日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF034] 小学校での集団宿泊的行事における個人的能力と社会的能力の変容について

梶井芳明1, 仕道祐紀2 (1.東京学芸大学, 2.世田谷区立塚戸小学校)

キーワード:特別活動, 集団宿泊的行事, 個人的能力・社会的能力

問題と目的
近年,小学校における特別活動では,児童の発達状況や周囲の環境変化を踏まえて,人間性の育成に重点を置いた集団宿泊的行事の推進が求められている(文部科学省, 2008)。
本研究では,特別活動で育む資質・能力のうち「個人的資質と社会的資質」(小島, 2010)を取り上げ,集団宿泊的行事の取り組みを通した資質・能力(以下,単に「能力」と表記)の変容を,質問紙により縦断的に調査する。
また,児童に対し,行事のねらいに沿った活動を促すために,目的,方法,結果の3つの観点から個人目標を設定させる。
さらに,目標に対応した行動の発現を,観察によって確かめる。
調査及び観察対象は,行事前の準備,行事中の活動,行事3週間後の3つの時期の様子である。
方 法
調査対象:東京都内の公立小学校,第6学年の4つの学級に在籍する児童,計130名。そのうち,調査開始時に実施した質問紙への回答結果から,個人的能力が低く社会的能力が高い児童1名(抽出児A),個人的能力が高く社会的能力が低い児童1名(抽出児B)の2名を,調査の対象とした。
調査期間:2013年7月から9月であった。
調査方法:質問紙調査法及び行動観察法により実施した。質問紙調査では,「児童生徒のよさや活動の事実を見取る10観点」(小島, 2010)を参考に作成した10観点20項目からなる質問紙と,目的,方法,結果の各観点から個人目標を設定するワークシートを使用した。また,行動観察は,2名の抽出児について,行事前・中・後の活動の様子を縦断的に観察した。
観察の視点は,質問紙の10観点と同様であった。
結果と考察
質問紙に対する回答結果より,いずれの抽出児も,行事前・後で個人的能力及び社会的能力の得点が上昇した。
抽出児Aは,個人的能力の「主体的な判断をしている」観点の平均得点が,統計的には有意でないものの,上昇する様相が確認された。
この観点に対応した行動としては,班で遊ぶ時に,進んで班員を仕切っている様子が観察された。
しかし,ワークシートには,行事後に「なにもできない」との記述が見られたことから,自らの成長を肯定的に受け止められない様相が示唆された。
これらのことから,個人的能力が低い児童には,責任を伴う係活動に,目標を明確にして取り組ませることにより,自らの役割を自覚させるとともに,目標を達成することで自信をもたせることが可能になると推察される。
抽出児Bは,社会的能力の「集団に秩序と規律がある」観点の平均得点が,有意に上昇した。
この観点に対応した行動は,室長として班員をまとめる姿や,班員がBの指示を受け入れて協力する様子が観察された。
また,ワークシートには,行事後に「大人数の人をまとめられるようになった」との記述が見られ,自らの成長を実感することができた様相が示唆された。
これらのことから,社会的能力が低い児童には,とりわけ,周囲に自分を認めてくれる仲間を組織することが重要であり,班編制の工夫が有効な手立ての1つになると推察される。