[JD07] 巡回相談における効果的な連携を考える
多職種協働および他機関,他制度との連携
Keywords:巡回相談, 特別支援, 多職種協働
企画趣旨 石本雄真(立命館大学)
小中学校教員に対する調査(ベネッセ教育総合研究所,2010)では,特別な支援が必要な児童・生徒への対応が難しいという悩みについて,75%以上がそういった悩みを感じると回答している。そうした状況の中,外部の専門家による学校園への特別支援に関する巡回相談の重要性は高まっているといえる。巡回相談のあり方は自治体によってさまざまであるが,共通点として対象児を直接指導せずコンサルテーションを活動の中心とするということがある(三山,2011)。つまり,巡回相談の基本としては,巡回相談員によるコンサルテーションによって学校教員が対象児へのかかわり方や意識を変容させることによって対象児を支援するという形となるが,巡回相談を担う職種によってコンサルテーション内容の得手不得手が生じることがある。このため,さまざまな専門を背景とする巡回相談員が協働することで,より充実したコンサルテーションを実施することが可能になると考えられる。また,実際には学校教員だけで対象児を支援することが困難な場合があり,学校外の専門家や他制度の利用を必要とする場合も多い。
浜谷(2006)は巡回相談における教育実践への支援をモデル化し,その中では学校外の専門機関との連携を円滑にしたり強化したりすることが含まれている。特に関係者が参加するカンファレンスによって共同的に関与していくことがその方法として重要視されているが,現実的には連携が必要な専門機関は多岐にわたり,関係者全員が参加するカンファレンスの開催は非常に難しい。また,浜谷(2006)はこのモデルに沿って12巡回相談事例を分析しているが,巡回相談を受けた担任やコーディネーターが,学校外の専門機関との連携を促すという支援機能を評価しているものはわずか2事例のみとなっており,学校外の専門機関との連携を促すといった支援の難しさが示されている。
これまでも巡回相談に関する分析はいくつかみられるが(芦澤・浜谷・田中,2008;三山,2011),多くは多職種協働による巡回相談や学校外の専門機関や他制度との連携について言及されておらず,どのような形の連携があり,それによってどのような利点があるのか,また課題としてはどのようなことがあるのかといったことについては議論が深まっていない。本シンポジウムでは幼稚園から高校までを対象とした巡回相談において,多職種協働による巡回相談および,学校外の専門機関や他制度との連携を促進する方法について検討を行うため,具体的な連携のあり方やそれを支えるシステム,連携の利点と課題について議論を深めたい。
巡回相談における他機関との連携事例
島並友香(伊丹市立総合教育センター)
巡回相談に挙げられる事例によっては,他機関や他職種との連携の必要性が生じる場合がある。
1つ目の例として,巡回相談員が発達相談員に発達検査を依頼する場合が挙げられる。巡回相談における集団の中での観察だけでは見立てが難しい場合,伊丹市の巡回相談では基本的に巡回相談時に検査によるアセスメントを実施することはないため,発達相談員に発達検査を依頼することがある。具体的には,「ひらがなが覚えられない」という主訴での巡回相談であっても,対象児が小学校低学年の場合,全体的な知的発達の遅れから生じているのか,全体的な遅れはないが,音韻処理,視覚的な処理の苦手さを持つことから生じているのか,見分けがつきにくい場合がある。コミュニケーションに苦手さが無い児童であると,限られた場面の観察と聞き取りだけの情報で,全体的な知的発達の様子はわかりにくい。このような場合に,教育センターの発達相談員に発達検査を依頼し,その結果を用いてその子の状態に応じた個別の支援につなげる。
2つ目の例として,前述のような流れで個別の支援を行う際に,通級指導につなげる場合が挙げられる。伊丹市では,担任が個別の支援を行う場合もあるが,今後は積極的な通級指導の活用が期待されている。通級指導を開始する場合には,巡回相談員と通級指導担当教員が連携して指導目標や指導内容を検討することになっている。
3つ目の例として,福祉との連携が挙げられる。家庭環境が厳しく,学校の最大限できる良心的な対応でも行き詰ってしまう場合,福祉との連携が必要となる。巡回相談員を経由せずに,学校から福祉につながるケースも多いものの,発達的な課題を抱える児童生徒が対象であるという巡回相談員の見立てがあった上で福祉につながる方が,幅広い支援を受けることができる可能性がある。このような場合はSSWに依頼し,子ども福祉課とつないでもらうこととなる。その上で,担当教員,巡回相談員も含めたケース会議を持ち,善後策について協議を行う。
