[PA040] 算数の学習指導における経験年数の異なる教師の授業中の発話の違いに関する研究
Keywords:授業, 発話, 熟達化
問題と目的
文部科学省(2011)によると,我が国は今後10年間で教員全体の約3分の1が退職し,経験の浅い教員が大量に誕生することが予想されている。そして,これからの教員に求められる資質能力として実践的指導力が掲げられ,教員の探究力や学び続ける教員を育成するために教職研修の重要性が指摘されている。すなわち,経験の浅い教師が熟達教師へと成長していくためにはモデルとなる教師像が必要であり,教師にどのような力が身についていけばいいのか,教師が熟達するとはどういうことかを明確にしておく必要があるだろう。
しかし,我が国における教師の熟達に関する先行研究では,授業展開や発問の仕方,板書の仕方等の教育方法研究が重視されており(田上, 2009),教師の学習観や教育観,Shulman (1987)が提唱したPCK (pedagogical content knowledge:以下「PCK」)を研究の対象とする近年の学習科学の研究とは質的に異なっている (Barry et al., 2009)。
そこで,本研究では算数の学習指導を取り上げ,経験年数の異なる教師の授業中の発話の違いを明らかにし,教師の熟達化を支援するための知見を得ることを目的とする。
方 法
調査協力者は保森 (2012)の経験年数の異なる各群で特徴的だった教師を3名選出し,2012年 6月~8月に次の3つの調査を行った。
調査① VTR中断インタビュー法による調査
「分数のわり算」の導入場面を授業してもらい,録画されたVTRを視聴しながら,ポイントとなる児童の発言場面でVTRを一時中断しインタビューした。分析は,3名の教師から得られた発話プロトコルを児童の自律的な思考を促す「支援的発話」,教師主導による「指示的発話」,児童の学習の理解度を尋ねる「診断的発話」等に分け,一カテゴリー一単位で分析し,得点化して合計を算出した。
調査② 質問紙法による調査
三島(2007)の質問紙を用い,3名の教師の背後にある授業・教師・子どもイメージを調査する。
調査③ 省察の視点の認知を比較する質問紙調査
3名の教師から得られた調査①と②の結果を見合い,感想を自由に記述する質問紙を行った。
結 果
若手教師は,指示的発話が発話全体のおよそ 55%を占めた。発話の特徴は集団解決時に児童の発表を聞いた後,教師自身の言葉で説明をする再説明(re-explanation)が多いという点であり,指示的発話のほぼすべてがこの発話であった。
中堅教師は,支援的発話が発話全体のおよそ 42%を占めた。中でも個別の支援が半数以上を占めた。間接的な指示的発話は,分数どうしの除法をどうすれば計算できそうかと問う発話が全体のおよそ18%を占め,ねらいを達成するために集団全体や個別に発話を繰り返した点が発話の特徴と言える。
熟達教師は,指示的発話が全体のおよそ 48%を占め,児童の発表を用いて演算決定の仕方を確認したり,分数の除法の意味を問うたりする発話が多かった。支援的発話は全体のおよそ38%を占め,児童の発表をリヴォイシングしたり,他の児童につなげたりする間接的な支援的発話が多く,児童の意味理解や協同学習を重視した発話を繰り返した点が発話の特徴と言える。
考 察
3名の教師の授業は,指示的発話が全発話プロトコルの半数以上を占めていたことから,いずれも教師中心の授業展開であったと言える。保森(2014)は,教師の熟達の様相を教師中心の PCK(teacher - centered PCK)と学習者中心のPCK(learner - centered PCK)のバランスから考察し明らかにしたが,本研究では日々のすべての授業がその通りになっているとは言えないことも明らかになった。その要因は多様に推論されるが,学習者中心のPCK(learner - centered PCK)を有し,児童の自律的な学習を支援する教師の育成は喫緊の課題であることが,本研究によって一層示唆された。
文部科学省(2011)によると,我が国は今後10年間で教員全体の約3分の1が退職し,経験の浅い教員が大量に誕生することが予想されている。そして,これからの教員に求められる資質能力として実践的指導力が掲げられ,教員の探究力や学び続ける教員を育成するために教職研修の重要性が指摘されている。すなわち,経験の浅い教師が熟達教師へと成長していくためにはモデルとなる教師像が必要であり,教師にどのような力が身についていけばいいのか,教師が熟達するとはどういうことかを明確にしておく必要があるだろう。
しかし,我が国における教師の熟達に関する先行研究では,授業展開や発問の仕方,板書の仕方等の教育方法研究が重視されており(田上, 2009),教師の学習観や教育観,Shulman (1987)が提唱したPCK (pedagogical content knowledge:以下「PCK」)を研究の対象とする近年の学習科学の研究とは質的に異なっている (Barry et al., 2009)。
そこで,本研究では算数の学習指導を取り上げ,経験年数の異なる教師の授業中の発話の違いを明らかにし,教師の熟達化を支援するための知見を得ることを目的とする。
方 法
調査協力者は保森 (2012)の経験年数の異なる各群で特徴的だった教師を3名選出し,2012年 6月~8月に次の3つの調査を行った。
調査① VTR中断インタビュー法による調査
「分数のわり算」の導入場面を授業してもらい,録画されたVTRを視聴しながら,ポイントとなる児童の発言場面でVTRを一時中断しインタビューした。分析は,3名の教師から得られた発話プロトコルを児童の自律的な思考を促す「支援的発話」,教師主導による「指示的発話」,児童の学習の理解度を尋ねる「診断的発話」等に分け,一カテゴリー一単位で分析し,得点化して合計を算出した。
調査② 質問紙法による調査
三島(2007)の質問紙を用い,3名の教師の背後にある授業・教師・子どもイメージを調査する。
調査③ 省察の視点の認知を比較する質問紙調査
3名の教師から得られた調査①と②の結果を見合い,感想を自由に記述する質問紙を行った。
結 果
若手教師は,指示的発話が発話全体のおよそ 55%を占めた。発話の特徴は集団解決時に児童の発表を聞いた後,教師自身の言葉で説明をする再説明(re-explanation)が多いという点であり,指示的発話のほぼすべてがこの発話であった。
中堅教師は,支援的発話が発話全体のおよそ 42%を占めた。中でも個別の支援が半数以上を占めた。間接的な指示的発話は,分数どうしの除法をどうすれば計算できそうかと問う発話が全体のおよそ18%を占め,ねらいを達成するために集団全体や個別に発話を繰り返した点が発話の特徴と言える。
熟達教師は,指示的発話が全体のおよそ 48%を占め,児童の発表を用いて演算決定の仕方を確認したり,分数の除法の意味を問うたりする発話が多かった。支援的発話は全体のおよそ38%を占め,児童の発表をリヴォイシングしたり,他の児童につなげたりする間接的な支援的発話が多く,児童の意味理解や協同学習を重視した発話を繰り返した点が発話の特徴と言える。
考 察
3名の教師の授業は,指示的発話が全発話プロトコルの半数以上を占めていたことから,いずれも教師中心の授業展開であったと言える。保森(2014)は,教師の熟達の様相を教師中心の PCK(teacher - centered PCK)と学習者中心のPCK(learner - centered PCK)のバランスから考察し明らかにしたが,本研究では日々のすべての授業がその通りになっているとは言えないことも明らかになった。その要因は多様に推論されるが,学習者中心のPCK(learner - centered PCK)を有し,児童の自律的な学習を支援する教師の育成は喫緊の課題であることが,本研究によって一層示唆された。