[PB046] 保育者養成における学生の省察力と批判的思考態度との関連
キーワード:保育者養成, 省察尺度, 批判的思考態度尺度
問題
本研究では,保育者養成課程の学生を対象に,保育に関する省察力と,批判的思考態度との関連を検討することを目的とした。保育者にとって日々の教育や保育に関して振り返りを行う能力は必要な資質であり,自らの実践に対して向き合い,振り返り,捉え直しをすることにより,自らを成長させていくことは,保育者養成段階にある学生にとっても重要である。そのため筆者らは,学生の資質向上に向け,実習事前指導や事後指導において,自らの理想像や保育像を構築すること,対話型アプローチによる振り返りを通して学びを深めること,主体的に自らの課題を浮き上がらせ,解決へと導く策を検討する課題解決型学習など,指導において取り組んできた。
本研究では,学生が主体的に自らの実践や学びを振り返り,保育の質を高めるために必要となる思考や態度について検討すべく,分析を行った。
方法
1)対象A短期大学2年生49名を対象とした。
2)測定時期対象者は,1年次の2月から3月にかけて保育所実習を行っており,5月に施設実習,7月か10月に保育実習Ⅱと幼稚園実習を行っている。測定時期は,保育者省察尺度は保育所実習の事後指導として実施した平成26年5月1日のカフェの際,批判的思考態度尺度は全ての実習と事後指導,課題解決型学習などを終了した平成27年2月17日に測定を行った。
3)尺度 ①保育者省察尺度(杉村ら,2006,2009)「保育者自身に関する省察項目,子どもに関する省察項目,他者をとおした省察項目,各12項目計36項目。「実習の振り返りにおいて以下の項目をそれぞれどの程度意識したか」について,1:まれにあった~5:いつもある」の5件法で回答を求めた。②批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)による33項目。「実習の振り返りにおいて以下の項目をそれぞれどの程度意識したか」について,1:あてはまらない~5:あてはまる」の5件法で回答を求めた。
結果
保育者省察尺度の「保育者自身に関する省察」「子どもに関する省察」および「他者をとおした省察」それぞれについて,各12項目の合計点を求め3つの尺度得点を作成した。そのうえで,尺度得点を従属変数,批判的思考態度の33項目を独立変数として,stepwise法による重回帰分析を行った。
その結果,「保育者自身に関する省察」尺度得点を従属変数とした場合には,「一つ二つの立場だけではなくできるだけ多くの立場から考えようとする」(β=.431)および「たとえ自分の意見が合わない人の話にも耳を傾ける」(β=-.323)の2項目が選択された(R2=.239,調整済みR2=.198)。すなわち,出来るだけ多くの立場から考え広く物事を捉えようとすることは省察を高め,また,対話を通した振り返りにおいて,内容や意見があわない,承認されないことは,省察を低める可能性が示唆された。
次に,「子どもに関する省察」尺度得点を従属変数とした場合には7項目が選択された(R2=.664,調整済みR2=.590)。選択された項目は,「生涯にわたり新しいことを学び続けたいと思う」(β=.-550),「建設的な提案をすることができる」(β=.201),「物事を深く考えるとき他の案について考える余裕が無い」(β=.238),「自分が無意識のうちに偏った見方をしていないか振り返るようにしている」(β=.563),「外国人がどのように考えるか勉強することは意義のあることだと思う」(β=.394),「どんな話に対してももっと知りたいと思う」(β=.488),「結論をくだす場合には確たる証拠の有無にこだわる」(β=-.383)であった。すなわち,建設的な提案をすることができること,物事を深く考える際に集中すること,外国人がどのように考えるかを勉強することを意義あると思うこと,及びどんな話に対してももっと知りたいと思うことは,子どもに関する省察を高める可能性が示唆された。一方で,現在学んでいる最中にある学生において難しいと予測できる生涯にわたり新しいことを学びたいと考えること,あるいは確たる証拠の有無にこだわるという態度は,子どもに関する省察を低める可能性が示唆された。
「他者をとおした省察」を従属変数とした場合には,「外国人がどのように考えるかを勉強することは,意義のあることだと思う」(β=.358)の1項目が選択され(R2=.128,調整済みR2=.105),すなわち,こうした態度が他者を通した省察を高める可能性が示唆された。
考察
以上の結果から学生の省察力を高めるため可能性をもつ思考や態度について示唆された。一部,生涯に渡り新しいことを学び続けることや自分の意見があわない人の話に耳を傾けることなど,学生にとって難しいことも示された。また,「外国人が~」の項目は,英会話の講義においてネイティブによる英語を遊びの教材とした活動について学んでおり,多様な文化や立場に触れる機会となっていると推測できる。短期大学や実習活動での学びや取り組みの経験を通して,広い立場や思考から物事を捉え,建設的な意見の提案や継続的な学習に関する能力を高めることで,省察力を深めることが可能となる可能性が本研究より示された。
*本研究は平成26年度日本学術振興会科学研究費(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)24500887の助成を受けた。