ここで挙げた例の他にも,学校内外のサポートとつなぐことが支援として有効な場合は多く生じる。巡回相談ではそのような学校内外のサポートとつなぐ役割も担っている。
巡回相談を担うチーム内部での多職種協働
山根隆宏(奈良女子大学)
巡回相談とは保育者や教員に対して,対象となる児童生徒の対応や指導に関して,それとは別の専門職が助言等のコンサルテーションを行うものである。その専門職とは,多様な職種が考えられるが,保育場面に限ると心理職が担っていることが多く(浜谷,1990),その他には医師やケースワーカー,保育士,療育センター職員などが挙げられる(鶴,2013)。同様に小中高などの特別支援教育でも,巡回相談は心理職だけでなく教育委員会の職員,特別支援学校の教員,通級指導教室の担当教員,言語聴覚士などが担っていると思われる。このように巡回相談には多様な専門職が携わっている。これらの専門家は発達臨床や特別支援教育に関する知識と技能等の専門性を共有しながらも,得意とする児童生徒が抱える問題や障害に関する知識や技能は異なり,各々が強みといえる固有の専門性をもつといえる。多様な専門職がチームとして巡回相談をおこなう場合,それぞれの専門職が固有にもつ強みを活かしながら協働することが求められる。例えば,知的障害やダウン症などの障害のある児童生徒については,特別支援学校の教員がもつ経験や支援のノウハウなどが大いに役立つかもしれない。あるいは,発語や構音に問題がみられる児童生徒については言語聴覚士の専門性が役立つかもしれない。さらには,アセスメントの視点に関しても,専門職の立場によって個人や学級集団,学校組織など,どの水準でアセスメントを行うのかも得意とするものは異なるだろう。しかしながら,こういったチームとして巡回相談をおこなう際の多職種の連携については十分に検討されているとは言いがたい。
今回の発表では,筆者が心理職としての立場で巡回相談に携わった経験をもとにして,次の2点について考える機会としたい。一つは筆者の経験から巡回相談で心理職がその他の専門職である巡回相談メンバーから期待される役割を紹介し,巡回相談における心理職の専門性について検討する。二つ目は多職種で巡回相談を実施した事例から,心理職からみた場合の巡回相談における多職種の固有の専門性について考える。以上から巡回相談における効果的な多職種の連携について考えたい。
多職種協働による巡回相談および学校外の専門機関や他制度との連携を支える巡回相談システム
杉本浩美(伊丹市教育委員会)
伊丹市には,県立特別支援学校(知的障害)と市立特別支援学校(肢体不自由)があり,特別支援教育が本格実施された平成19年度以前から,それぞれが地域支援事業として市内の学校園で巡回相談を実施してきた。また,市立総合教育センターも,教育相談を実施したケースの中で学校との連携が必要なケースについて巡回相談を実施してきた。平成20年度からは,市教育委員会が主催して巡回相談調整会議を開催し,巡回相談に関する情報交換を行って各機関の連携を図り,翌21年度から,市教育委員会が市内の学校園からの巡回相談の要請の窓口になり,巡回相談担当校・機関の専門性や相談の継続性を考慮して相談担当を決定している。また,市内の小中学校に配置された通級指導教室担当者も必要に応じて巡回相談を担当することになった。
このように市教育委員会が相談内容や各学校園の状況に応じて相談機関を決定することにより,より効果的な巡回相談が実施できるようになった。また,新規の相談ケースについては,複数の担当校・機関により相談を実施することにしており,それぞれの専門的な見地,様々な視点からの助言ができるようになっている。異なる校種や機関の担当者がいっしょに一つの相談ケースを担当したり,巡回相談調整会議で相談ケースについて情報交換を行い必要に応じてケース検討等を行ったりすることにより,相談担当者自身のスキルアップにつながっている。
また,伊丹市では巡回相談の担当者が就学指導委員会の委員になっており,巡回相談を実施する中で収集した内容を就学指導に係る教育相談につなげられることや,巡回相談担当者が就学相談対象の児童生徒の状況を把握していることにより,就学後のアフターフォローや一貫した指導支援が行いやすいといった効用がある。
課題としては,巡回相談の実施とその成果についての認知度が上がり,巡回相談の活用が進んでいる一方,巡回相談が実施された個々のケースについて実施された指導や工夫が各校園としての解決力の向上のための知見として蓄積されにくいということがあげられる。今後は,巡回相談を活用した個々の児童生徒についての専門的な支援体制が,校園内支援体制のスキルアップに活用されるよう,コンサルテーションの方法を工夫する必要がある。
