[PG050] 大学生の学習に対する自己効力感・将来展望が学業的満足遅延に及ぼす影響の検討
Keywords:学業的満足遅延, 自己効力感, 将来展望
【問題と目的】
現代の大学生は,身近に魅惑の多い環境(情報機器やSNSを始めとするネットサービス等の発達)の中で,自律的な学習を行うことが課題とされている(総務省, 2013)。この点について,学業によって得られる長期的な達成報酬のために即時的な価値の低い報酬を我慢し勉強を行う能力を示す『学業的満足遅延(Academic delay of gratification)』 (Bembenutty & Karabenick, 1998)が注目されている。学業的満足遅延の高い者は,継続的な学習を行い,優れた成果を得やすいことが明らかにされている。また,その規定要因についても認知的な側面から検討が進められている(Zhang & Maruno, 2009)。
これまでの研究から,学業的満足遅延は課題への『自己効力感』や『将来展望』など,課題の結果および将来全般に対する認知の影響を受けることが示唆されてきた(e.g., Bembenutty, 2009)。すなわち,長期的にみて報酬を獲得できる見通しがあることや,未来にポジティブな展望をもつことにより,学習者は課題の達成という長期的な報酬を選びやすくなり,適切に学習を優先させることができると考えられる。
しかし,わが国の研究では学業的満足遅延の概念はあまり扱われておらず,特に自己効力感および将来展望の影響について,両者がどのように関わりあって学業的満足遅延に影響するのかについて検討された例はない。そこで本研究では,大学生を対象に,学習への自己効力感と将来展望が学業的満足遅延に及ぼす影響について,交互作用効果を想定した検討を行う。
【方法】
調査対象 東海地方の私立大学3校・国立大学2校に在籍する1~4年生430名(男性143名,女性287名)であった。
調査内容 (質問紙調査)
1. 日本語版学業的満足遅延尺度(12項目6件法)
Zhang, Karabenick, Maruno, & Lauermann(2011)を参考に日本語版学業的満足遅延尺度を作成した。尺度を翻訳し,心理学系大学教員と大学院生らによる内容の吟味を行い大学生の生活や一般性を考慮した表現の改訂を行った。
2 大学の学習に対する自己効力感(9項目5件法)
森(2004)自己効力感尺度を,大学の学習について問うように教示を修正して使用した。
3 将来展望(4項目5件法)
白井(1994)の時間的展望体験尺度から,将来態度の下位尺度である「希望」を抜粋し,将来に対するポジティブな展望の程度を測定した。
【結果と考察】
1学業的満足遅延の尺度構成
まず,本研究で構成を行った学業的満足遅延の尺度構成を検討した。確認的因子分析において一因子構造が確認され,内部一貫性はα=.81であった。各変数同士の相関分析の結果はそれぞれ先行研究に一致しており(Table1),本尺度における一定の信頼性および妥当性が示唆された。
2自己効力感と将来展望が学業的満足遅延に及ぼす影響
「自己効力感」(α=.91)と「将来展望」(α=.80),両変数の交互作用項を独立変数,学業的満足遅延を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。まず,交互作用項を含めない分析(Step1)を行った結果,それぞれが有意な影響を示した(自己効力感:β=.20**, 将来展望:β=.16**)。次に交互作用項を投入した結果(Step2),それぞれの項に加え,交互作用項も有意な影響を示した(β=.08**)。交互作用項の有効性を確認するため,Step1・2を比較した結果,決定係数が有意に増加していた(F(1,426 )=4.66, p <.05)。
このことから,学業的満足遅延に対する自己効力感と将来展望の交互作用効果が認められた。単純傾斜分析による下位検定を行った結果,学業的満足遅延に将来展望がおよぼす影響は,自己効力感低群においてはみられず(β=.08),自己効力感高群においては有意な正の影響がみられた((β=.24**)。以上より,大学生の学業的満足遅延が将来展望から受ける影響は,実際に取り組む学習への自己効力感が高い場合に顕著となる可能性が示された。
