[JE08] 特別支援教育における学校内パニックの対応
予防システムとパニック中の対応スキル
Keywords:特別支援教育, パニック, 支援介助法
【企画の趣旨】
特別支援教育の施行により通常学級においても発達障がいのある児童生徒への支援方法が注目されている。小野他(2013)にれば、教員が支援場面の中で最も困る場面としてパニック(特に逃走行動)を挙げていることを指摘した。 Anderson(2012)は、自閉症スペクトラム障害をもつ子どものいる家庭1218世帯を対象に逃走行動に関する調査を実施している。その結果、約半数が1回以上の逃走を試みていることがわかった。
また調査から、逃走行動の結果「心配になるほど長時間にわたり行方がわからなくなる(53%)」、「逃走時に交通事故にあう危険があった(65%)」、「溺れる危険があった(24%)」、「警察から連絡をうけた(35%)」など、逃走行動によって子どもがハイリスクな状況に晒されていた。こうした研究からも理解できるように、パニックとしての逃走は、子どもを危険状態に陥らせるものであり、パニックの背景にある子どもの心理に共感し、効果的に介入することが望まれる。
通常、こうしたパニックへの対応は「環境調整→パニック行動→行動分析→環境調整・・」というフィードバックシステムが考えられている。しかし、流動的な教育現場においてあらかじめ環境を調整しきることは不可能である。加えて、応用行動分析の観点からパニックを分析した場合でも、児童生徒とであった当初や新しい環境ではパニックを誘発した刺激の特定は難しく、少なくとも数回はパニックが生じてしまう。すなわち、学校現場においては①可能な限り迅速にパニックが生じないための環境づくり②パニックが生じた際の誘導法③パニック行動が生じた際、パニック発生のメカニズムを分析し、児童生徒と歩みをそろえながらパニック再発防止に取り組めるパニック行動の分析システムが求められる。
パニックに関する多くの書物や指導内容を分析すると、①の環境の構造化についてはすでに多くの知見が集積されている一方で、特に②パニックが生じた際の誘導法の関する知見はほとんどなされていない。例えば「児童生徒がパニックを起こしたら静かな場所へ移動させる」などの内容であり、『どのようにして移動させるか』ということについては記載されていない。パニックの制止は強制力の行使につながるが、より大きなリスクを避けるためやむを得ず児童生徒に強制力を使用した教員も多い(斎藤他、2013)
③のパニック発生のメカニズム分析においては、学校現場を重視すると物理的な環境調整と同時に言語的・非言語コミュニケーションの齟齬がパニックの原因になることが多い。田実(2013)によると、会話における前後の文脈や状況の理解など、社会的な文脈を理解してその理解を前提に言語等のコミュニケーション行動を起こすことが困難であるとも言われている(田実、2008)。このようなコミュニケーション行動の拙さが発達障がいのある人のパニック行動の原因の一つとなっており、円滑でスムーズなコミュニケーション行動を進めるためにもパニック行動をコントロースするスキルを身につける必要性が指摘されている(田実ら、2009)。
つまりパニック予防は環境が調整されるだけでなく、児童生徒がパニック発生の振り返り学習を通じて理解を深め、そのうえで障がいの特性に応じた予防行動が自ら行えるようになることが望ましい。しかしコミュニケーションを重視しながらパニックの発生理解と振り返り学習と予防行動の学習までを一貫したシステムに基づいて児童生徒が身につけることができる方法はあまり提唱されていない。本シンポジュウムではこのシステムとして注目される「パニック対応学習支援モデル」を紹介し、そのシステムの効果と汎用性について事例に基づき検証したい。
今回のシンポジウムでは、教育現場におけるパニック行動に関する調査結果を報告するとともに、パニック対応学習支援モデルによるパニックへの予防的対応と、支援介助法を用いたパニック行動への具体的な対応を紹介する。最後に、さらにより良いパニック行動への支援方法を参加者と共有化できれば幸いである。
【基調報告】学校現場でパニックは起こっているのか -斎藤富由起
特別支援教育の施行とともに障がいのある児童生徒の理解と支援法が模索されている。このテーマの一つにパニック対応がある。
例えば特別支援学校や家庭内で自傷他害を伴うパニックは生じていたはずだが、それはどのように抑制されてきたのだろうか。強制力の行使が児童生徒の自尊心を傷つけることは理解しつつも、より大きなリスクを避けるため、やむを得ず強制力が使用される他、対応方法がなかったのではないか。
また重篤なパニックではないにしても、「保健室で立ち上がらなくなってしまう」、「学外学習中、交通量の激しい道路に飛び出してしまう」、「見境のつかない喧嘩になってしまう」などの「対応が困難」なパニックは多い。パニック予防は特別支援教育の中で無視できない領域と言える。
そこでパニックの基礎事実を把握するため、実際、学校現場ではどのくらいパニックが経験されているのか。またそのパニックの内容はどのようなものかについて、教員を対象としたデータを基調報告として紹介する。
【話題提供1】パニック対応学習支援モデル(PRM)とは‐田実潔