小中学校教員に対する調査(ベネッセ教育総合研究所,2010)では,特別な支援が必要な児童・生徒への対応が難しいという悩みについて,75%以上がそういった悩みを感じると回答している。そうした状況の中,外部の専門家による学校園への特別支援に関する巡回相談の重要性は高まっているといえる。巡回相談のあり方は自治体によってさまざまであるが,共通点として対象児を直接指導せずコンサルテーションを活動の中心とするということがある(三山,2011)。つまり,巡回相談の基本としては,巡回相談員によるコンサルテーションによって学校教員が対象児へのかかわり方や意識を変容させることによって対象児を支援するという形となるが,巡回相談を担う職種によってコンサルテーション内容の得手不得手が生じることがある。このため,さまざまな専門を背景とする巡回相談員が協働することで,より充実したコンサルテーションを実施することが可能になると考えられる。また,実際には学校教員だけで対象児を支援することが困難な場合があり,学校外の専門家や他制度の利用を必要とする場合も多い。
浜谷(2006)は巡回相談における教育実践への支援をモデル化し,その中では学校外の専門機関との連携を円滑にしたり強化したりすることが含まれている。特に関係者が参加するカンファレンスによって共同的に関与していくことがその方法として重要視されているが,現実的には連携が必要な専門機関は多岐にわたり,関係者全員が参加するカンファレンスの開催は非常に難しい。また,浜谷(2006)はこのモデルに沿って12巡回相談事例を分析しているが,巡回相談を受けた担任やコーディネーターが,学校外の専門機関との連携を促すという支援機能を評価しているものはわずか2事例のみとなっており,学校外の専門機関との連携を促すといった支援の難しさが示されている。
これまでも巡回相談に関する分析はいくつかみられるが(芦澤・浜谷・田中,2008;三山,2011),多くは多職種協働による巡回相談や学校外の専門機関や他制度との連携について言及されておらず,どのような形の連携があり,それによってどのような利点があるのか,また課題としてはどのようなことがあるのかといったことについては議論が深まっていない。本シンポジウムでは幼稚園から高校までを対象とした巡回相談において,多職種協働による巡回相談および,学校外の専門機関や他制度との連携を促進する方法について検討を行うため,具体的な連携のあり方やそれを支えるシステム,連携の利点と課題について議論を深めたい。
巡回相談における他機関との連携事例
島並友香(伊丹市立総合教育センター)
巡回相談に挙げられる事例によっては,他機関や他職種との連携の必要性が生じる場合がある。
1つ目の例として,巡回相談員が発達相談員に発達検査を依頼する場合が挙げられる。巡回相談における集団の中での観察だけでは見立てが難しい場合,伊丹市の巡回相談では基本的に巡回相談時に検査によるアセスメントを実施することはないため,発達相談員に発達検査を依頼することがある。具体的には,「ひらがなが覚えられない」という主訴での巡回相談であっても,対象児が小学校低学年の場合,全体的な知的発達の遅れから生じているのか,全体的な遅れはないが,音韻処理,視覚的な処理の苦手さを持つことから生じているのか,見分けがつきにくい場合がある。コミュニケーションに苦手さが無い児童であると,限られた場面の観察と聞き取りだけの情報で,全体的な知的発達の様子はわかりにくい。このような場合に,教育センターの発達相談員に発達検査を依頼し,その結果を用いてその子の状態に応じた個別の支援につなげる。
2つ目の例として,前述のような流れで個別の支援を行う際に,通級指導につなげる場合が挙げられる。伊丹市では,担任が個別の支援を行う場合もあるが,今後は積極的な通級指導の活用が期待されている。通級指導を開始する場合には,巡回相談員と通級指導担当教員が連携して指導目標や指導内容を検討することになっている。
3つ目の例として,福祉との連携が挙げられる。家庭環境が厳しく,学校の最大限できる良心的な対応でも行き詰ってしまう場合,福祉との連携が必要となる。巡回相談員を経由せずに,学校から福祉につながるケースも多いものの,発達的な課題を抱える児童生徒が対象であるという巡回相談員の見立てがあった上で福祉につながる方が,幅広い支援を受けることができる可能性がある。このような場合はSSWに依頼し,子ども福祉課とつないでもらうこととなる。その上で,担当教員,巡回相談員も含めたケース会議を持ち,善後策について協議を行う。