本研究では,保育者養成課程の学生を対象に,保育に関する省察力と,批判的思考態度との関連を検討することを目的とした。保育者にとって日々の教育や保育に関して振り返りを行う能力は必要な資質であり,自らの実践に対して向き合い,振り返り,捉え直しをすることにより,自らを成長させていくことは,保育者養成段階にある学生にとっても重要である。そのため筆者らは,学生の資質向上に向け,実習事前指導や事後指導において,自らの理想像や保育像を構築すること,対話型アプローチによる振り返りを通して学びを深めること,主体的に自らの課題を浮き上がらせ,解決へと導く策を検討する課題解決型学習など,指導において取り組んできた。
本研究では,学生が主体的に自らの実践や学びを振り返り,保育の質を高めるために必要となる思考や態度について検討すべく,分析を行った。
方法
1)対象A短期大学2年生49名を対象とした。
2)測定時期対象者は,1年次の2月から3月にかけて保育所実習を行っており,5月に施設実習,7月か10月に保育実習Ⅱと幼稚園実習を行っている。測定時期は,保育者省察尺度は保育所実習の事後指導として実施した平成26年5月1日のカフェの際,批判的思考態度尺度は全ての実習と事後指導,課題解決型学習などを終了した平成27年2月17日に測定を行った。
3)尺度 ①保育者省察尺度(杉村ら,2006,2009)「保育者自身に関する省察項目,子どもに関する省察項目,他者をとおした省察項目,各12項目計36項目。「実習の振り返りにおいて以下の項目をそれぞれどの程度意識したか」について,1:まれにあった~5:いつもある」の5件法で回答を求めた。②批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)による33項目。「実習の振り返りにおいて以下の項目をそれぞれどの程度意識したか」について,1:あてはまらない~5:あてはまる」の5件法で回答を求めた。
結果
保育者省察尺度の「保育者自身に関する省察」「子どもに関する省察」および「他者をとおした省察」それぞれについて,各12項目の合計点を求め3つの尺度得点を作成した。そのうえで,尺度得点を従属変数,批判的思考態度の33項目を独立変数として,stepwise法による重回帰分析を行った。
その結果,「保育者自身に関する省察」尺度得点を従属変数とした場合には,「一つ二つの立場だけではなくできるだけ多くの立場から考えようとする」(β=.431)および「たとえ自分の意見が合わない人の話にも耳を傾ける」(β=-.323)の2項目が選択された(R2=.239,調整済みR2=.198)。すなわち,出来るだけ多くの立場から考え広く物事を捉えようとすることは省察を高め,また,対話を通した振り返りにおいて,内容や意見があわない,承認されないことは,省察を低める可能性が示唆された。
次に,「子どもに関する省察」尺度得点を従属変数とした場合には7項目が選択された(R2=.664,調整済みR2=.590)。選択された項目は,「生涯にわたり新しいことを学び続けたいと思う」(β=.-550),「建設的な提案をすることができる」(β=.201),「物事を深く考えるとき他の案について考える余裕が無い」(β=.238),「自分が無意識のうちに偏った見方をしていないか振り返るようにしている」(β=.563),「外国人がどのように考えるか勉強することは意義のあることだと思う」(β=.394),「どんな話に対してももっと知りたいと思う」(β=.488),「結論をくだす場合には確たる証拠の有無にこだわる」(β=-.383)であった。すなわち,建設的な提案をすることができること,物事を深く考える際に集中すること,外国人がどのように考えるかを勉強することを意義あると思うこと,及びどんな話に対してももっと知りたいと思うことは,子どもに関する省察を高める可能性が示唆された。一方で,現在学んでいる最中にある学生において難しいと予測できる生涯にわたり新しいことを学びたいと考えること,あるいは確たる証拠の有無にこだわるという態度は,子どもに関する省察を低める可能性が示唆された。
「他者をとおした省察」を従属変数とした場合には,「外国人がどのように考えるかを勉強することは,意義のあることだと思う」(β=.358)の1項目が選択され(R2=.128,調整済みR2=.105),すなわち,こうした態度が他者を通した省察を高める可能性が示唆された。
考察
以上の結果から学生の省察力を高めるため可能性をもつ思考や態度について示唆された。一部,生涯に渡り新しいことを学び続けることや自分の意見があわない人の話に耳を傾けることなど,学生にとって難しいことも示された。また,「外国人が~」の項目は,英会話の講義においてネイティブによる英語を遊びの教材とした活動について学んでおり,多様な文化や立場に触れる機会となっていると推測できる。短期大学や実習活動での学びや取り組みの経験を通して,広い立場や思考から物事を捉え,建設的な意見の提案や継続的な学習に関する能力を高めることで,省察力を深めることが可能となる可能性が本研究より示された。
*本研究は平成26年度日本学術振興会科学研究費(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)24500887の助成を受けた。