日本教育心理学会第56回総会

講演情報

ポスター発表 » ポスター発表 PF

ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF006] テキスト理解時の思考過程

文章の面白さとマインドワンダリングの生起の関係

井関龍太1, 川崎惠里子2 (1.理化学研究所, 2.川村学園女子大学)

キーワード:マインドワンダリング, テキスト理解, 興味

文章を読んでいるときには,目の前の文字列を処理しているにもかかわらず,内容が頭に入ってこないとか,つい他のことを思い浮かべてしまうといった経験をすることがある。このような,目前の課題から注意が逸れていく状態をマインドワンダリングと呼ぶ。文章を読んでいる際のマインドワンダリングが内容の理解を損なうことはいくつかの研究によって報告されている(Schooler et al., 2004; Smallwood et al., 2008)。それでは,文章を読んでいてどのような展開に入ったときにマインドワンダリングが起きやすいのだろうか。たとえば,面白い部分を読んでいるときにいろいろなことを想像してしまいマインドワンダリングに陥る場合と,つまらない部分を読んでいるときに他のことを考えてマインドワンダリングにふけるという場合が考えられる。本研究では,文章内容の面白さがマインドワンダリングの生起と読みの時間に及ぼす影響を検討した。
方法
実験参加者:女子大学生33名。
材料:『夢の絵本』(茂田井, 1991)の本文を用いた。この文章については,実験には参加しなかった17名の女子大学生が予めパラグラフごとに面白さを評定してあった(5段階尺度)。この評定の結果をもとに,面白さの評価の異なるパラグラフを8個ずつ特定した。選んだパラグラフの面白さ評定の平均値は,高=2.82,低=2.02であった。
手続き:文章を適度に区切って一度に一行ずつPCのモニターに表示した。実験参加者がマウスをクリックするたびに次の部分が提示された。前の部分にもどって読むことはできなかった。面白さ評定に基づいて選んだパラグラフの最後の部分を読んだあとにマウスをクリックすると,直前の思考状態の報告が求められた。実験参加者にはどのパラグラフのあとに思考報告になるのかがわからないようにした。思考報告では,「いま話の内容を理解しようとしていましたか,それとも他のことを考えていましたか?」との質問文が提示され,両端に“話の内容”と“他のこと”と表示されたスライダーが現れた。実験参加者は自分の思考状態に近いほうにスライダーを調整することで回答した。回答は,スライダーの位置が中央にあるときを“0”,“話の内容”の極にあるときを“250”,“他のこと”の極にあるときを“-250”としてコード化した。
結果と考察
マインドワンダリングの頻度:思考報告の回答が正の値であった場合を“集中”思考,負の値であった場合を課題に“無関連”な思考として分類した。この思考頻度について(Fig. 1),2(面白さ:高・低)×2(思考状態:集中・無関連)の分散分析を行った。その結果,面白さ×思考状態の交互作用が有意であった(F(1, 32) = 40.37, p < .001, η2G = .15)。面白さの評価が高いパラグラフでも低いパラグラフでも,集中思考のほうが無関連思考よりも多かったが,この差は面白さが高いパラグラフでより大きかった(高:F(1, 32) = 145.32, p < .001, η2G = .82;低:F(1, 32) = 21.54, p < .001, η2G = .40)。また,無関連思考の頻度は,面白さの高いパラグラフでは低いパラグラフに比べて有意に少なかった(F(1, 32) = 39.56, p < .001, η2G = .14)。
読み時間:思考報告直前に提示した部分を読むのにかかった時間を文字数で割ったものを読み時間として分析した(Fig. 2)。1つ以上の条件において無関連思考の報告が0である参加者が過半数を占めたので,欠損値を考慮して混合モデルによる分析を行った。2(面白さ:高・低)×2(思考状態:集中・無関連)の分析の結果,面白さの主効果が有意であり(F(1, 30.3) = 5.41, p = .03),面白さの高いパラグラフのほうが読むのに長くかかっていた。他の効果は有意でなかった(F < 1)。
以上のことから,本実験で用いたような物語文では,面白い部分はじっくりと集中して読むのに対して,そうでない部分は早く読み終えようとしながらも他の事柄に意識が向かいやすくなるような構えがとられていることが示唆される