[PD057] インクルーシブ教育に対する知的障害を主とした特別支援学校教師の意識調査
SACIE質問紙とTEIP質問紙を用いて
キーワード:インクルーシブ教育, SACIE質問紙, TEIP質問紙
インクルーシブ教育とは,障害の有無に関わらずともに学ぶ仕組みである。インクルーシブ教育に対する教師の意識調査について,諸外国ではSACIE-R質問紙とTEIP質問紙が用いられている。前者はインクルーシブ教育の実現に対する教師の態度を測定し,後者はインクルーシブ教育に対する教師の自己効力感を測定するものである。
日本においては,髙橋・五十嵐・鶴巻 (印刷中) が両質問紙の日本語版を作成した。本研究では,両質問紙の日本語版を用いて,知的障害を主とした特別支援学校の教師を対象として調査を実施した。特に,特別支援学校教師と教育制度を学んでいない (将来,教職を希望しない) 学部学生との結果を比較することを目的とした。
方 法
調査対象者 知的障害を主としたX県立の特別支援学校に在籍する教師 (小学部7名; 中学部13名; 高等部11名; 不明3名) に調査を依頼した。また,X大学に通う学部学生 (将来,教職を希望しない者) 32名に調査をお願いした。
質問紙 SACIE-R質問紙:Forlin et al. (2011) が作成した質問紙で,インクルーシブ教育に対する教師の態度や考え方を測定する。質問は15項目数から構成されており (感傷因子,態度因子,懸念因子),“かなり反対である”から“かなり賛成である”の4件法で回答した。TEIP質問紙:Sharma et al. (2012) が作成した質問紙で,インクルーシブ教育に対して教師がもつ指導の自己効力感を測定する。質問は18項目から構成されており (指導因子,協働因子,行動制御因子),“かなり反対である”から“かなり賛成である”の6件法で回答する。
手続き 調査は,特別支援学校教師については,筆者らが学校行事に参加した際に集団で実施した。学部学生については,講義中に実施した。
結 果
SACIE-R質問紙の結果 SACIE-R質問紙における教師と学部学生との群間差を検討するため,各下位因子 (感傷因子,態度因子,懸念因子) の平均値を用いてt検定を行なった。その結果,感傷因子と懸念因子で有意差が見られた [感傷因子: t(64) = 4.85, p < .001; 態度因子: t(64) = 0.20, p = .84; 懸念因子: t(64) = 6.37, p < .001]。態度因子と懸念因子において,教師の方が学部学生よりも平均値が低かった。
TEIP質問紙の結果 TEIP質問紙における教師と学部学生との群間差を検討するため,各下位因子 (指導因子,恊働因子,行動制御因子) の平均値を用いてt検定を行なった。その結果,全ての下位因子で有意差が見られた [指導因子: t(64) = 4.03, p < .001; 恊働因子: t(64) = 4.65, p < .001; 行動制御因子: t(64) = 5.13, p < .001]。全ての下位因子で,教師の方が学部学生よりも平均値が高かった。
考 察
本研究では,質問紙法を用いて,インクルーシブ教育に対する教師の意識調査を行なった。SACIE-R質問紙とTEIP質問紙の日本語版 (髙橋・他, 印刷中) を用いた。両質問紙において,教師と学部学生 (統制群) の評定得点を比較した。その結果,SACIE-R質問紙では,感傷因子と懸念因子で,教師の方が学部学生よりも評定得点が低かった。TEIP質問紙では,全て下位因子で,教師の方が学部学生よりも評定得点が高かった。
SACIE-R質問紙について,感傷因子と懸念因子では,評定得点が低くなるほどインクルーシブ教育に対する積極性が高くなる。したがって,教師の方が,インクルーシブ教育の実施に対して感傷的な態度や懸念が少ないと推測される。一方で,インクルーシブ教育の実現に対する態度は,教師と学部学生との間で差異がないと言える。TEIP質問紙について,全ての下位因子で,評定得点が高くなるほどインクルーシブ教育を実施する際の自己効力感や自信が高くなる。したがって,教師の方が学部学生よりも,障害児の指導,他職種との恊働,障害児の行動制御に対して,高い自己効力感を保持していることがうかがえる。
今後は,より多くの対象者を用いて,インクルーシブ教育に対する教師の意識調査を実施する。
