験する。最近では,「中一ギャップ」と呼ばれることもある。教科担任制,学習(知識)量の増大,部活動への参加,制服の着用など小学校では馴染みのなかった学校環境へ適応していくことが求められる。
AD/HD生徒を考えた場合,担当教師によって対応が異なることでの困惑,教科学習に考える内容が多くなることへの抵抗,部活動で得意を活かせる一方でチームプレーの苦手さなどへの支援や配慮が期待される。また,教師や親との人間関係が損なわれやすいこと,学習への意欲が削がれがちとなることや自己肯定感の低下を考慮していくことも重要である。
今回は,小学校では担任の理解のもとで適切な支援・配慮がさりげなく実施されていたが,中学校入学後に問題が顕在化したAD/HD生徒について,アセスメント情報ならびに学校適応感(教師との関係,学習への意欲,部活動への意欲,情緒的安定性(自己肯定感),家族との関係)との関連性において,どのような支援ニーズがあったのか振り返って考えてみたい。さらに,学校システムにおける情報共有,学校?保護者連携のあり方等についても考察する。
認知特性と学校適応スキルに基づいた
評価と支援計画の立案
熊谷亮(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)
知的・発達障害児への支援において原因とされる障害が特定されたからといって,短絡的にサポートすべき内容が導き出されるのではなく,子どもの困り感や生じている問題への対応が重要となる。そのためには,認知機能のアセスメントに加え,生活習慣,社会性,行動コントロールなど多角的な領域におけるおのおのの適応スキルの獲得・到達度をプロフィールという形で把握し,また意欲,集中力,興味関心の偏り,多動性・衝動性,心気的な訴えなど学校生活における不適応の実態から発達支援のための支援タイプと支援レベルを特定することが重要である。また,支援レベルには「一時的~長期的」という時間軸と「限定的~全面的」という支援の範囲を特定することも重要となる。ただ,アセスメントにおいては短所だけでなく,本人の長所も導き出す必要がある。そして,苦手な面は改善にむけて,得意な面は一層促進するための支援目標と手立てを考えるかをアセスメントすることが重要である。
アセスメントからサポートを展開する際には,本人が苦戦している部分の中で,限られた学校生活の中で優先性・緊急度の観点から,または本人や保護者の困り感から実施可能な数だけ抽出して,支援目標を設定する必要がある。本シンポジウムでは,WISC-Ⅳなどの知能検査による認知特性の評価と学校適応スキル尺度であるASIST学校適応スキルプロフィールによる適応行動の評価に基づいたアセスメントと支援計画立案のあり方について討論したい。
〔指定討論〕
アセスメント結果のフィードバック
小島道生(岐阜大学教育学部)
近年,発達障害・知的障害児を対象とした様々な尺度が開発されてきている。効果的な支援へとつなげるためには,アセスメントが不可欠であり,数多く存在する心理尺度のなかから,目的に即した尺度を選択して検討することが大切になろう。
そして,効果的な支援につなげるためには手続きに基づき適切に実施するだけでなく,結果の解釈や結果の伝え方がより一層重要になろう。したがって,それぞれの話題提供を踏まえて,単にアセスメントの実施にかかわる現状や課題だけでなく,解釈や結果の伝え方などの在り方についても議論を深めていきたいと考えている。
また,思春期・青年期以降になると発達障害・知的障害児の自己理解が支援においても重要になることが多い。これは,心理検査の結果を,本人にどのようにフィードバックするのかということとも関係する。また,本人が心理検査の結果について教えて欲しいと主張することもあろう。したがって,本人に対する心理検査の説明や結果の伝え方の在り方についても,話題提供を踏まえつつ検討していきたいと考えている。
特別支援学校や特別支援学級はもちろん,通常学級にもLD・ADHD・ASDなどが疑われる学習・生活・行動面で特別な支援を必要とする児童生徒が6.5%程度在籍しており,いずれの教育フィールドにおいても,障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握し,適切な指導および必要な支援を展開する必要がある。また,指導や支援を展開する際にはどのような場面で困難さ・不適応が生じているのか,本人の強いまたは苦手な能力はどのような点かを理解し支援計画を立案することで,より効果的で,指導者によって対応が異なることなく一貫した支援・指導が可能となると考えられる。そのため,知的・発達障害児の認知機能のアセスメントと,学校生活(学習活動など)への適応状況(支援ニーズなどを含めて)をアセスメントし,この認知機能と適応状況を考慮した上で支援を立案することが重要であると考えられる。本シンポジウムでは,具体的なアセスメント法やサポートについて検討し討論する。
〔話題提供〕
知的障害のある生徒の造形学習における
プランニングの評価とその支援
渡邉雅俊(國學院大學人間開発学部)
