[PD038] 大学生の感動体験の質的分析
他者のエピソードを見聞することによる感動体験の検討
キーワード:感動, 感動体験, 他者エピソード
問題と目的
人はしばしば日常生活の中で「感動」を体験する。特に思春期から青年期にかけての深い感動は,人間的成熟に影響を与えるとされる(戸梶,2004)。その一側面として感動は自己効力感を高めるなど動機づけとしての機能を有することが示されている(e.g., 佐伯・新名・服部・三浦,2006)。しかし,例えば苦労しつつも努力を続けている友人を見て感動する者もいれば,努力を認めつつも感動までは至らない者もいる。こういった感動体験の個人差や,感動に至るプロセスについては明らかになっていない。本研究では,特に他者の苦労および努力エピソードを見聞することによる感動に焦点を当て,感動体験を通じてやる気が出た経験を回顧的に尋ね,どういった要因が感動体験に影響を与えうるかを探索的に検討する。
方 法
対象 大学生181名(男97名,女84名)
質問紙 ①他者のエピソードに感動した経験を尋ねた。対象とする他者は,家族や友人,恋人などの「身近な人物」,雑誌やテレビで知った一般人やスポーツ選手,芸能人などの「有名人」,小説の登場人物や映画の役などの「キャラクター」の3種類。3種の対象それぞれについて何かを成し遂げたエピソード(達成有)とそうでないエピソード(達成無)を見聞して感動に至った経験があるかどうかを尋ねた。②①で尋ねた各感動体験が「ある」場合にはその詳細を自由記述で回答し,「ない」場合にはそのような場面を想像して記述するように求めた。③各体験時の感銘度を5件法で尋ねた。
結 果
他者のエピソードを見聞することによる感動体験の有無 欠測値のあった2名を除外した179名のデータを分析に用いた。他者エピソードの種類別の感動体験の有無の内訳はTABLE 1の通りである。
感動体験の分類 179名から得られた自由記述のうち,「感動した経験がある」と回答した者の記述内容のみを取り出し,各記述の内容について評定を行った。評定者2名の一致率は93%であり,一致しなかった箇所については協議により分類した。「不明」と判断されたものを分析対象から除外した計700個の記述を分析対象とした。
考 察
感動体験の有無に関して,「身近な人物」に関する記述数は達成の有無でほぼ同程度であるものの,「有名人」および「キャラクター」については達成有エピソードの方が達成無エピソードよりも感動体験があるという報告が多かった。回顧的な回答の多さは,情報が参照されやすいことを反映したものであると考えられる。戸梶(2004)より達成無エピソードは感動に結びつきにくいことが示唆されていた。しかし本結果より,接する機会が多く関連する情報が豊富な身近な対象のエピソードは感動体験に繋がりやすいと推察される。
感動体験の自由記述の内容分類の結果より,「身近な人物」については多くの大学生が体験する受験や部活に関する記述が多い。一方,「有名人」は「発明・仕事」,「キャラクター」は「夢を叶える」と,「身近な人物」と比して日常生活とは距離のある内容に関する記述が多くみられた。速水・陳(1994)は動機づけ的機能を有する感動体験の記憶のうち,中核を成すのは自己の記憶,その次に身近な人達の努力・苦労のエピソード,その周辺に生き方についての言葉や励ましの言葉があると考察した。本結果は,身近な他者だけでなく直接知り合いでない他者のエピソードでも感動に至る場合があり,また,自分の日常生活にはない活動に関するエピソードを見聞した場合でも人は感動することがあるということを示すものである。本研究を踏まえ,他者のエピソードに感動するという現象について実証的に検討することが,感動体験の詳細を解明するために必要である。
人はしばしば日常生活の中で「感動」を体験する。特に思春期から青年期にかけての深い感動は,人間的成熟に影響を与えるとされる(戸梶,2004)。その一側面として感動は自己効力感を高めるなど動機づけとしての機能を有することが示されている(e.g., 佐伯・新名・服部・三浦,2006)。しかし,例えば苦労しつつも努力を続けている友人を見て感動する者もいれば,努力を認めつつも感動までは至らない者もいる。こういった感動体験の個人差や,感動に至るプロセスについては明らかになっていない。本研究では,特に他者の苦労および努力エピソードを見聞することによる感動に焦点を当て,感動体験を通じてやる気が出た経験を回顧的に尋ね,どういった要因が感動体験に影響を与えうるかを探索的に検討する。
方 法
対象 大学生181名(男97名,女84名)
質問紙 ①他者のエピソードに感動した経験を尋ねた。対象とする他者は,家族や友人,恋人などの「身近な人物」,雑誌やテレビで知った一般人やスポーツ選手,芸能人などの「有名人」,小説の登場人物や映画の役などの「キャラクター」の3種類。3種の対象それぞれについて何かを成し遂げたエピソード(達成有)とそうでないエピソード(達成無)を見聞して感動に至った経験があるかどうかを尋ねた。②①で尋ねた各感動体験が「ある」場合にはその詳細を自由記述で回答し,「ない」場合にはそのような場面を想像して記述するように求めた。③各体験時の感銘度を5件法で尋ねた。
結 果
他者のエピソードを見聞することによる感動体験の有無 欠測値のあった2名を除外した179名のデータを分析に用いた。他者エピソードの種類別の感動体験の有無の内訳はTABLE 1の通りである。
感動体験の分類 179名から得られた自由記述のうち,「感動した経験がある」と回答した者の記述内容のみを取り出し,各記述の内容について評定を行った。評定者2名の一致率は93%であり,一致しなかった箇所については協議により分類した。「不明」と判断されたものを分析対象から除外した計700個の記述を分析対象とした。
考 察
感動体験の有無に関して,「身近な人物」に関する記述数は達成の有無でほぼ同程度であるものの,「有名人」および「キャラクター」については達成有エピソードの方が達成無エピソードよりも感動体験があるという報告が多かった。回顧的な回答の多さは,情報が参照されやすいことを反映したものであると考えられる。戸梶(2004)より達成無エピソードは感動に結びつきにくいことが示唆されていた。しかし本結果より,接する機会が多く関連する情報が豊富な身近な対象のエピソードは感動体験に繋がりやすいと推察される。
感動体験の自由記述の内容分類の結果より,「身近な人物」については多くの大学生が体験する受験や部活に関する記述が多い。一方,「有名人」は「発明・仕事」,「キャラクター」は「夢を叶える」と,「身近な人物」と比して日常生活とは距離のある内容に関する記述が多くみられた。速水・陳(1994)は動機づけ的機能を有する感動体験の記憶のうち,中核を成すのは自己の記憶,その次に身近な人達の努力・苦労のエピソード,その周辺に生き方についての言葉や励ましの言葉があると考察した。本結果は,身近な他者だけでなく直接知り合いでない他者のエピソードでも感動に至る場合があり,また,自分の日常生活にはない活動に関するエピソードを見聞した場合でも人は感動することがあるということを示すものである。本研究を踏まえ,他者のエピソードに感動するという現象について実証的に検討することが,感動体験の詳細を解明するために必要である。