[PA033] 高校「倫理」教科書からの思想形成過程の学習と支援 (1)
いかに支援の効果を受給しているか?
Keywords:高校「倫理」教科書, 思想形成過程, 学習支援
目的
高校公民科「倫理」では人間としての在り方や生き方を育むために,先哲の思想形成過程の学習を重視するが,高校生はここでつまずきやすい。そこで,山本 (2014) は,概要把握の支援に着目して,標識化 (見出し) を提供したところ,構造同定方略の下位群と上位群の理解度の差が拡大した。これに対して本研究は,下位群と上位群とでは,概要把握の全体過程を通じて支援効果の受給の仕方が異なるため,と仮定し,山本・織田 (2014) の時系列的な評価法により検討した。
方法
材料:高校「倫理」教科書より「絶対他力思想」の形成過程を概説した12文のテキスト (標識有群には第1,5,9文に見出しが挿入)。
参加者:高1 (平均16.0歳,男59名,女61名) と大学生 (平均20.8歳,男42名,女78名) でともに120人。構造同定の得点 (犬塚, 2002) に基づいて,中央値 (24点) より下位群と上位群を構成し,各群を標識無条件と標識有条件に割り振った。高校生の下位-標識無群が34人,下位-標識有群が38人,上位-標識無群が26人,上位-標識有群が22人で,大学生は同様に, 21人,35人,39人,25人となった。
手続き:1文ずつランダムにPC画面上に提示し,自己ペースで文配列をさせ,配列の体制化過程を時系列に記録した (山本・織田, 2014)。必要な修正は許容した (文配列課題)。その後,理解度評定,再生課題と再構成課題を実施した。
結果と考察
1) 概要把握に対する効果
連得点を求め (11点満点),標識化×構造同定×発達の分散分析で,2次の交互作用が有意であった (F(1,232)=5.19, p<.05)。年齢ごとの分析で,高校生は有意でなかったが,大学生で標識化と構造同定の主効果が有意であり(どちらもp<.01),両者の交互作用に有意傾向が認められた(F(1,116)=3.39, p<.10)。ここから大学生の下位群における概要把握の程度は,標識化が提供されると上位群に匹敵するようになることが示された (Figure1)。
2) 概要把握の全体過程に対する効果
まず,山本・島田 (2008) に基づいて体制化率得点を求め,配列時期を序盤,中盤,終盤の三つにまとめ,標識化×発達×構造同定×時期の分散分析を行ったところ,4要因交互作用が有意で (F(2,464)=5.80, p<.01),年齢ごとに分析すると,高校生で3要因交互作用が有意となり (F(2,232)=5.16, p<.01),下位群と上位群で標識化と時期の交互作用に有意傾向が示された(F(2,232)=2.61,p<.10, F(2,232)=2.99, p<.10)。単純・単純主効果の検定の結果,下位群は時期を通じて効果が無かったが,上位群で中盤に標識化の効果に有意傾向が見られ(F(1,348)=3.03, p<.10),終盤で有意だった(F(1,348)=6.83, p<.01)。他方で,大学生では,両群の別なく時期に関係なく標識化の主効果が有意傾向であった (F(1,116)=2.84, p<.10)。
次に,ランク内修正数でも上記同様に4要因交互作用が有意傾向だった (F(2,464)=2.86, p=.06)。高校生では同様に3要因の交互作用が有意となり (F(2,232)=3.36, p<.05),上位群で標識化と時期の交互作用が有意で (F(2,232)=6.25, p<.01),中盤に標識化の効果が有意となった(F(1,348)=9.07, p<.01)。
3) 総合考察
高校生の上位群は概要把握過程の中盤を中心に標識化による支援効果を受給したが,下位群は過程を通じて受給しなかった。ここから,高校生の下位群と上位群とでは,大学生とは異なり,概要把握の全体過程を通じて支援効果の受給の仕方が異なることが示された。
付記:平成23~25年度科研費の助成を受けた。
高校公民科「倫理」では人間としての在り方や生き方を育むために,先哲の思想形成過程の学習を重視するが,高校生はここでつまずきやすい。そこで,山本 (2014) は,概要把握の支援に着目して,標識化 (見出し) を提供したところ,構造同定方略の下位群と上位群の理解度の差が拡大した。これに対して本研究は,下位群と上位群とでは,概要把握の全体過程を通じて支援効果の受給の仕方が異なるため,と仮定し,山本・織田 (2014) の時系列的な評価法により検討した。
方法
材料:高校「倫理」教科書より「絶対他力思想」の形成過程を概説した12文のテキスト (標識有群には第1,5,9文に見出しが挿入)。
参加者:高1 (平均16.0歳,男59名,女61名) と大学生 (平均20.8歳,男42名,女78名) でともに120人。構造同定の得点 (犬塚, 2002) に基づいて,中央値 (24点) より下位群と上位群を構成し,各群を標識無条件と標識有条件に割り振った。高校生の下位-標識無群が34人,下位-標識有群が38人,上位-標識無群が26人,上位-標識有群が22人で,大学生は同様に, 21人,35人,39人,25人となった。
手続き:1文ずつランダムにPC画面上に提示し,自己ペースで文配列をさせ,配列の体制化過程を時系列に記録した (山本・織田, 2014)。必要な修正は許容した (文配列課題)。その後,理解度評定,再生課題と再構成課題を実施した。
結果と考察
1) 概要把握に対する効果
連得点を求め (11点満点),標識化×構造同定×発達の分散分析で,2次の交互作用が有意であった (F(1,232)=5.19, p<.05)。年齢ごとの分析で,高校生は有意でなかったが,大学生で標識化と構造同定の主効果が有意であり(どちらもp<.01),両者の交互作用に有意傾向が認められた(F(1,116)=3.39, p<.10)。ここから大学生の下位群における概要把握の程度は,標識化が提供されると上位群に匹敵するようになることが示された (Figure1)。
2) 概要把握の全体過程に対する効果
まず,山本・島田 (2008) に基づいて体制化率得点を求め,配列時期を序盤,中盤,終盤の三つにまとめ,標識化×発達×構造同定×時期の分散分析を行ったところ,4要因交互作用が有意で (F(2,464)=5.80, p<.01),年齢ごとに分析すると,高校生で3要因交互作用が有意となり (F(2,232)=5.16, p<.01),下位群と上位群で標識化と時期の交互作用に有意傾向が示された(F(2,232)=2.61,p<.10, F(2,232)=2.99, p<.10)。単純・単純主効果の検定の結果,下位群は時期を通じて効果が無かったが,上位群で中盤に標識化の効果に有意傾向が見られ(F(1,348)=3.03, p<.10),終盤で有意だった(F(1,348)=6.83, p<.01)。他方で,大学生では,両群の別なく時期に関係なく標識化の主効果が有意傾向であった (F(1,116)=2.84, p<.10)。
次に,ランク内修正数でも上記同様に4要因交互作用が有意傾向だった (F(2,464)=2.86, p=.06)。高校生では同様に3要因の交互作用が有意となり (F(2,232)=3.36, p<.05),上位群で標識化と時期の交互作用が有意で (F(2,232)=6.25, p<.01),中盤に標識化の効果が有意となった(F(1,348)=9.07, p<.01)。
3) 総合考察
高校生の上位群は概要把握過程の中盤を中心に標識化による支援効果を受給したが,下位群は過程を通じて受給しなかった。ここから,高校生の下位群と上位群とでは,大学生とは異なり,概要把握の全体過程を通じて支援効果の受給の仕方が異なることが示された。
付記:平成23~25年度科研費の助成を受けた。