日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD065] タブレットPCを用いた書字困難生徒に対する通常学級での特別支援教育

高木友子1, 佐々木和義2 (1.川口市立芝東中学校, 2.早稲田大学)

キーワード:タブレットPC, 書字困難生徒, 通常学級での特別支援教育

問題と目的
2007年学校教育法で,すべての学校で特別支援教育を行うことになり,2012年の文部科学省の調査は,通常学級に6.5%程度の割合で特別な教育的支援が必要な生徒が在籍している可能性を示している。そして,同省で2013年インクルーシブ教育システム構築モデル事業が実施されている。
近年の書字に関する研究を挙げると,書字障害のあ
る子どもへのアセスメントと教育支援について(玉村?片岡?小山?宮地,2009)や書字の「速度」と「判読性」の2点からの評価(河野,2008)についての研究などが多数ある。
一方で,中学生の様子を観察していると,映像や PC,そしてタブレットPCによる学習に興味を示す様子がみられる。また,書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善(成田?田中?西谷?小林?石野?原,2006)の研究も行われている。
本研究では,通常学級の一斉授業の中で,タブレットPCを使用した漢字学習が支援の方策となり得るかについて研究する。また,書字学習に困難のある児童が漢字の読み書きができるようになって,新しい漢字学習に対して意欲的に取り組むようになったという研究(柳澤?伊藤,2010)のように,中学生も漢字学習によって,新しい漢字学習に意欲的に取り組めるかどうかも検証する。
方法
調査対象
関東圏内の公立中学校1校の通常学級2年生175名(男子75名女子100名)を対象とした。
調査時期
200X年10月から12月であった。
調査内容と手続き
書字に困難を抱えると思われる中学生1名を対象生徒とした。中学生用がないので,小学生の読み書きスクーリング検査(以下,STRAWとする)(宇野?春原?金子?Wydell,2006)の6年生用を用いて,スクーリングを行った。次に,対象生徒が所属する学年の生徒についても視写速度,判読性が,タブレットPCの漢字学習前後で変化があるかどうか調査するために,視写課題を2種類用意し,体験前後の各2回調査した。分析にはSPSS(Statistical Package for Social Science)を使用した。さらに,質問紙によるタブレットPC学習感想の調査を行った。自薦の形で毎授業の学習者を3名選び,タブレット上に,副教材として使用している漢字スキルの文字を5分間指で書かせた。用いたソフトは,フリーの「黒板ソフト」で,3名以外の生徒は筆記具を用いて,漢字スキル上に5分間練習させた。

結果
対象生徒は,STRAWの結果,ひらがなで音読障害,カタカナと漢字で書字障害疑いがあった。対象生徒は4回とも10分間に視写し終わらなかった。判読性はやや劣る状況で変化はなかった。
STRAWの6年生課題と同等の,小学校4年生程度の視写課題の視写結果についてχ2検定を行った所,視写し終わった生徒は,学習前より後の方が有意に多かった(χ2(1)=3.784, p<.10)。また、中学2年生課題についても0.1%水準で有意な差がみられた(χ2(1)=26.22 , p<.001)。時間内に終了した生徒の,タブレットPC体験前の秒数は平均値586.55,SD32.39で,体験後は平均値572,75,SD46.47で時間が短くなった。1%水準で有意傾向があった(t(82)=3.20,p<.001)。判読性については,タブレットPC体験前後での差は見られなかった。
授業中にタブレットPCで学習した生徒108名のうち90名がタブレットPCでの漢字学習で漢字が覚えやすかったと解答した。学習を体験しなかった55名のうち,今後,教師に指名されたら体験してもいいと答えた生徒が46名いた。
考察
対象生徒は書字困難ではあるが,タブレットPC学習を通じ,書字に対する学習意識が上がった。タブレットPCならもっと書きたい,やる気が出たということであるので,一斉授業での支援として活用することが有効だと考える。
視写課題について,タブレットPC学習前より体験後の方が,視写し終わった生徒が増え,視写にかかる時間が有意に減少していることから,学習の影響が推察される。学習者が漢字を覚えやすかったと答えた理由として、アンケートの自由記述部分から,指で書くこと,画面が漢字スキルより大きいことが考えられる。その上,書き順や字のバランスを意識することができたとか,きれいに書こうと思った,漢字練習のあとの授業に集中できるようになったと書いた生徒がいるので,一斉授業への集中度にも影響があったと考えられる。今後の課題として,希望する学習頻度を毎授業とする生徒がχ2検定の結果有意に多かったので,タブレットPCの台数を増やす必要があると考えられる。