[PG064] 中国人は「稲むらの火」をどのように理解するのか
Keywords:物語理解, 津波防災
「稲むらの火」は,安政南海地震によって発生した大津波の際の出来事をもとにした物語で,津波防災教育の教材として用いられている。しかし,この物語の教材としての有効性については必ずしも詳細に検討されてはいない。とくに,津波の知識や現実感が乏しい学習者に津波防災教育を行うことを想定するならば,そのような学習者がこの教材をどのように理解し,そこから何を学ぶのかについて明らかにすることは非常に重要である。そこで本研究では,津波に対する関心が一般にそれほど高くない中国人を対象として,「稲むらの火」を用いた読解実験を行い,同教材に対する理解や記憶について調べる。
方 法
実験参加者 中国渤海地区の高校1年生47名(男性19名,女性28名)が実験に参加した。このうち,課題の遂行に不手際があった3名を除外し,44名を分析の対象とした。
材料 「稲むらの火」を中国語に翻訳したものを用いた。文章の文字数は中国の漢字で991文字であった。
手続き 実験は授業時間を利用して集団形式で行われた。実験参加者は,まず「稲むらの火」を黙読した(読解時間3分)。その後,本研究とは無関係の文章を3分間で黙読した。2つの文章の読解後,実験参加者は最初に読んだ「稲むらの火」を思い出してできるだけ正確に再生することを求められた(再生時間10分)。次に,「稲むらの火」を見ることを許され,内容を150~200字程度で要約するように求められた(要約時間10分)。続いて,「稲むらの火」の内容で特に重要だと判断した部分5~8か所程度に下線を引くように求められた。最後に,実験参加者は,「稲むらの火」から学んだ大切なことや今後も応用できる知識を記述するよう求められた(制限時間10分,分量自由)。
結 果
本発表では,再生,要約,および重要度判断に関する結果を報告する。
材料の物語文を69個のアイディアユニット(以下,IU)に分割し,分析の単位とした。再生データと要約データに関しては,それぞれのIUが示す意味内容が,各実験参加者の再生文章および要約文章中に含まれているかどうかを調べた。重要度判断データに関しては,下線が引かれた部分を含むIUを重要と判断されたものとした。
IUごとに,何名の実験参加者が再生したか,要約に用いたか,重要と判断したかをカウントし,それぞれを各IUの再生率,要約選択率,重要判断率とした。
再生率が60%を超えたIUは,「村人たちは宵祭りのしたくに心を取られていた」「村人はさっきの地震にはいっこう気がつかない」「五兵衛は津波がやってくると思った」「五兵衛はいきなり稲むらのひとつに火を移した」「老人も,女も,子供も若者のあとを追うようにかけ出した」「五兵衛は村中の人に来てもらうために火を消すなと言った」「村中の人が集まってきた」「村人は我にかえった」「村人はこの火によって救われたのだと気がついた」「村人は五兵衛の前にひざまずいた」で,これらは物語のプロットにおける主要な出来事を示すIUであった。一方,津波襲来を描写したIUの再生率は極めて低かった。要約選択率については,再生率とほぼ同様の結果であった。それに対して,重要判断率の結果は再生率や要約選択率とは異なっていた。物語の結末の「村人は我にかえった」「村人はこの火によって救われたのだと気がついた」「村人は五兵衛の前にひざまずいた」の3つのIUの重要判断率は80%を超えていたが,それ以外のIUで重要度判断率が50%に達したものはなく,重要だと判断されるIUが実験参加者によって異なっていた。
考 察
中国人の読み手は「稲むらの火」の物語のプロットをよく理解しており記憶にも残っていたが,津波襲来の描写に関しては,その様子をよく理解できず記憶にも残らなかったものと思われる。また,物語中で重要と感じる部分は(物語の結末以外は)読み手によって異なっていた。物語展開上の出来事の重要さだけでなく,主人公の判断や考え方の重要さ,この物語が伝える防災知識の重要さなど,多様な重要さが存在しうるからであろう。すなわち,この物語から何を感じとって,何を学ぶかは,読み手によって異なっている可能性が考えられる。今後,物語から学んだことに関する自由記述データの分析を進め,中国人学習者が「稲むらの火」から何を学んだのかを検証する。
方 法
実験参加者 中国渤海地区の高校1年生47名(男性19名,女性28名)が実験に参加した。このうち,課題の遂行に不手際があった3名を除外し,44名を分析の対象とした。
材料 「稲むらの火」を中国語に翻訳したものを用いた。文章の文字数は中国の漢字で991文字であった。
手続き 実験は授業時間を利用して集団形式で行われた。実験参加者は,まず「稲むらの火」を黙読した(読解時間3分)。その後,本研究とは無関係の文章を3分間で黙読した。2つの文章の読解後,実験参加者は最初に読んだ「稲むらの火」を思い出してできるだけ正確に再生することを求められた(再生時間10分)。次に,「稲むらの火」を見ることを許され,内容を150~200字程度で要約するように求められた(要約時間10分)。続いて,「稲むらの火」の内容で特に重要だと判断した部分5~8か所程度に下線を引くように求められた。最後に,実験参加者は,「稲むらの火」から学んだ大切なことや今後も応用できる知識を記述するよう求められた(制限時間10分,分量自由)。
結 果
本発表では,再生,要約,および重要度判断に関する結果を報告する。
材料の物語文を69個のアイディアユニット(以下,IU)に分割し,分析の単位とした。再生データと要約データに関しては,それぞれのIUが示す意味内容が,各実験参加者の再生文章および要約文章中に含まれているかどうかを調べた。重要度判断データに関しては,下線が引かれた部分を含むIUを重要と判断されたものとした。
IUごとに,何名の実験参加者が再生したか,要約に用いたか,重要と判断したかをカウントし,それぞれを各IUの再生率,要約選択率,重要判断率とした。
再生率が60%を超えたIUは,「村人たちは宵祭りのしたくに心を取られていた」「村人はさっきの地震にはいっこう気がつかない」「五兵衛は津波がやってくると思った」「五兵衛はいきなり稲むらのひとつに火を移した」「老人も,女も,子供も若者のあとを追うようにかけ出した」「五兵衛は村中の人に来てもらうために火を消すなと言った」「村中の人が集まってきた」「村人は我にかえった」「村人はこの火によって救われたのだと気がついた」「村人は五兵衛の前にひざまずいた」で,これらは物語のプロットにおける主要な出来事を示すIUであった。一方,津波襲来を描写したIUの再生率は極めて低かった。要約選択率については,再生率とほぼ同様の結果であった。それに対して,重要判断率の結果は再生率や要約選択率とは異なっていた。物語の結末の「村人は我にかえった」「村人はこの火によって救われたのだと気がついた」「村人は五兵衛の前にひざまずいた」の3つのIUの重要判断率は80%を超えていたが,それ以外のIUで重要度判断率が50%に達したものはなく,重要だと判断されるIUが実験参加者によって異なっていた。
考 察
中国人の読み手は「稲むらの火」の物語のプロットをよく理解しており記憶にも残っていたが,津波襲来の描写に関しては,その様子をよく理解できず記憶にも残らなかったものと思われる。また,物語中で重要と感じる部分は(物語の結末以外は)読み手によって異なっていた。物語展開上の出来事の重要さだけでなく,主人公の判断や考え方の重要さ,この物語が伝える防災知識の重要さなど,多様な重要さが存在しうるからであろう。すなわち,この物語から何を感じとって,何を学ぶかは,読み手によって異なっている可能性が考えられる。今後,物語から学んだことに関する自由記述データの分析を進め,中国人学習者が「稲むらの火」から何を学んだのかを検証する。