The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PF029] 授業に参加する児童の身体リズム

「ビジネス顕微鏡」を用いた授業研究の試み(1)

伊藤崇 (北海道大学)

Keywords:授業への参加, 身体リズム, ビジネス顕微鏡

問題■ 生徒の授業への参加の実態を検討することは,学習の社会的過程を明らかにする上で重要な課題である。このため,参与観察あるいはビデオ映像の間接的観察による,授業中のコミュニケーションの分析が従来なされてきた。しかし,方法的制約として,コミュニケーションの観察可能な側面(発話など言語的側面,視線や姿勢など費言語行動)に検討対象が限られていた。そのため参加者が経験するその場の雰囲気などは質的な記述に頼らざるを得なかった。そうした経験を生む重要な要素は参加者の身体間に展開される微細な動きの相互作用であろうが,観察者の目に頼る観察法によってそれを補足することは困難である。
本研究ではこの問題に対して,(株)日立製作所が開発した「ビジネス顕微鏡」を使用してアプローチする。これは,オフィスなど集団的環境における対面コミュニケーションの質を明らかにするために開発された,複数のセンサとそこからの情報を統合的に解析するソフトウェアから成る人間行動計測システムである(早川ら,2013)。本研究はシステム構成物のうち,名札型センサ(赤外線センサと加速度センサを搭載)を用い,従来は観察不可能であった微細な非言語的行動,特に身体リズムという側面から授業への児童の参加の仕方について予備的な分析を試みる。
このシステムを用いた児童の授業場面の分析としては,渡邊らの研究(Watanabe, Matsuda &Yano, 2013)があるが,塾での授業を対象としたものであった。本報告は公立小学校での日常的な授業を分析した最初のものとなる。
方法■ 対象:札幌市立小学校1校の2年生(28),3年生(24),5年生(28)各1学級(学年の後のカッコ内は児童数)で実施された国語の授業。授業時間は46分から59分の幅があった。 調査手続き:調査時期は2013年9月。対象校に対しては書面と口頭で,児童保護者に対しては書面で調査内容を説明。授業開始前に児童全員に名札型センサの装着を依頼。並行して教室前方の黒板上部に小型ビデオカメラ(GoPro Hero3)を設置し,授業の様子を撮影。 分析手続き:計測は装着時点からなされていたが,分析対象は授業開始時から終了時点までとした。システム付属ソフトが自動で作成するデータシートのうち,加速度センサ情報に基づいて身体の揺れの60秒ごとの平均周波数を計算した身体リズムデータを検討した。
結果■ ここでは身体リズムの学年間の平均的な差を示す。図1は,各学級の児童の身体リズムの平均値について,授業時間の中間30分をそれぞれ取り出したものである。図1によると,学年が上がるにつれてリズムの周波数が小さくなる傾向が読み取れた。各学級についてさらに30分間の平均値を計算すると,2年生は2.71Hz,3年生は2.32Hz,5年生は2.20Hzであった。
周波数の高さは,身体のリズムの揺れの早さを示す。成人が活発な対面コミュニケーションを行っている際のリズムは2.0Hz以上である(早川ら,2013)。日常的な授業に参加する児童の身体リズムは,成人による活発なコミュニケーションと同等かそれ以上に早いものであったことが示された。
考察■ 児童全体,および授業時間全体を平均的に見ると,2.0Hz以上の身体リズムが維持されていた。一方で,学年が上がるにつれて周波数が小さくなる傾向も見られた。以上より,例えば「落ち着いている」といった授業中の雰囲気を身体リズムの計測により可視化可能であると考えられる。
今後は,授業過程においてインパクトをもっていた出来事と,身体リズム変動との相関関係についてさらに検討することが必要であろう。
文献
早川幹・大久保教夫・脇坂義博. (2013). ビジネス顕微鏡:実用的人間行動計測システムの開発 電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム, 96(10), 2359?2370.
Watanabe, J., Matsuda, S., & Yano, K. (2013). Using wearable sensor badges to improve scholastic performance. Proceedings of the 2013 ACM Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing Adjunct Publication - UbiComp’13 Adjunct, 139?142.