プランニングとは目標状態を達成するために,前もって十分な連鎖的行為を考える認知プロセスであり,学習や問題解決における自己調整の鍵である。知的障害や発達障害のある児童生徒がプランニングを十分に行わない傾向があり,様々な躓きの一因となっていることはよく知られている。本報告は,その評価を学習支援に活かす方法について,見立て描画を事例として紹介する。筆者は,教育支援を計画するために,定型発達との相違といった定量的分析ばかりでなく,その内容に着目した定性的分析による評価も必要であると考えている。そのため,慎重なプランニングを「前もって適切な連鎖的行為(目標達成に近づくための操作)を十分に考える」と捉え,課題を遂行する前に,十分に考えるという態度的特質(熟慮性)と,その内容が適切な連鎖的行為(目標達成に近づくための操作)であったかという内容的特質(予期性)に分けた評価を試みた。このような方法によって,特別支援学校高等部に在籍する生徒7名の見立て描画の制作過程を分析したところ,2名は熟慮性が高いものの予期性が低く,5名はその両方とも低かった。これに基づき,予期性の低い生徒に対し,その促進を目的とした見立て方略(素材の構成方法)の支援を行った。また,両方とも低い生徒には見立て方略に加え,見立ての構想(テーマの解釈と構図を練ること)を促すように働きかけた。支援後の制作では,7名のうち5名が見立てにデザイン性や物語性の加味された作品をつくることができた。このことから,認知機能の評価はその内容的特質に焦点を置いた分析を含めると,支援に有効なのではないかと考える。
学校適応から見たAD/HD生徒への
支援と課題
宇野宏幸(兵庫教育大学大学院特別支援教育コーディネーターコース)
藤野光裕(姫路市総合教育センター)
中学校に入学すると,生徒は自身の思春期の発達課題に直面するとともに,学校環境が大きく変わることでの戸惑いを経験する。最近では,「中一ギャップ」と呼ばれることもある。教科担任制,学習(知識)量の増大,部活動への参加,制服の着用など小学校では馴染みのなかった学校環境へ適応していくことが求められる。
AD/HD生徒を考えた場合,担当教師によって対応が異なることでの困惑,教科学習に考える内容が多くなることへの抵抗,部活動で得意を活かせる一方でチームプレーの苦手さなどへの支援や配慮が期待される。また,教師や親との人間関係が損なわれやすいこと,学習への意欲が削がれがちとなることや自己肯定感の低下を考慮していくことも重要である。
今回は,小学校では担任の理解のもとで適切な支援・配慮がさりげなく実施されていたが,中学校入学後に問題が顕在化したAD/HD生徒について,アセスメント情報ならびに学校適応感(教師との関係,学習への意欲,部活動への意欲,情緒的安定性(自己肯定感),家族との関係)との関連性において,どのような支援ニーズがあったのか振り返って考えてみたい。さらに,学校システムにおける情報共有,学校?保護者連携のあり方等についても考察する。
認知特性と学校適応スキルに基づいた
評価と支援計画の立案
熊谷亮(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)
知的・発達障害児への支援において原因とされる障害が特定されたからといって,短絡的にサポートすべき内容が導き出されるのではなく,子どもの困り感や生じている問題への対応が重要となる。そのためには,認知機能のアセスメントに加え,生活習慣,社会性,行動コントロールなど多角的な領域におけるおのおのの適応スキルの獲得・到達度をプロフィールという形で把握し,また意欲,集中力,興味関心の偏り,多動性・衝動性,心気的な訴えなど学校生活における不適応の実態から発達支援のための支援タイプと支援レベルを特定することが重要である。また,支援レベルには「一時的~長期的」という時間軸と「限定的~全面的」という支援の範囲を特定することも重要となる。ただ,アセスメントにおいては短所だけでなく,本人の長所も導き出す必要がある。そして,苦手な面は改善にむけて,得意な面は一層促進するための支援目標と手立てを考えるかをアセスメントすることが重要である。
アセスメントからサポートを展開する際には,本人が苦戦している部分の中で,限られた学校生活の中で優先性・緊急度の観点から,または本人や保護者の困り感から実施可能な数だけ抽出して,支援目標を設定する必要がある。本シンポジウムでは,WISC-Ⅳなどの知能検査による認知特性の評価と学校適応スキル尺度であるASIST学校適応スキルプロフィールによる適応行動の評価に基づいたアセスメントと支援計画立案のあり方について討論したい。
〔指定討論〕
アセスメント結果のフィードバック
小島道生(岐阜大学教育学部)
近年,発達障害・知的障害児を対象とした様々な尺度が開発されてきている。効果的な支援へとつなげるためには,アセスメントが不可欠であり,数多く存在する心理尺度のなかから,目的に即した尺度を選択して検討することが大切になろう。
そして,効果的な支援につなげるためには手続きに基づき適切に実施するだけでなく,結果の解釈や結果の伝え方がより一層重要になろう。したがって,それぞれの話題提供を踏まえて,単にアセスメントの実施にかかわる現状や課題だけでなく,解釈や結果の伝え方などの在り方についても議論を深めていきたいと考えている。
また,思春期・青年期以降になると発達障害・知的障害児の自己理解が支援においても重要になることが多い。これは,心理検査の結果を,本人にどのようにフィードバックするのかということとも関係する。また,本人が心理検査の結果について教えて欲しいと主張することもあろう。したがって,本人に対する心理検査の説明や結果の伝え方の在り方についても,話題提供を踏まえつつ検討していきたいと考えている。