The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム » 自主企画シンポジウム

高等教育におけるリテラシー(コンピテンシー)の開発

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 401 (4階)

[JF01] 高等教育におけるリテラシー(コンピテンシー)の開発

清水益治1, 沖林洋平2, 森野美央3, 三島知剛4, 藤木大介5 (1.帝塚山大学, 2.山口大学, 3.長崎大学, 4.岡山大学, 5.愛知教育大学)

Keywords:高等教育, リテラシー, コンピテンシー

高等教育は,初等教育や中等教育と比べると,教授する内容や方法に自由度が高い。そこで教授すべき内容の最低基準(ミニマムエッセンス)を設定し,それを共通理解していくことが求められよう。また,中でも保育者や教員の養成という立場を取ると,教授内容や方法に,かなりの制限がかかる。それは,高等教育で教授された内容や方法を元に,初等教育や中等教育が展開されるからである。本シンポジウムでは,このような高等教育に関して,リテラシー,保育者養成及び教員養成の視点から,教授すべき内容の最低基準やその教授法を提案していただく。その後,指定討論として,3つの視点に明るい藤木氏に議論の口火を切っていただく。フロアーの方々を巻き込んだ議論を展開し,「学習科学」の視点からまとめていきたい。

高次リテラシー養成
山口大学 沖林洋平
高次リテラシーとは,近年,高等教育での育成が求められるようになった,学生の資質,能力である。具体的には,文部科学省が提唱している「言語活用力」や,経済産業省が提唱している「汎用的技能(ジェネリックスキル)」の中核をなすものであると考えられる。日本学術会議答申「大学教育の分野別質保証の在り方について」(2010)にもあるように,大学の学部教育による質的保証の指標の1つに「学士力」が組み込まれるようになった。学士力は,1.知識・理解,2.汎用的技能,3.態度・志向性,4.統合的な学習経験と創造的思考力,によって構成される。学士力を大学卒業者が有する資質としての学士力を総合的な言語活用能力であると位置づけると,学士力は,学問リテラシーあるいは研究リテラシーといえる。楠見(2011)は,大学学部教育におけるリテラシーの階層構造を提案しており,学部専門教育で育成する学問リテラシーや読解リテラシーを,高次リテラシーであるとしている。学士力における汎用的技能,総合的経験には,適切な推論や論理的な文章理解などの包括的読解力が含まれることを踏まえると,高次リテラシーの育成は,大学教育の現代的課題であるといえる。
高次リテラシーの育成については,多くの大学で,様々なカリキュラムや特色ある取り組みがなされている。その理由の一つとして,高次リテラシーの育成が高等教育における喫緊の課題であると位置づけられていることが挙げられるだろう。例えば,教育学部における教員養成や保育者養成課程において,様々な実践活動が取り入れられるようになっているのも,高次リテラシーの育成に寄与すると考えられるだろう。では,なぜ近年,高等教育において,高次リテラシーの育成が重要だと位置づけられるようになったのだろうか。本発表では,高次リテラシーの構成要素の一つとしての批判的思考力に注目したい。一方,批判的思考は,信念やバイアスなどの意思決定などの思考を規定する要因として近年研究が進められており(S?, West &Stanovich, 1999; Toplak & Stanovich, 2002),信念や確証バイアスに左右されない判断を下すことに対する批判的思考の重要性が示唆されている。心理学の専門的教育課程は,一般的に実験計画法やさまざま統計法の理論と実践の学習段階と,実験や調査の実施から論文執筆に至るまでの実践段階により構成される。批判的思考の「規準に参照すること」や「反省的」という過程は,自らのバイアスにとらわれることなく多様な情報に関して多面的な思考に基づいた判断を可能にする過程に対応する。
本研究における高次リテラシーとしての批判的読解力とは,単なる目的に応じた資料内容の理解に留まらない,バイアスにとらわれずにマスメディアやインターネット上の情報や自らの既有知識を参照して,高度な専門的知識や能力に基づいて,多様な情報の統合,識別に関する総合的能力であるといえる。
本発表では,高次リテラシーの構成要素と批判的思考との関連について,高等教育における専門職養成課程への寄与について議論したいと考える。

