日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD050] 新入社員の自我同一性と職務満足感との関連

原田新 (徳島大学大学院)

キーワード:自我同一性, 職務満足感, 新入社員

【問題と目的】
入社から3年以内の離職率が約30%にものぼるなど(厚生労働省,2013),若者の早期離職の問題が注目されている。このような入社後3年未満での離職には,職務への満足度の低さが影響する結果が示されている(労働政策研究・研修機構,2007)。本研究では,入社後の職務満足感に関わるであろう人格変数として,自我同一性を取り上げ,両変数の関連について検討する。
青年期は,自己意識を再統合する発達段階であり,自我同一性形成が問題となる(Erikson,1959)。谷(2008)は,この自我同一性を,精神内的な層である「中核的同一性」と,現実・社会との接触によって形成される外的な層である「心理社会的自己同一性」に大別している。この中で,特に青年が社会へ移行する際に抱える心理的葛藤に関わるのは,「心理社会的自己同一性」といえる。入社前の段階でそのような葛藤を乗り越え,自分自身が目指すべきものや,社会の中での自分の位置づけといった「心理社会的自己同一性」を明確にしておくことで,入社後の職場環境や職務内容への適応感や,その結果としての満足感が得られやすくやすくなると推測される。本研究では,このような「中核的同一性」と「心理社会的自己同一性」という分類も考慮しながら,自我同一性と職務満足感との関連について検討する。
【方法】
○調査協力者 2014年4月に初めて入職した新規学卒者の新入社員1236名であった。そのうち,高卒者は85名(男性32名,女性53名,18~19歳,平均年齢18.20歳,SD=0.40),専門学校・大学・大学院卒は1151名(男性323名,女性828名,19~29歳,平均年齢22.63歳,SD=1.62)であった。
○測定尺度 (1)多次元自我同一性尺度(Multidimensional Ego Identity Scale:MEIS)(谷,2001):「自己斉一性・連続性」,「対他的同一性」,「対自的同一性」,「心理社会的同一性」各5項目,7件法。 (2)職場環境,職務内容,給与に関する満足感測定尺度(安達,1998):「職務内容」「職場環境」,「給与」,「人間関係」各5項目,4件法。元の尺度はより多数の項目から成るが,調査協力者の負担を考慮し,項目内容のバランスを考えながら,各下位尺度で5項目ずつ選定して用いた。
○調査時期 2014年4月~5月であった。
【結果と考察】
高卒の新入社員と,大卒(専門学校・大学・大学院卒を含む)の新入社員のデータのそれぞれに対し,自我同一性と職務満足感との関連について検討した(Table1)。その結果,高卒データで「対他的同一性」と「職場環境」とがほぼ無関連だった以外,全て有意な正の関連が示された。
「中核的同一性」および「心理社会的自己同一性」と職務満足感との関連については,「中核的同一性」が.26~.38という弱~中程度の関連であったのに対し,「心理社会的自己同一性」は.30~.55という中程度~比較的強い関連であり,「心理社会的自己同一性」の方が「中核的同一性」よりも強い正の関連を持つことが示唆された。「中核的同一性」は,マーラーのコア・アイデンティティを基礎に形成されるものであり,より精神病理的な概念と関係する(谷,2008)。新入社員が職務への不満足感を長期にわたって持ち続けると,いずれ精神病理的な症状が誘発されることは予測されるが,職務満足感は直接的な精神病理的概念ではない為,「中核的同一性」とそれほど強い関連を示さなかったのではないであろうか。一方,「心理社会的自己同一性」は,自身の生活する現実や社会と密接に関わる概念である為,現実社会としての会社での職務満足感と,より強い関連を示したと考えられる。以上の結果は,入社前の学生たちに対して,「心理社会的自己同一性」をより明確化できるような支援をすることが,入社後の職務満足感の低下を防ぐことにつながる可能性を示唆するものといえよう。ただし本研究結果は相関関係の検討である為,今後因果関係の検討もする必要がある。