発達障がいのある人のパニック行動への対応は、振り返り学習が有効であることと視覚刺激を利用した情報機器(アシスティブテクノロジー)が有効であることが指摘されている。そこで振り返り学習、特にパニック行動の振り返り学習を簡易に支援することができる教材として、パニック行動対応学習支援モデル(Panic Reflection Model、以下PRM)を開発されている(田実ら、2013)。
PRMの基本的な考え方は、パニック行動の契機となった刺激に対応する反応行動とその後の連鎖行動のそれぞれについて自分が選択した行動、つまりパニック行動に至る行動以外の選択肢があることに気づかせることにある。実際に起こしたパニック行動を応用行動分析的観点でスモールステップに分析し、それぞれのスモールステップで実際に行った(選択した)行動以外に選択可能と思われる行動を選択肢として示すことで、最終的にはパニック行動に至らない行動選択があることを学ばせる方法である。
発達障がいのある人でパニック行動を起こした場合に、自分のパニック行動(Panic)を振り返り(Reflection)、PC上で自分のパニック行動への対応を学習支援する一種の教材(Model)である(田実ら、2010)。
本シンポジュウムでは、パニック対応学習支援モデル(PRM)のシステムを紹介し、実践例を検討することにより、PRMの効果と汎用性について議論を深めたい。
【話題提供2】児童生徒がパニックを起こしている最中の誘導法 -互いに傷つかず、痛みを与えないためのスキル- 廣木道心
パニックへの対応上の困難多くは、「パニックを起こしている最中の具体的な対応」である。暴れている子どもを制止する際に、どのようにすれば子どもを身体的にも心理的にも傷つけることなく制止することができるのか。その方法が実際の教育現場において求められている。
この際に重要な点は、「教員自身も傷つかずに対応が可能である」ということである。子どものパニックを制止する際に、図らずも強制的な力で押さえつけざるを得ない状況となった時、制止する側の教員が抵抗にあい、ケガをしたケースも報告されている。教員がケガなどを負うことはパニックを起こした子ども自身にも心理的負担を与えている。
この課題に対し、支援介助法はパニック時の具体的な対応方法を提示する。支援介助法とは「知的障がい児・者のパニック時の誘導法として開発された介助技術」であり、このスキルは知的障がい児・者だけを対象とせず、学校内で生活する衝動性の高い生徒やパニックを起こす生徒にも応用が可能である。
当日はパニックからの誘導スキルを体験学習するとともに、会場から実際に学校現場で介助に困った事例を集め、対応方法を検証したい。
特別支援教育の施行により通常学級においても発達障がいのある児童生徒への支援方法が注目されている。小野他(2013)にれば、教員が支援場面の中で最も困る場面としてパニック(特に逃走行動)を挙げていることを指摘した。 Anderson(2012)は、自閉症スペクトラム障害をもつ子どものいる家庭1218世帯を対象に逃走行動に関する調査を実施している。その結果、約半数が1回以上の逃走を試みていることがわかった。
また調査から、逃走行動の結果「心配になるほど長時間にわたり行方がわからなくなる(53%)」、「逃走時に交通事故にあう危険があった(65%)」、「溺れる危険があった(24%)」、「警察から連絡をうけた(35%)」など、逃走行動によって子どもがハイリスクな状況に晒されていた。こうした研究からも理解できるように、パニックとしての逃走は、子どもを危険状態に陥らせるものであり、パニックの背景にある子どもの心理に共感し、効果的に介入することが望まれる。
通常、こうしたパニックへの対応は「環境調整→パニック行動→行動分析→環境調整・・」というフィードバックシステムが考えられている。しかし、流動的な教育現場においてあらかじめ環境を調整しきることは不可能である。加えて、応用行動分析の観点からパニックを分析した場合でも、児童生徒とであった当初や新しい環境ではパニックを誘発した刺激の特定は難しく、少なくとも数回はパニックが生じてしまう。すなわち、学校現場においては①可能な限り迅速にパニックが生じないための環境づくり②パニックが生じた際の誘導法③パニック行動が生じた際、パニック発生のメカニズムを分析し、児童生徒と歩みをそろえながらパニック再発防止に取り組めるパニック行動の分析システムが求められる。
パニックに関する多くの書物や指導内容を分析すると、①の環境の構造化についてはすでに多くの知見が集積されている一方で、特に②パニックが生じた際の誘導法の関する知見はほとんどなされていない。例えば「児童生徒がパニックを起こしたら静かな場所へ移動させる」などの内容であり、『どのようにして移動させるか』ということについては記載されていない。パニックの制止は強制力の行使につながるが、より大きなリスクを避けるためやむを得ず児童生徒に強制力を使用した教員も多い(斎藤他、2013)