ここで挙げた例の他にも,学校内外のサポートとつなぐことが支援として有効な場合は多く生じる。巡回相談ではそのような学校内外のサポートとつなぐ役割も担っている。
巡回相談を担うチーム内部での多職種協働
山根隆宏(奈良女子大学)
巡回相談とは保育者や教員に対して,対象となる児童生徒の対応や指導に関して,それとは別の専門職が助言等のコンサルテーションを行うものである。その専門職とは,多様な職種が考えられるが,保育場面に限ると心理職が担っていることが多く(浜谷,1990),その他には医師やケースワーカー,保育士,療育センター職員などが挙げられる(鶴,2013)。同様に小中高などの特別支援教育でも,巡回相談は心理職だけでなく教育委員会の職員,特別支援学校の教員,通級指導教室の担当教員,言語聴覚士などが担っていると思われる。このように巡回相談には多様な専門職が携わっている。これらの専門家は発達臨床や特別支援教育に関する知識と技能等の専門性を共有しながらも,得意とする児童生徒が抱える問題や障害に関する知識や技能は異なり,各々が強みといえる固有の専門性をもつといえる。多様な専門職がチームとして巡回相談をおこなう場合,それぞれの専門職が固有にもつ強みを活かしながら協働することが求められる。例えば,知的障害やダウン症などの障害のある児童生徒については,特別支援学校の教員がもつ経験や支援のノウハウなどが大いに役立つかもしれない。あるいは,発語や構音に問題がみられる児童生徒については言語聴覚士の専門性が役立つかもしれない。さらには,アセスメントの視点に関しても,専門職の立場によって個人や学級集団,学校組織など,どの水準でアセスメントを行うのかも得意とするものは異なるだろう。しかしながら,こういったチームとして巡回相談をおこなう際の多職種の連携については十分に検討されているとは言いがたい。
今回の発表では,筆者が心理職としての立場で巡回相談に携わった経験をもとにして,次の2点について考える機会としたい。一つは筆者の経験から巡回相談で心理職がその他の専門職である巡回相談メンバーから期待される役割を紹介し,巡回相談における心理職の専門性について検討する。二つ目は多職種で巡回相談を実施した事例から,心理職からみた場合の巡回相談における多職種の固有の専門性について考える。以上から巡回相談における効果的な多職種の連携について考えたい。
多職種協働による巡回相談および学校外の専門機関や他制度との連携を支える巡回相談システム
杉本浩美(伊丹市教育委員会)
伊丹市には,県立特別支援学校(知的障害)と市立特別支援学校(肢体不自由)があり,特別支援教育が本格実施された平成19年度以前から,それぞれが地域支援事業として市内の学校園で巡回相談を実施してきた。また,市立総合教育センターも,教育相談を実施したケースの中で学校との連携が必要なケースについて巡回相談を実施してきた。平成20年度からは,市教育委員会が主催して巡回相談調整会議を開催し,巡回相談に関する情報交換を行って各機関の連携を図り,翌21年度から,市教育委員会が市内の学校園からの巡回相談の要請の窓口になり,巡回相談担当校・機関の専門性や相談の継続性を考慮して相談担当を決定している。また,市内の小中学校に配置された通級指導教室担当者も必要に応じて巡回相談を担当することになった。
このように市教育委員会が相談内容や各学校園の状況に応じて相談機関を決定することにより,より効果的な巡回相談が実施できるようになった。また,新規の相談ケースについては,複数の担当校・機関により相談を実施することにしており,それぞれの専門的な見地,様々な視点からの助言ができるようになっている。異なる校種や機関の担当者がいっしょに一つの相談ケースを担当したり,巡回相談調整会議で相談ケースについて情報交換を行い必要に応じてケース検討等を行ったりすることにより,相談担当者自身のスキルアップにつながっている。
また,伊丹市では巡回相談の担当者が就学指導委員会の委員になっており,巡回相談を実施する中で収集した内容を就学指導に係る教育相談につなげられることや,巡回相談担当者が就学相談対象の児童生徒の状況を把握していることにより,就学後のアフターフォローや一貫した指導支援が行いやすいといった効用がある。
課題としては,巡回相談の実施とその成果についての認知度が上がり,巡回相談の活用が進んでいる一方,巡回相談が実施された個々のケースについて実施された指導や工夫が各校園としての解決力の向上のための知見として蓄積されにくいということがあげられる。今後は,巡回相談を活用した個々の児童生徒についての専門的な支援体制が,校園内支援体制のスキルアップに活用されるよう,コンサルテーションの方法を工夫する必要がある。