[PE078] ウェブサイト上における学生相談機関の情報発信に関する研究
日本・アメリカ・イギリス・台湾の比較研究(その2)
キーワード:学生相談機関, ウェブサイト, 情報発信
目 的
インターネットや携帯端末の普及に伴い,学生相談機関においてもこれらの媒体を通じた広報,啓発,情報提供等の活動が重要になってきた。学生相談機関の利用を促進するためには,大学のウェブサイト上で展開される学生相談機関の情報発信を改善することが一つの効果的な手段になる可能性がある。しかし,どのように情報を発信するのが効果的か,また,どのような要因が情報発信自体に影響を与えているのかといった問題については明らかにされていない。本研究は,日本,アメリカ,イギリス,台湾の大学の学生相談機関のウェブサイト上における情報発信を比較し,情報発信に影響を及ぼす要因について示唆を得ることを目的として行われた。
方 法
(1)調査時期:2013年4月~5月
(2)調査対象:日本315大学 アメリカ282大学
イギリス70大学 台湾60大学
(3)調査方法:伊藤(2004),伊藤(2007)をもとに51の情報カテゴリ(学生相談機関の「場所」「電話番号」「開室日時」等の内容ごとのまとまり)を設定し,インターネット経由で各大学の学生相談機関のウェブサイトを閲覧して,各情報カテゴリの掲載の有無についてデータを収集した。
結 果
(1)調査対象大学の概要
全728大学を設置形態別に見ると国立45大学,公立229大学,私立454大学であった。学部学生数を指標とし大学規模を分類したところ,小規模(~5000人)372大学,中規模(5001~10000人)164大学,大規模(10001人~)192大学であった。
(2)「国」「設置形態」「規模」と「情報量」の関連
51の情報カテゴリのうち,4カ国に共通性が高い23の情報カテゴリを用いて情報カテゴリの総数(以下,「情報量」)を算出した。「国」「設置形態」「規模」を独立変数,各学生相談機関の「情報量」を従属変数として分散分析を行ったところ,「国」「設置形態」「規模」の主効果が有意であった(国:F(3,705)=25.04, p=.001, η2=.06, 設置形態:F(2,705)=5.82, p=.003, η2=.01, 規模:F(2,705)=17.77, p=.001,η2=.03)。交互作用はいずれも有意ではなかった。引き続き,多重比較(Tukey法)を行ったところ,「国」別では日本<イギリス・アメリカ・台湾,イギリス<台湾,「設置形態」別では私立<公立・国立,「規模」別では小規模<中規模<大規模であった(いずれもp<.01)。
(3)情報量別に見た学生相談機関の分布
情報量別の学生相談機関数の分布を見たところ,日本とイギリスには情報量が多い群と少ない群に二極化する傾向が見られたのに対し,アメリカと台湾にはそうした傾向は見られなかった。
考 察
ウェブサイト上における学生相談機関の情報発信には国,大学の設置形態及び規模により違いが見られた。国別ではアメリカ・台湾の情報量が多かった。一方,情報量が相対的に少ないイギリスと日本では情報量に二極化の傾向が見られた。学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信について国により志向性が異なること,情報面での充実の程度が低いほど,大学間の格差が生じやすい可能性が考えられる。設置形態別では,国公立大学の情報量が多く,私立大学が少ない傾向が見られた。公的なサービスを提供するという役割が情報量の多さに関連している可能性が考えられる。規模別では,大学規模が大きくなるほど情報量が多かった。大規模大学ほど学生相談機関専従の教職員の人数が多い傾向にあるが,ウェブサイトの管理運営に割くことができるマンパワーが発信する情報量に影響を及ぼしていることが考えられる。日本は情報発信が最も少なかった。日本の大学は私立の小規模大学の割合が大きく,このことが学生相談機関の提供する情報量の少なさにつながっているものと考えられる。また,日本の場合,心理的支援という目的のために,ウェブサイトを通じて情報発信を行うということ自体に対しての志向性が低い可能性も考えられる。
今後は,ウェブサイトによる情報発信が学生相談機関の実際の利用に与える影響について,質問紙調査等により明らかにする必要があるだろう。
