[PA029] 「主体」を意識すると子どもへの対応はどう変化するのか?
キーワード:子どもの主体性, 保育, 大学生
問 題
幼稚園教育要領や保育所保育指針の中に「主体」という表現が出てくる。例えば,「子どもの主体的な活動」や「子どもの主体としての思いや願い」などである。主体とは「自覚や意志に基づいて行動したり作用を他に及ぼしたりするもの」,あるいは「考えたり,行動した,判断したりといった活動をする主である」という意味を持つ。つまり,要領や指針では,子どもを「意志を持って行動する存在」として捉える視点が示されている。
小倉(2012)は,子どもの「主体性」発揮の重要性について学んだにも関わらず,「集団規範」と「個の主体性」との葛藤場面において,「集団規範」にあわせる方策について言及する学生が多いことを示している。この研究では,「主体性」について学ぶ以前の子どもへの対応がどのようなものであるのかが示されておらず,学生が子どもの「主体性」をどのように受け止められるようになったのかについての理解は不十分である。そこで,本研究では,保育初学者である学生が,子どもを「主体」として意識する前後で,子どもへの対応がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者 京都市内の私立女子大学に通い保育士資格の取得を目指す2年次生31名。調査対象者は保育士資格に関連する科目を学び始めたばかりの学生である。
調査内容 調査対象者に子どもの主体と保育における全体活動との間に葛藤が生じる場面(自作)を提示し,保育者としてどのような対応をするのかについて自由記述で尋ねた。具体的な事例は次のとおりである。
「4歳児クラスのA君は外遊びが大好きです。いつも園庭で元気よく友達と遊んでいます。ある日のこと,担任の保育者が,今日は発表会が近づいてきたので,お歌の練習をします,と言いました。その時,A君は天気が良くて暖かいから,お外で遊びたい,と言いました。確かに,ここ最近は寒かったので,A君の言うこともわかるのですが,担任は発表会が近づいてきているので歌の練習をしようと考えています。」
調査手続き まずはじめに,事例を読んでもらい,対応について自由記述を求めた。その後,保育所保育指針に「主体」という言葉が使用されていることを示すとともに,「主体」の辞書的意味や子どもの主体を重視するとはどのようなことであるのかについて説明をした後,再度,先の事例を読んでもらい,対応について自由記述を求めた。
調査時期 平成26年4月である。
結 果
調査対象者から得られた子どものへの対応方法を大きく3つの内容に分類した。対応1:子どもの主体を受け止める対応。例えば「いつもの時間まで遊ばせる。別の時間に練習する」である。対応2:子どもの主体を一部受け止めるものの,最終的には発表会の練習をさせる。例えば「A君の意見を受け入れ,先生自身も遊びたいよと同意する。でも発表会の練習をしないといけないことをきちんと伝えて,練習が楽しくなるように指導する」。対応3:子どもの気持ちへの配慮などは無く,発表会の練習をさせるもの。例えば,「みんなで協力して練習しないと先生悲しいな」と言う。
事前の対応 対応1が2例,対応2が10例,対応3が19例であった。
事後の対応 対応1が4例,対応2が26例,対応3が1例となった。
考 察
事後の対応では,「子どもの遊びたいという気持ちに配慮する」対応が増えた。これは,子どもの主体を意識したためだと考えられる。しかしながら,その内容は,言葉による受け止めから,実際に遊び時間を確保したり,練習自体を次の日にしてしまうこと,さらには,A君のみを発表会の練習から外すような対応もあり,主体の受け止め方にはばらつきあることが示された。
保育場面においては,1個人の主体だけではなく,多くの子どもたちのそれぞれが主体であること,また,保育士自身の主体も大切であることの理解を促す必要があると考えられる。
※対応の詳細については総会で発表する。
幼稚園教育要領や保育所保育指針の中に「主体」という表現が出てくる。例えば,「子どもの主体的な活動」や「子どもの主体としての思いや願い」などである。主体とは「自覚や意志に基づいて行動したり作用を他に及ぼしたりするもの」,あるいは「考えたり,行動した,判断したりといった活動をする主である」という意味を持つ。つまり,要領や指針では,子どもを「意志を持って行動する存在」として捉える視点が示されている。
小倉(2012)は,子どもの「主体性」発揮の重要性について学んだにも関わらず,「集団規範」と「個の主体性」との葛藤場面において,「集団規範」にあわせる方策について言及する学生が多いことを示している。この研究では,「主体性」について学ぶ以前の子どもへの対応がどのようなものであるのかが示されておらず,学生が子どもの「主体性」をどのように受け止められるようになったのかについての理解は不十分である。そこで,本研究では,保育初学者である学生が,子どもを「主体」として意識する前後で,子どもへの対応がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者 京都市内の私立女子大学に通い保育士資格の取得を目指す2年次生31名。調査対象者は保育士資格に関連する科目を学び始めたばかりの学生である。
調査内容 調査対象者に子どもの主体と保育における全体活動との間に葛藤が生じる場面(自作)を提示し,保育者としてどのような対応をするのかについて自由記述で尋ねた。具体的な事例は次のとおりである。
「4歳児クラスのA君は外遊びが大好きです。いつも園庭で元気よく友達と遊んでいます。ある日のこと,担任の保育者が,今日は発表会が近づいてきたので,お歌の練習をします,と言いました。その時,A君は天気が良くて暖かいから,お外で遊びたい,と言いました。確かに,ここ最近は寒かったので,A君の言うこともわかるのですが,担任は発表会が近づいてきているので歌の練習をしようと考えています。」
調査手続き まずはじめに,事例を読んでもらい,対応について自由記述を求めた。その後,保育所保育指針に「主体」という言葉が使用されていることを示すとともに,「主体」の辞書的意味や子どもの主体を重視するとはどのようなことであるのかについて説明をした後,再度,先の事例を読んでもらい,対応について自由記述を求めた。
調査時期 平成26年4月である。
結 果
調査対象者から得られた子どものへの対応方法を大きく3つの内容に分類した。対応1:子どもの主体を受け止める対応。例えば「いつもの時間まで遊ばせる。別の時間に練習する」である。対応2:子どもの主体を一部受け止めるものの,最終的には発表会の練習をさせる。例えば「A君の意見を受け入れ,先生自身も遊びたいよと同意する。でも発表会の練習をしないといけないことをきちんと伝えて,練習が楽しくなるように指導する」。対応3:子どもの気持ちへの配慮などは無く,発表会の練習をさせるもの。例えば,「みんなで協力して練習しないと先生悲しいな」と言う。
事前の対応 対応1が2例,対応2が10例,対応3が19例であった。
事後の対応 対応1が4例,対応2が26例,対応3が1例となった。
考 察
事後の対応では,「子どもの遊びたいという気持ちに配慮する」対応が増えた。これは,子どもの主体を意識したためだと考えられる。しかしながら,その内容は,言葉による受け止めから,実際に遊び時間を確保したり,練習自体を次の日にしてしまうこと,さらには,A君のみを発表会の練習から外すような対応もあり,主体の受け止め方にはばらつきあることが示された。
保育場面においては,1個人の主体だけではなく,多くの子どもたちのそれぞれが主体であること,また,保育士自身の主体も大切であることの理解を促す必要があると考えられる。
※対応の詳細については総会で発表する。