現代の大学生は,身近に魅惑の多い環境(情報機器やSNSを始めとするネットサービス等の発達)の中で,自律的な学習を行うことが課題とされている(総務省, 2013)。この点について,学業によって得られる長期的な達成報酬のために即時的な価値の低い報酬を我慢し勉強を行う能力を示す『学業的満足遅延(Academic delay of gratification)』 (Bembenutty & Karabenick, 1998)が注目されている。学業的満足遅延の高い者は,継続的な学習を行い,優れた成果を得やすいことが明らかにされている。また,その規定要因についても認知的な側面から検討が進められている(Zhang & Maruno, 2009)。
これまでの研究から,学業的満足遅延は課題への『自己効力感』や『将来展望』など,課題の結果および将来全般に対する認知の影響を受けることが示唆されてきた(e.g., Bembenutty, 2009)。すなわち,長期的にみて報酬を獲得できる見通しがあることや,未来にポジティブな展望をもつことにより,学習者は課題の達成という長期的な報酬を選びやすくなり,適切に学習を優先させることができると考えられる。
しかし,わが国の研究では学業的満足遅延の概念はあまり扱われておらず,特に自己効力感および将来展望の影響について,両者がどのように関わりあって学業的満足遅延に影響するのかについて検討された例はない。そこで本研究では,大学生を対象に,学習への自己効力感と将来展望が学業的満足遅延に及ぼす影響について,交互作用効果を想定した検討を行う。
【方法】
調査対象 東海地方の私立大学3校・国立大学2校に在籍する1~4年生430名(男性143名,女性287名)であった。
調査内容 (質問紙調査)
1. 日本語版学業的満足遅延尺度(12項目6件法)
Zhang, Karabenick, Maruno, & Lauermann(2011)を参考に日本語版学業的満足遅延尺度を作成した。尺度を翻訳し,心理学系大学教員と大学院生らによる内容の吟味を行い大学生の生活や一般性を考慮した表現の改訂を行った。
2 大学の学習に対する自己効力感(9項目5件法)
森(2004)自己効力感尺度を,大学の学習について問うように教示を修正して使用した。
3 将来展望(4項目5件法)
白井(1994)の時間的展望体験尺度から,将来態度の下位尺度である「希望」を抜粋し,将来に対するポジティブな展望の程度を測定した。
【結果と考察】
1学業的満足遅延の尺度構成
まず,本研究で構成を行った学業的満足遅延の尺度構成を検討した。確認的因子分析において一因子構造が確認され,内部一貫性はα=.81であった。各変数同士の相関分析の結果はそれぞれ先行研究に一致しており(Table1),本尺度における一定の信頼性および妥当性が示唆された。
2自己効力感と将来展望が学業的満足遅延に及ぼす影響
「自己効力感」(α=.91)と「将来展望」(α=.80),両変数の交互作用項を独立変数,学業的満足遅延を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。まず,交互作用項を含めない分析(Step1)を行った結果,それぞれが有意な影響を示した(自己効力感:β=.20**, 将来展望:β=.16**)。次に交互作用項を投入した結果(Step2),それぞれの項に加え,交互作用項も有意な影響を示した(β=.08**)。交互作用項の有効性を確認するため,Step1・2を比較した結果,決定係数が有意に増加していた(F(1,426 )=4.66, p <.05)。
このことから,学業的満足遅延に対する自己効力感と将来展望の交互作用効果が認められた。単純傾斜分析による下位検定を行った結果,学業的満足遅延に将来展望がおよぼす影響は,自己効力感低群においてはみられず(β=.08),自己効力感高群においては有意な正の影響がみられた((β=.24**)。以上より,大学生の学業的満足遅延が将来展望から受ける影響は,実際に取り組む学習への自己効力感が高い場合に顕著となる可能性が示された。