日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB005] 「新たな学び」を展開する「学び続ける」教員の養成

福井大学教職大学院における学部新卒学生の授業観の変容と成長過程の追跡

木村優 (福井大学)

キーワード:専門性開発, 授業観の変容, 教職大学院

問題と目的
平成24年8月28日の中央教育審議会答申『教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について』において,「様々な言語活動や協働的な学習活動」といった「新たな学び」を展開する「学び続ける教員」の養成が提起されている。この提起に先んじ平成19年に創設された教職大学院制度は,「①新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成」を主目的に据えて全国展開し,「優秀な現職教員とともに学ぶことにより学部新卒学生の教員就職率が毎年9割を超えている」との成果が示されている(文部科学省,2013)。
しかし,教職大学院における学修により「新たな学び」を展開する「学び続ける教員」がいかに育ったのかについての実証的知見はこれまで示されていない。そこで本研究では,福井大学教職大学院の学部新卒学生の学修過程に分析の焦点を絞り,⑴学部新卒学生が大学院における学修を通じていかに自らの授業観を高度化し,実践を鍛え,「新たな学びを展開できる実践的指導力」を培っていくのか,⑵学部新卒学生の大学院の学修成果がどのように現実の教職生活に活かされているのか,の2点を検討することを目的に定める。
方法
⑴ 協働研究者 福井大学教職大学院における学部新卒学生の学修過程と教員採用後の成長過程を追跡するため,同教職大学院を修了した森﨑岳洋教諭(中学校社会科教諭)と協働研究を実施した。
⑵ データ収集とデータ分析
a.実践研究報告書の記述内容分析 森﨑教諭が教職大学院の学修成果として執筆した学校改革実践研究報告を対象に,森﨑教諭が実践を振り返り,授業観の変容や転換について記述した箇所を抽出し,その授業観の内実を記述内容の分析から捉え,モデル化した。
b.授業参観・聴き取りの追跡調査 森﨑教諭の採用後の授業実践を継続参観し,当授業の振り返りの聴き取りを行った。この収集データを文字化し,森﨑教諭の授業実践及び授業デザインにおける思考・情動・行動を比較検討した。また,勤務校で指導にあたった校長先生に,森﨑教諭への評価と実践課題の聴き取りを行い,当データを森﨑教諭の成長過程の解釈に用いた。
結果と考察
⑴ 教職大学院における授業観の変容過程 森﨑教諭の学校改革実践研究報告の記述内容分析を行ったところ,まず,森﨑教諭の最初の授業観は大学院進学前に形成され,その授業観が教職大学院での学修を通じて大きく2度,変容したことが明らかとなった(表1)。
森﨑教諭は,実習校におけるメンター教員の授業の継続参観とコーチングから授業観1.1を1.2へ精緻化したが,自身の実践とその省察により授業観1の「甘さを痛感」した。そこで森﨑教諭は,メンター教員と他教員の授業を改めて参観,分析して授業観2.1を形成し,授業参観記録から生徒の学びの過程を分析して授業観2.2へと精緻化した。さらに,森﨑教諭はM2後期の授業実践を通し,教師と生徒が協働で授業を創り学習課題を探究する授業観3を形成した。この授業観の変容・形成過程は,森﨑教諭が「省察を行うことによって実践を意味づけ」ていった成果であった。
⑵ 教員採用後の実践化過程 教員採用1年目,森﨑教諭は授業観3に基づく実践を展開し,そこで実践を省察し再構成する省察的思考を展開していた。そして2年目には,「発言は多いが,じっくり考えることが苦手な」生徒たちの実態に即した授業を展開するに至っていた(表2)。
森﨑教諭の指導にあたった校長先生は,授業への意欲の高さ,生徒の実態に応じた教材研究等を評価し,若手のリーダーになると述べた。
知見
森﨑教諭の成長過程から,福井大学教職大学院の教員養成カリキュラムは,「新たな学び」を展開する若手教師の専門性開発と「学び続け」を支えるものとして機能することが強く示唆された