The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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様々な授業に応用可能な批判的思考スキルの教育法

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 504 (5階)

[JF04] 様々な授業に応用可能な批判的思考スキルの教育法

木下直子1, マナロエマニュエル1, シェパードクリス1, チンクラーク2 (1.早稲田大学, 2.ラットガーズ大学)

Keywords:批判的思考, スキルベース, 教育方法

企画趣旨
本シンポジウムの目的は,汎用性の高い批判的思考スキルの枠組み及び教育法を検討することである。
文部科学省の中央教育審議会(2008)によると,「学士力」の1つとして問題解決力,論理的思考力,コミュニケーションスキルなどの汎用性の高い「ジェネリックスキル」の教育が重要視されている。それに伴い,近年様々な教育法が提案されている(Manalo, et al.2013, Sheppard, et al.2013, マナロほか2014,楠見ほか2011など)。
本シンポジウムでは,汎用性の高い批判的思考スキルの枠組みを提案するとともに,日本人英語学習者を対象とした英語教育,日本人及び留学生を対象とした日本語教育,アメリカ人中学生を対象とした理科教育の実践例を紹介する。なお,本シンポジウムは日英の2か国語で進行する。最後に,参加者との質疑応答,議論を予定している。

1.汎用性の高い批判的思考スキルの枠組み
マナロ・エマニュエル
シェパード・クリス
木下 直子
 Manalo et al.(2013)は,大学の学部生を対象に英語教育を通して批判的思考力を測った調査から,批判的思考力は第二言語を通して教えても伸びが確認されることを報告している。その教育法は,タスクベースにもとづいている。
 具体的には以下の通りである(マナロほか2014)。1から順にある話題でルールにあてはめて意見を述べるが,徐々に難易度を挙げ,繰り返すことで定着を図っている。
   話題        ルール
1)好みについて  「意見+理由」
2)無人島への持ち物 「意見+理由+証拠」
3)タイタニック沈没 「意見+理由+証拠の質」
4)社会問題 「意見+理由+授業内に集めた収集データによる証拠」
5)自分の研究 「意見+理由+自分の研究データによる証拠」
 上記1)~5)には,それぞれ以下の3段階の練習方法が展開されている。
第1段階:スキルとしてルールを覚える段階
第2段階:ある文脈を与え,それにルールを
あてはめてみて,理解を確認する段階
第3段階:現実社会で実現しうる場面を設定
し,意味に焦点をあてながら,ルール
を応用する段階
 本シンポジウムの2,3,4の発表は,この枠組みに基づいて行った結果について報告する。

2.タスクベースの批判的思考スキルと教育効果
シェパード・クリス
 批判的思考力には,2つの側面がある。 1つは,先の発表にあった「ルール」に当たるスキルで,分野を問わず,汎用性が高い。もう1つは,「何を」思考するのかというコンテンツである。タスクベースでは,この両側面を同時に行わなければ課題が達成できないため,効果的だと考える。
 本発表では,早稲田大学理工学術院で学部1年生を対象に開講している英語科目「Communication Strategy」の一部であるランキングタスクと教育効果について報告する。
 学部学生45名を対象に,2つのランキングタスクを行った。まず,「無人島への持ち物」として何がよいかについて,複数の選択肢の中から各自がランキングを作成し,ペアで共通のランキング,次にグループで共通のランキングとなるよう交渉し,決定事項をレポートにまとめた。これをプリテストとする。次の授業では,ルールとして「意見+理由+証拠」の形式を教育してから,「無人島に誰を連れていくか」というテーマで先のタスクと同様にランキングタスクを行い,レポートにまとめてもらった。これをポストテストとする。このプリテストとポストテストの伸びを分析した結果,証拠をあげて意見を述べる割合が有意に増えていることがわかった(F(1, 43)=5.331, p=.026, η 2 = .110)。この結果は,タスクベースの教育効果を示唆するものである。

3.効果的な教育法とスキルの汎用性について
マナロ・エマニュエル
 本発表では,大学の英語教育を通して行っている批判的思考スキルの効果的な教育法とその汎用性について検討する。
早稲田大学理工学術院で学部2年生を対象に,英語科目「Concept Building Discussion」を開講している。このコースは,英語だけでなく,批判的評価スキルの育成を目標の1つに掲げている。  
具体的な教育法は,批判的評価スキルに必要な英語表現と言語構成モデル(ルール)を明示的に説明し,タスクベースの練習を行う。タスク遂行中には,表現やルールに関するフィードバックを与える。タスク終了後に,内容をレポートにまとめ,フィードバックするという流れである。
教育効果を確認するため,提出されたレポートの内容をもとに,批判的評価の表現とその言語構成を分析したところ,大部分の学生が言語構成を使えるようになっていた。さらに,日本語でもレポートを課したところ,英語を通して学んだ批判的評価スキルが日本語の言語構成にも影響を与えていたことが明らかになった。
この結果から,批判的評価スキルは,言語形態とは独立したスキルであり,第二言語教育を通して育成することが可能であることがわかる。