③のパニック発生のメカニズム分析においては、学校現場を重視すると物理的な環境調整と同時に言語的・非言語コミュニケーションの齟齬がパニックの原因になることが多い。田実(2013)によると、会話における前後の文脈や状況の理解など、社会的な文脈を理解してその理解を前提に言語等のコミュニケーション行動を起こすことが困難であるとも言われている(田実、2008)。このようなコミュニケーション行動の拙さが発達障がいのある人のパニック行動の原因の一つとなっており、円滑でスムーズなコミュニケーション行動を進めるためにもパニック行動をコントロースするスキルを身につける必要性が指摘されている(田実ら、2009)。
つまりパニック予防は環境が調整されるだけでなく、児童生徒がパニック発生の振り返り学習を通じて理解を深め、そのうえで障がいの特性に応じた予防行動が自ら行えるようになることが望ましい。しかしコミュニケーションを重視しながらパニックの発生理解と振り返り学習と予防行動の学習までを一貫したシステムに基づいて児童生徒が身につけることができる方法はあまり提唱されていない。本シンポジュウムではこのシステムとして注目される「パニック対応学習支援モデル」を紹介し、そのシステムの効果と汎用性について事例に基づき検証したい。
今回のシンポジウムでは、教育現場におけるパニック行動に関する調査結果を報告するとともに、パニック対応学習支援モデルによるパニックへの予防的対応と、支援介助法を用いたパニック行動への具体的な対応を紹介する。最後に、さらにより良いパニック行動への支援方法を参加者と共有化できれば幸いである。
【基調報告】学校現場でパニックは起こっているのか -斎藤富由起
特別支援教育の施行とともに障がいのある児童生徒の理解と支援法が模索されている。このテーマの一つにパニック対応がある。
例えば特別支援学校や家庭内で自傷他害を伴うパニックは生じていたはずだが、それはどのように抑制されてきたのだろうか。強制力の行使が児童生徒の自尊心を傷つけることは理解しつつも、より大きなリスクを避けるため、やむを得ず強制力が使用される他、対応方法がなかったのではないか。
また重篤なパニックではないにしても、「保健室で立ち上がらなくなってしまう」、「学外学習中、交通量の激しい道路に飛び出してしまう」、「見境のつかない喧嘩になってしまう」などの「対応が困難」なパニックは多い。パニック予防は特別支援教育の中で無視できない領域と言える。
そこでパニックの基礎事実を把握するため、実際、学校現場ではどのくらいパニックが経験されているのか。またそのパニックの内容はどのようなものかについて、教員を対象としたデータを基調報告として紹介する。
【話題提供1】パニック対応学習支援モデル(PRM)とは‐田実潔
発達障がいのある人のパニック行動への対応は、振り返り学習が有効であることと視覚刺激を利用した情報機器(アシスティブテクノロジー)が有効であることが指摘されている。そこで振り返り学習、特にパニック行動の振り返り学習を簡易に支援することができる教材として、パニック行動対応学習支援モデル(Panic Reflection Model、以下PRM)を開発されている(田実ら、2013)。
PRMの基本的な考え方は、パニック行動の契機となった刺激に対応する反応行動とその後の連鎖行動のそれぞれについて自分が選択した行動、つまりパニック行動に至る行動以外の選択肢があることに気づかせることにある。実際に起こしたパニック行動を応用行動分析的観点でスモールステップに分析し、それぞれのスモールステップで実際に行った(選択した)行動以外に選択可能と思われる行動を選択肢として示すことで、最終的にはパニック行動に至らない行動選択があることを学ばせる方法である。
発達障がいのある人でパニック行動を起こした場合に、自分のパニック行動(Panic)を振り返り(Reflection)、PC上で自分のパニック行動への対応を学習支援する一種の教材(Model)である(田実ら、2010)。
本シンポジュウムでは、パニック対応学習支援モデル(PRM)のシステムを紹介し、実践例を検討することにより、PRMの効果と汎用性について議論を深めたい。
【話題提供2】児童生徒がパニックを起こしている最中の誘導法 -互いに傷つかず、痛みを与えないためのスキル- 廣木道心
パニックへの対応上の困難多くは、「パニックを起こしている最中の具体的な対応」である。暴れている子どもを制止する際に、どのようにすれば子どもを身体的にも心理的にも傷つけることなく制止することができるのか。その方法が実際の教育現場において求められている。
この際に重要な点は、「教員自身も傷つかずに対応が可能である」ということである。子どものパニックを制止する際に、図らずも強制的な力で押さえつけざるを得ない状況となった時、制止する側の教員が抵抗にあい、ケガをしたケースも報告されている。教員がケガなどを負うことはパニックを起こした子ども自身にも心理的負担を与えている。
この課題に対し、支援介助法はパニック時の具体的な対応方法を提示する。支援介助法とは「知的障がい児・者のパニック時の誘導法として開発された介助技術」であり、このスキルは知的障がい児・者だけを対象とせず、学校内で生活する衝動性の高い生徒やパニックを起こす生徒にも応用が可能である。
当日はパニックからの誘導スキルを体験学習するとともに、会場から実際に学校現場で介助に困った事例を集め、対応方法を検証したい。