日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD036] アサーションスキルの低さに関連する認知要因の検討

アサーション権の認識不足に着目して

荒井穂菜美1, 本田恵子2, 塚原望3 (1.北海道医療大学, 2.早稲田大学, 3.早稲田大学大学院)

キーワード:アサーションスキル, アサーション権

問題と目的
アサーションとは「自分の気持ち, 考え, 信念などを正直に率直に, その場にふさわしい方法で表現し, 相手が同じように発言することを奨励する」態度である (平木, 2009)。人との良好な関係を維持しつつ適切に自己を表現するスキルはアサーションスキルと名付けられている。
川喜田(2010) はアサーション権を「心の基本的権利」と表現し,「人間であれば,誰でも自分自身に対して持っていて良い考え方や心の在り方を指しており, 公平で相手を大切にする関係づくりである」としている。しかし,平木 (2009), 川喜田 (2010) は, 多くの人がアサーション権があることを知らないか, 忘れて生活をしているとし, アサーション権の認識不足という認知変数がアサーションスキルの低さに関連する要因となると考えられる。例えば渡部・稲川 (2005) は, アサーション権に関する知識の欠如はアサーションスキルの低さと関連することを明らかにしている。しかしながら本邦においては, アサーションスキルの低さに関連するアサーション権の内容に関する研究はあまりなされていない。そこで本研究では, 大学生のアサーション権の認識状態を確認し, アサーションスキルとの関連性を検討する。本研究の仮説として, アサーションスキルの低い大学生は,そうでない大学生に比べ, アサーション権の重要性の認識が不足しているものとする。
方法
調査協力者: 2013年10月に,都市部近郊の大学の学生114名(男性44名,女性70名)を対象に, 授業内において質問紙を配布し,後日回収した。そのうち, 記入漏れや無回答であったものを除き, 最終的に110名を分析の対象とした。有効回答率は, 96%であった。男女の内訳は,男性41名, 女性69名, 平均年齢は20.1±1.59歳であった。
調査材料: デモグラフィックデータ 年齢,性別,学部,の3項目について回答を求めた。
アサーションスキルの測定: 玉瀬・越智・才能・石川 (2001)による青年用アサーション尺度を使用した。
アサーション権: 川喜田(2010)によるアサーション権10項目(①自分自身であること, ②自己表現すること,③気持ちや決定を変更すること, ④ありのままの感情を感じること, ⑤不完全であること, ⑥NOを言うこと,⑦YESを言うこと, ⑧全てのことには, 責任をとらないこと,⑨間違いや失敗を学ぶこと, ⑩選ぶこと)の中から,「あなたが人と「うまくつきあう」ために大切だと思うことについて, 上の10つの中から, あてはまるものに, いくつでも○をつけてください」と教示した。○のついた項目を重要なアサーション権として認識された項目とした。
統計解析: 青年用アサーションスキル尺度の得点が正規分布に従っているか検討するために, Kolmogorov-Smirnovの正規性検定を行った。その結果,正規分布に従うことが確認された。そこで, アサーションスキル得点の平均値が23点であることから, 23点を基準としてアサーション低群と高群に分類した。その後,各項目のそれぞれを重要なアサーション権として認識した人の群間差を, χ2検定を用いて検討した。
結果と考察
「Noを言うこと」において有意な人数比率の偏りが見られた (χ2(1)=5.95, p<.01) (Table 1)。その他の項目については群間差が見られなかった (p=n.s)。本研究からアサーション権の知識不足がアサーションスキルの低さと関連するといった先行研究(渡部・稲川, 2005)を踏まえた仮説「アサーションスキルの低い大学生はそうでない大学生に比べて, アサーション権の重要性の認識不足が生じている」は一部支持された。
アサーションスキルの低い人はそうでない人と比べて, 「Noをいうこと」というアサーション権を重要と認識していないことが明らかになった。一方で, その他のアサーション権の認識について, 群間差は認められなかった。このことから, アサーション権の中でも, 特に「Noということ」の認識不足がアサーションスキルの低さに関与すると考えられる。今後は, アサーションスキルの低い大学生に対し「うまく断ること」などの心理教育が必要となるのではないか。
引用文献
川喜田好恵 (2010). 新版 自分でできるカウンセリング 創元社
平木典子 (2009). 改訂版 アサーショントレーニング―さわやかな<自己表現>のために― 金子書房
杉浦 健 (2000). 2つの親和動機と対人的疎外感との関係―その発達的変化― 教育心理学研究, 48, 352-360.
玉瀬耕治・越智 敏・才能千景・石川昌代 (2001). 青年用アサーション尺度の作成と信頼性および妥当性の検討 奈良教育大学紀要, 50, 221-232.
渡部玲二郎・稲川洋美 (2002). 児童用自己表現尺度の作成, および認知的変数と情緒的変数が自己表現に及ぼす影響について カウンセリング研究, 35, 198-207.