[PC026] ルールの学習と切り替えの発達的変化
DCCS課題遂行時の眼球運動データの検討
キーワード:実行機能, 眼球運動, 認知発達
問題
幼児の実行機能を測定する課題の一つにDimensional Change Card Sorting(DCCS)課題がある(Zelazo, 2006)。DCCS課題は,比較的低年齢の幼児のルールの学習と切り替えに関わる発達をよく捉えている。一方,分類の成否を指標とするため,5歳以降の幼児では成績に天井効果が見られることが問題となる。そこで本研究は,コンピュータ版のDCCS課題を作成し,課題遂行中の眼球運動を測定して,視覚的注意の変化からルールの学習と切り替えの認知発達を捉えることを試みた。
方法
被験者:5歳児(24名),6歳児(25名),7歳児(25名),8歳児(24名)が実験に参加した。研究に参加する前に,被験者の保護者に研究の目的と実施手続きを説明し,研究参加への承諾を得た。
刺激:動物(猿と猫)と乗り物(飛行機とバス)の二種類のカードを用いた。例えば動物のカード分類課題では,画面内に分類したカードを入れる二つの箱が描かれ,それぞれ猿または猫の絵が黒または緑で塗り分けられていた。分類するテストカードは画面下半分の中央に提示された。テストカードは,箱に描かれた動物/乗り物とは異なる色の組み合わせで塗られていた。画面の例をFigure1に示す。
手続き:実験者は,被験者にカードを色または形に応じて分類するよう教示した。一つの試行は,画面中央の点を被験者が注視するのを確認してから,テストカードが提示された。被験者の指差し後,箱にカードが入るアニメーションが提示された。最初の6試行を終えた後で,実験者は被験者に最初の6試行とは異なるルールで分類するように教示した。この際,箱の絵やテストカードは同一のものを使用した。12試行を終えたところで,もう一種類のカードを使用し,もう一度色と形による分類課題を実施した。後半の12試行では,ルールの適用順序が前半12試行と逆だった。以上の手続きは理化学研究所の倫理審査による承認を受けた。
結果と考察
本研究では,実験者が指定したルールによるカードの分類を正答とした。また,正答の箱を最初に注視したタイミングを反応時間と定義し,正答率と反応時間について年齢群およびスイッチ条件(ルールのスイッチ前,スイッチ後)の効果を検討した(Table1を参照)。正答率についての一般化線形混合モデル分析では,スイッチ条件の効果が有意傾向だったz = -1.78,p = -.075。年齢群の主効果と交互作用は有意ではなかった。平均正答率は,予測通り全体的に高く,6歳から8歳群ではほぼ100%だった。5歳群ではスイッチ条件の効果が有意だったz = -4.214,p < .001。正答試行の反応時間についての線形混合モデル分析では,スイッチ条件χ2(1) = 10.9,p < .001と年齢群χ2(1)= 33.7,p < .001の主効果が有意だった。スイッチ条件と年齢群の交互作用は有意でなかったが,各年齢群でスイッチ条件の効果を検証したところ,5歳児群ではスイッチ条件の効果は有意ではなくχ2(1)= 1.76,6歳児と7歳児ではスイッチ後はスイッチ前よりも反応時間が有意に長かった 6歳児:χ2(1)= 8.72,p < .01, 7歳児:χ2(1)= 14.7,p < .001。また,8歳児群では条件の効果が有意傾向だったχ2(1)= 3.67,p = 0.055。この結果より,ルールの切り替えに関わる処理負荷の推定を目的とした眼球運動測定の有効性が示された。また,DCCS課題の遂行には,発達に伴う反応時間の全体的な短縮だけでなく,ルールの切り替えの処理負荷に発達による低下が見られた。よって,ルールの切り替えを行えるようになった児童も,切り替えに伴う負荷を発達とともに次第に低下させていくことが示唆された。
幼児の実行機能を測定する課題の一つにDimensional Change Card Sorting(DCCS)課題がある(Zelazo, 2006)。DCCS課題は,比較的低年齢の幼児のルールの学習と切り替えに関わる発達をよく捉えている。一方,分類の成否を指標とするため,5歳以降の幼児では成績に天井効果が見られることが問題となる。そこで本研究は,コンピュータ版のDCCS課題を作成し,課題遂行中の眼球運動を測定して,視覚的注意の変化からルールの学習と切り替えの認知発達を捉えることを試みた。
方法
被験者:5歳児(24名),6歳児(25名),7歳児(25名),8歳児(24名)が実験に参加した。研究に参加する前に,被験者の保護者に研究の目的と実施手続きを説明し,研究参加への承諾を得た。
刺激:動物(猿と猫)と乗り物(飛行機とバス)の二種類のカードを用いた。例えば動物のカード分類課題では,画面内に分類したカードを入れる二つの箱が描かれ,それぞれ猿または猫の絵が黒または緑で塗り分けられていた。分類するテストカードは画面下半分の中央に提示された。テストカードは,箱に描かれた動物/乗り物とは異なる色の組み合わせで塗られていた。画面の例をFigure1に示す。
手続き:実験者は,被験者にカードを色または形に応じて分類するよう教示した。一つの試行は,画面中央の点を被験者が注視するのを確認してから,テストカードが提示された。被験者の指差し後,箱にカードが入るアニメーションが提示された。最初の6試行を終えた後で,実験者は被験者に最初の6試行とは異なるルールで分類するように教示した。この際,箱の絵やテストカードは同一のものを使用した。12試行を終えたところで,もう一種類のカードを使用し,もう一度色と形による分類課題を実施した。後半の12試行では,ルールの適用順序が前半12試行と逆だった。以上の手続きは理化学研究所の倫理審査による承認を受けた。
結果と考察
本研究では,実験者が指定したルールによるカードの分類を正答とした。また,正答の箱を最初に注視したタイミングを反応時間と定義し,正答率と反応時間について年齢群およびスイッチ条件(ルールのスイッチ前,スイッチ後)の効果を検討した(Table1を参照)。正答率についての一般化線形混合モデル分析では,スイッチ条件の効果が有意傾向だったz = -1.78,p = -.075。年齢群の主効果と交互作用は有意ではなかった。平均正答率は,予測通り全体的に高く,6歳から8歳群ではほぼ100%だった。5歳群ではスイッチ条件の効果が有意だったz = -4.214,p < .001。正答試行の反応時間についての線形混合モデル分析では,スイッチ条件χ2(1) = 10.9,p < .001と年齢群χ2(1)= 33.7,p < .001の主効果が有意だった。スイッチ条件と年齢群の交互作用は有意でなかったが,各年齢群でスイッチ条件の効果を検証したところ,5歳児群ではスイッチ条件の効果は有意ではなくχ2(1)= 1.76,6歳児と7歳児ではスイッチ後はスイッチ前よりも反応時間が有意に長かった 6歳児:χ2(1)= 8.72,p < .01, 7歳児:χ2(1)= 14.7,p < .001。また,8歳児群では条件の効果が有意傾向だったχ2(1)= 3.67,p = 0.055。この結果より,ルールの切り替えに関わる処理負荷の推定を目的とした眼球運動測定の有効性が示された。また,DCCS課題の遂行には,発達に伴う反応時間の全体的な短縮だけでなく,ルールの切り替えの処理負荷に発達による低下が見られた。よって,ルールの切り替えを行えるようになった児童も,切り替えに伴う負荷を発達とともに次第に低下させていくことが示唆された。