制限の中で保育者コンピテンシーを育てるには?
長崎大学 森野美央
平成20年に告示された幼稚園教育要領及び保育所保育指針では,幼児教育が担う役割や機能の深化・拡大というねらいの下,保育者の自己評価がこれまで以上に重視されている。例えば,保育所保育指針「第4章 保育の計画及び評価」では,「自らの保育実践の振り返りや職員相互の話し合い等を通じて,専門性の向上及び保育の質の向上のための課題を明確にするとともに,保育所全体の保育の内容に関する認識を深めること。」という記述がみられる。保育者が自己の保育を省み,よりよい保育のあり方を探るためには,何よりも保育者集団の同僚性や協働性の中で他者と交流し,新たな視点を見出すことが重要である (安藤, 2008)。
一方,保育現場では,仕事をやめたいと思う理由のトップに人間関係があがり(高見ら, 1994),園内の人間関係の問題が精神的健康に影響する (西坂, 2002) など,保育者集団内における人間関係の難しさが浮き彫りにされている。また,保育者養成校在学時には,専門職に必要な力量があるとみなされていた学生が,就職して間もなく,年配教職員とうまく交流できないことが原因で離職したという話を耳にすることも多い。人間関係に悩む保育者の姿からは,「卒業後に必要とされる他者との交流力」を養成校で十分育てきれていない現状がうかがえる。
保育者養成のカリキュラムを見ると,「保育相談支援」をはじめ,保育者として他者をいかに支援するかを学ぶ科目はあるが,保育者集団において,他者とどのように同僚性や協働性を築いていくかを学び,集団内で必要な交流力を身につけることに焦点をあてた科目は見あたらない。教授すべき内容に含まれていない(が保育現場では必要とされる)交流力を,限られた時間やスタッフで育てるには,どのような方法が有効だろうか。
本話題提供では,平成20年度文部科学省の大学改革推進事業に選定された,「異世代交流力をもつ保育者育成プログラム:IT活用で在学生・卒業生間の学び合いを展開させる取組」を,筆者がかかわった一事例として紹介する。このプログラムは,保育現場でさまざまな年代の教職員と交流し,卒業後もたくましく成長していける保育者を育てようとしたものである。取組の成果や課題をたたき台に,高等教育で交流力を育てるにはどのような方法が有効かについて議論したい。

安藤節子 (2008). 保育の質の確保と保育内容の評価 『発達』No.13 特集 教育要領・保育指針の改訂と保育の実践 ミネルヴァ書房 pp.58-65.
西坂小百合 (2002). 幼稚園教諭の精神的健康に及ぼすストレス, ハーディネス, 保育者効力感の影響 教育心理学研究, 50, 283-290.
高見令英・桐原宏行・徳田克己・横山範子・横山さつき (1994). 保育従事者の職場適応に関する研究 (1) 日本保育学会第47回研究論文集, 638-639.

教職志望学生の授業・教師・子どもイメージに影響を与える学びの場とは―フレンドシップ事業に着目して―
岡山大学 三島知剛
近年,学校が抱える教育課題の多様化・複雑化や教員採用数の増加を受け,教員養成の質保証や即戦力としての教師を求める声が一層強まっていると考えられる。これまで著者は,大学の教員養成における教育実習に着目した研究を行ってきた。教育実習が教師としての力量形成の場として重要であることは周知の事実であり,黒崎(2001)により,実習の意義として「学校教育の実際を総合的・体験的に学ぶこと」「教職への意欲の喚起と使命感の自覚」「理論と実践の統合を図り,実践的指導力の基礎を形成すること」「基本的な教育技術の習得」「今後の大学での自己の研究課題の発見と探究活動への動機づけ」,の5点が挙げられている。
こういった教育実習の重要性に着目し,著者は教授スキルや教師の熟達化といったことに関連すると考えられる授業観察力に着目した研究や,教育実践に影響すると考えられる授業などのイメージに着目した研究をこれまで行ってきた。そして,教育実習経験によって実習生の授業観察力が向上することや,実習における授業検討会において観察視点増加に向けた認知的サポートと意見表出に向けた情緒的サポートが実習生の授業観察力の向上に必要なこと,実習後に実習生の授業イメージがポジティブに変容すること,などを見出してきた。
しかし,実習生は学習の対象,範囲,時間を任意にコントロールすることができないといった学習の制約を受けている(森下・尾出・岡崎・有元,2010)という知見もあることを踏まえると,教育実習における学びの内実や充実化を検討していくことと同時に,教育実習以外の学びの場にも着目していくことが重要だと考えられる。
このような中,教育実習を補完する取り組みの一つとして着目されているのが,教育実習以外の体験的授業科目である。その一つにフレンドシップ事業がある。これは文科省により政策化された事業で様々な教員養成系大学・学部で実施されている。フレンドシップ事業の取組には様々なものがあると考えられるが,フレンドシップでは学生が主体となって企画を立て,子どもたちを対象に様々な活動を行う。その中で,教育実習とは異なる子どもの様子を見たり,活動を企画運営したりすることを通して多くのことを学んでいることが考えられる。
本発表では,教師の主要な教育実践の一つである授業やその対象となり日々関わる子ども,さらには教師といった事柄に対するイメージに焦点を当てる。そして,フレンドシップ参加度や学年による差異,さらにはフレンドシップ経験とその後の教育実習でのイメージ変容との関係について話題を提供する。