4.日本人大学生及び留学生を対象とした批判的思考力の教育法
木下 直子
 近年,学習者の背景や学習環境も多様さを増し, 大学の教室では,日本で生まれ育った学生以外に帰国生や留学生が混在することも珍しくなくなっている。本発表では,このような学習環境で日本語を通して行う批判的思考力の教育方法について検討したい。
Manalo et al.(2013)によると,第二言語の場合,目標言語の学習段階が批判的思考力の表現に影響を及ぼしているという。しかし,批判的思考力をスキルとして捉え,スキル遂行型の教育法を取り入れることで学習成果が得られたと述べている。そこで,スキル遂行型の教育法を取り入れた。
他にも,コンテンツを作る際に次の点に留意している。1)漢字にルビをふる。2)平易な表現(日本語能力試験N2程度)で説明する。3)ルールの表現例を提示する。4)異文化理解を促す話題を用いる。5)学習支援ツールを紹介する。5)類似課題を複数設ける。これは,類似したルールの使用を通して初めてボトムアップ的に応用できるようになるという言語習得理論(Bybee2008)にもとづく。本発表ではこの教育法の教育効果及び今後の課題について述べる。

5.認識基準(Epistemic Criteria)から考える力を学ぶ
チン・クラーク
ダンカン・ラビット
ラインハート・ロン
ディアノフスキー・マイケル
 批判的思考力の効果的な教育法の開発は,とても重要なことである。現在,アメリカの7年生(日本の中学1年に当たる)対象の理科の授業における批判的思考力の教育法に関する研究プロジェクトに携わっている。本発表では,その一連のプロジェクトから研究成果を報告する。
 研究プロジェクトでは,科学的なモデルと証拠により,根拠づけを行うことに焦点を当てている。これらのプロジェクトでは,理科の実験を通して教員が科学の概念の教育と認識的な発達を促しているが,この研究方法には問題点があることがわかってきた。その問題点の1つは,「決定不全(
Underdetermination)」である。それは,理科の授業で,ある2つのモデルから1つを選択するための根拠が得られないことである。次に,分野特有の推論に関するものである。一般的な推論のストラテジーの学習することで,分野特有の推論ができるようになるか。
本発表では,これらの問題点を解決するために認知基準(epistemic criteria)を使い,生徒たちの推論力の育成に有望な教育法を紹介する。「認知基準」とは,推論を使って得た結論を評価するものである。例えば,よい科学の理論は,多くの証拠で説明ができる。よい科学の理論は,簡潔である,などがある。プロジェクトに参加する教員は,生徒たちに次の2点を促す。(1)科学の説明を評価し,証拠を評価するために,自ら認知基準を考えて改善する。(2)実際に,科学の説明と証拠を評価するために,この認知基準を使う。
この方法を使うことにより,生徒の推論力が上がることがわかっている。400名の中学生を対象に行った準実験的研究成果をもとに,認知基準を発達させる効率性について報告する。

参考文献
楠見孝ほか(2011)『批判的思考力を育む-学士力と社会人基礎力の基盤形成‐』有斐閣
マナロ・エマニュエルほか(2014)「第2部 批判的思考の教育8 外国語教育と批判的思考力の育成」『ワードマップ 批判的思考』新曜社
文部科学省中央教育審議会(2008)「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(http://www.mext.go.jp/ b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1217067.htm)
Bybee, J.(2008) ‘Usage-based grammar and second language acquisition’, In P. Robinson & N. C. Ellis(Eds.), Handbook of cognitive linguistics and second language acquisition, Routledge.
Manalo, et al.(2013) ‘Do language structure or language proficiency affect critical evaluation?’ In M. P. M. Knauff, N. Sebanz, & I. Wachsmuth(Ed.), Proceedings of the 35th Annual Conference of the Cognitive Science Society(pp.2967-2972). Austin, Texas: Cognitive Science Society.
Sheppard, et al. (2013) Communication Strategies 2. Tokyo: DTP Publishing.