引用文献
髙橋純一・五十嵐育子・鶴巻正子 (印刷中) 障害児を対象としたインクルーシブ教育に対する知的障害を主とした特別支援学校教師の意識調査?SACIE日本語版とTEIP日本語版の日本語版作成の試み? 福島大学総合教育研究センター紀要
日本においては,髙橋・五十嵐・鶴巻 (印刷中) が両質問紙の日本語版を作成した。本研究では,両質問紙の日本語版を用いて,知的障害を主とした特別支援学校の教師を対象として調査を実施した。特に,特別支援学校教師と教育制度を学んでいない (将来,教職を希望しない) 学部学生との結果を比較することを目的とした。
方 法
調査対象者 知的障害を主としたX県立の特別支援学校に在籍する教師 (小学部7名; 中学部13名; 高等部11名; 不明3名) に調査を依頼した。また,X大学に通う学部学生 (将来,教職を希望しない者) 32名に調査をお願いした。
質問紙 SACIE-R質問紙:Forlin et al. (2011) が作成した質問紙で,インクルーシブ教育に対する教師の態度や考え方を測定する。質問は15項目数から構成されており (感傷因子,態度因子,懸念因子),“かなり反対である”から“かなり賛成である”の4件法で回答した。TEIP質問紙:Sharma et al. (2012) が作成した質問紙で,インクルーシブ教育に対して教師がもつ指導の自己効力感を測定する。質問は18項目から構成されており (指導因子,協働因子,行動制御因子),“かなり反対である”から“かなり賛成である”の6件法で回答する。
手続き 調査は,特別支援学校教師については,筆者らが学校行事に参加した際に集団で実施した。学部学生については,講義中に実施した。
結 果
SACIE-R質問紙の結果 SACIE-R質問紙における教師と学部学生との群間差を検討するため,各下位因子 (感傷因子,態度因子,懸念因子) の平均値を用いてt検定を行なった。その結果,感傷因子と懸念因子で有意差が見られた [感傷因子: t(64) = 4.85, p < .001; 態度因子: t(64) = 0.20, p = .84; 懸念因子: t(64) = 6.37, p < .001]。態度因子と懸念因子において,教師の方が学部学生よりも平均値が低かった。
TEIP質問紙の結果 TEIP質問紙における教師と学部学生との群間差を検討するため,各下位因子 (指導因子,恊働因子,行動制御因子) の平均値を用いてt検定を行なった。その結果,全ての下位因子で有意差が見られた [指導因子: t(64) = 4.03, p < .001; 恊働因子: t(64) = 4.65, p < .001; 行動制御因子: t(64) = 5.13, p < .001]。全ての下位因子で,教師の方が学部学生よりも平均値が高かった。
考 察
本研究では,質問紙法を用いて,インクルーシブ教育に対する教師の意識調査を行なった。SACIE-R質問紙とTEIP質問紙の日本語版 (髙橋・他, 印刷中) を用いた。両質問紙において,教師と学部学生 (統制群) の評定得点を比較した。その結果,SACIE-R質問紙では,感傷因子と懸念因子で,教師の方が学部学生よりも評定得点が低かった。TEIP質問紙では,全て下位因子で,教師の方が学部学生よりも評定得点が高かった。
SACIE-R質問紙について,感傷因子と懸念因子では,評定得点が低くなるほどインクルーシブ教育に対する積極性が高くなる。したがって,教師の方が,インクルーシブ教育の実施に対して感傷的な態度や懸念が少ないと推測される。一方で,インクルーシブ教育の実現に対する態度は,教師と学部学生との間で差異がないと言える。TEIP質問紙について,全ての下位因子で,評定得点が高くなるほどインクルーシブ教育を実施する際の自己効力感や自信が高くなる。したがって,教師の方が学部学生よりも,障害児の指導,他職種との恊働,障害児の行動制御に対して,高い自己効力感を保持していることがうかがえる。
今後は,より多くの対象者を用いて,インクルーシブ教育に対する教師の意識調査を実施する。
引用文献
髙橋純一・五十嵐育子・鶴巻正子 (印刷中) 障害児を対象としたインクルーシブ教育に対する知的障害を主とした特別支援学校教師の意識調査?SACIE日本語版とTEIP日本語版の日本語版作成の試み? 福島大学総合教育研究センター紀要