日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(501)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 501 (5階)

[PC083] 鉄道従業員向けアナウンス訓練の転移促進手法に関する実験的検討(2)

目標行動の実践率に着目して

山内香奈1, 菊地史倫1 ((公財)鉄道総合技術研究所)

キーワード:訓練転移, 目標設定, フィードバック

問題と目的
企業内での人的資源管理を扱う研究領域では,訓練や研修で学んだ知識,スキルなどを,業務や仕事に活かし,それを持続することを“転移(transfer)”と呼ぶ。訓練の価値は,転移の程度によって判断されることが多く,訓練の計画者や開発者にとって,転移を促す工夫や方法を訓練に組み込むことが重要な課題となる。本研究では,鉄道従業員の異常時におけるアナウンス能力の向上を支援する訓練(DVD教材(山内,2013)の視聴)を取り上げ,訓練後の効果的なフォローアップのあり方について実験的に検討することを目的とする。フォローアップの方法として,訓練の場で実施しやすい“教材視聴後に受講者に行動目標を設定することを要請する目標設定法(GS法)”と“人々の行動傾向や心理傾向を表す集計データをフィードバックするフィードバック法(FB法)”に注目する。両方法とも転移の促進に概して有効であることが報告されているが(Van den Bossche et al., 2010),実践的な観点からは,鉄道従業員を対象に,それらの方法をどのタイミングや内容で実施することが最も効果的であるかを検証した知見があると,“実施標準”を整備し,組織に展開する上で有用である。本研究では,教材の視聴を通じて獲得してもらいたい案内行動(目標行動)の実践度について,FB法とGS法を単独で使用した場合,併用した場合,フォローアップしない場合の4条件を比較検討する。
方法
対象者 首都圏のA鉄道会社の5つの管区に所属する25歳~59歳までの車掌449人。
実験計画 フォローアップ要因(対応なし)は4水準(FB法とGS法の併用,FB法,GS法,統制)とし,プリ・ポストデザインで目標行動の実践の有無を質問紙により測定。各条件は,管区単位に無作為に割り付けた。事前測定は,教材を視聴する「直前(直前調査)」に,事後測定は,教材の視聴から「3か月後(3か月調査)」と「6か月後(6か月後調査)」に実施。GS法は直後調査の回答前に,FB法は3か月後調査の回答前に実施。
調査項目と回答のコーディング 目標行動を含む6つの案内行動に関する選択肢から,自分の案内行動に近いもの1つ選んでもらう形式で回答を取得。目標行動に該当する回答を“1”、それ以外の回答を“0”にコーティングして分析に用いた。
結果と考察
条件別の目標行動の実践率 条件別に,各調査時期の目標行動の実践率(図1)についてCochranのQ検定を行った結果,併用とFB法は5%水準,GS法は10%水準で有意差がみられ,各調査時期の母比率に差があることが示唆された。多重比較(McNemar法,Sequential Step Down Bonferroniによる調整)を行ったところ,併用では「直前と6か月後」,FB法では「直前と3か月後」「直前と6か月後」が5%水準,GS法では「直前と6か月後」が10%水準で有意であった。「直前と6か月後」の実践率の差の95%信頼区間は,併用で.12~.32,FB法で.16~.38であった。以上から,フォローアップしない場合に比べ,した方が6か月後の転移の実現度は高くなること,また,GS法に比べ,併用やFB法の方が転移の促進効果がより高いことが示唆された。
併用とFB法の比較 併用とFB法を比較するため,直前と6か月後の実践率について2要因(2×2)の比率の差に関する交互作用の検定(森・吉田,1990)を行った結果(χ2検定により,直前の実践率に両条件で有意差なし),有意でなく,転移の促進効果に条件差はみられないことが示唆された。
以上から,教材の視聴から3か月程度でFB法によるフォローアップをすることが,教材の視聴効果を長期的に持続させる上で重要と言える。