※本研究はJSPS科研費(課題番号:22530763)の助成を受けた。
インターネットや携帯端末の普及に伴い,学生相談機関においてもこれらの媒体を通じた広報,啓発,情報提供等の活動が重要になってきた。学生相談機関の利用を促進するためには,大学のウェブサイト上で展開される学生相談機関の情報発信を改善することが一つの効果的な手段になる可能性がある。しかし,どのように情報を発信するのが効果的か,また,どのような要因が情報発信自体に影響を与えているのかといった問題については明らかにされていない。本研究は,日本,アメリカ,イギリス,台湾の大学の学生相談機関のウェブサイト上における情報発信を比較し,情報発信に影響を及ぼす要因について示唆を得ることを目的として行われた。
方 法
(1)調査時期:2013年4月~5月
(2)調査対象:日本315大学 アメリカ282大学
イギリス70大学 台湾60大学
(3)調査方法:伊藤(2004),伊藤(2007)をもとに51の情報カテゴリ(学生相談機関の「場所」「電話番号」「開室日時」等の内容ごとのまとまり)を設定し,インターネット経由で各大学の学生相談機関のウェブサイトを閲覧して,各情報カテゴリの掲載の有無についてデータを収集した。
結 果
(1)調査対象大学の概要
全728大学を設置形態別に見ると国立45大学,公立229大学,私立454大学であった。学部学生数を指標とし大学規模を分類したところ,小規模(~5000人)372大学,中規模(5001~10000人)164大学,大規模(10001人~)192大学であった。
(2)「国」「設置形態」「規模」と「情報量」の関連
51の情報カテゴリのうち,4カ国に共通性が高い23の情報カテゴリを用いて情報カテゴリの総数(以下,「情報量」)を算出した。「国」「設置形態」「規模」を独立変数,各学生相談機関の「情報量」を従属変数として分散分析を行ったところ,「国」「設置形態」「規模」の主効果が有意であった(国:F(3,705)=25.04, p=.001, η2=.06, 設置形態:F(2,705)=5.82, p=.003, η2=.01, 規模:F(2,705)=17.77, p=.001,η2=.03)。交互作用はいずれも有意ではなかった。引き続き,多重比較(Tukey法)を行ったところ,「国」別では日本<イギリス・アメリカ・台湾,イギリス<台湾,「設置形態」別では私立<公立・国立,「規模」別では小規模<中規模<大規模であった(いずれもp<.01)。
(3)情報量別に見た学生相談機関の分布
情報量別の学生相談機関数の分布を見たところ,日本とイギリスには情報量が多い群と少ない群に二極化する傾向が見られたのに対し,アメリカと台湾にはそうした傾向は見られなかった。
考 察
ウェブサイト上における学生相談機関の情報発信には国,大学の設置形態及び規模により違いが見られた。国別ではアメリカ・台湾の情報量が多かった。一方,情報量が相対的に少ないイギリスと日本では情報量に二極化の傾向が見られた。学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信について国により志向性が異なること,情報面での充実の程度が低いほど,大学間の格差が生じやすい可能性が考えられる。設置形態別では,国公立大学の情報量が多く,私立大学が少ない傾向が見られた。公的なサービスを提供するという役割が情報量の多さに関連している可能性が考えられる。規模別では,大学規模が大きくなるほど情報量が多かった。大規模大学ほど学生相談機関専従の教職員の人数が多い傾向にあるが,ウェブサイトの管理運営に割くことができるマンパワーが発信する情報量に影響を及ぼしていることが考えられる。日本は情報発信が最も少なかった。日本の大学は私立の小規模大学の割合が大きく,このことが学生相談機関の提供する情報量の少なさにつながっているものと考えられる。また,日本の場合,心理的支援という目的のために,ウェブサイトを通じて情報発信を行うということ自体に対しての志向性が低い可能性も考えられる。
今後は,ウェブサイトによる情報発信が学生相談機関の実際の利用に与える影響について,質問紙調査等により明らかにする必要があるだろう。
※本研究はJSPS科研費(課題番号:22530763)の助成を受けた。