日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD073] 学校支援ボランティアの教育的効果

活動を通して感じた気づきの探索的検討

三浦巧也1, 犬塚美輪2, 川俣智路3, 霜田浩信4, 熊谷亮5, 橋本創一6 (1.大正大学, 2.大正大学, 3.大正大学, 4.群馬大学, 5.東京学芸大学, 6.東京学芸大学)

キーワード:大学生, 学校支援ボランティア, テキストマイニング

問題と目的
T大学では,2005年より近隣公立小中学校と連携し,少人数指導や,特別な教育的ニーズのある児童生徒への支援を単位化して取り組んできた。こうした学校支援ボランティアの教育的効果について,学生自身の気づきをもとに統計的な分析によって検討した研究は見当たらない。そこで,本研究は,学校支援ボランティアが学生に与える教育的効果を,活動によって得られた学生自身の成長及び身に付けた価値(強み)から探索的に検討することを目的とする。
方 法
調査期間:2015年1月の最終講義時に調査を実施・回収した。
分析対象:学校支援ボランティアの講義を通年で履修し,実際に定期的に活動した初年次学生26名から得られたデータを分析対象とした。
調査内容:フェースシートに性別・学校種の記述を求めた。また,学校支援ボランティアの活動を通して,①自分自身が成長したところ,②身に付けた価値(強み)の2項目に関する回答を,自由記述で求めた。
分析方法:自由記述の分析は,自由記述欄に書かれていた記述をテキストデータに置き換えた。その後,誤字脱字の修正,表記の統一(例:子供,小学生→ 「児童」,みんな,中学生→ 「生徒」,先生,教員→ 「教師」)を行った。加えて,複数の内容が含まれている記述は,まとまりごとに文章を分解した。そして,テキストデータについて,形態素解析を行い出現回数が2回以上の語を用いて,計量テキスト分析システムKH Coderによる共起ネットワーク分析を行った。共起ネットワークは,抽出語の関連性を把握するために用いた分析方法である。本研究では,関連のある言葉をそれぞれの距離と結ばれた線の太さでその関連の強さを表し,全体の傾向を検討した。なお,抽出語の「児童」「生徒」は分析から除外し,「小学校」「中学校」という外部変数を用いて分析を行った。
結 果
性別・学校種:男子学生は17名(65.4%),女子学生は9名(34.6%)であった。小学校における活動は17名(65.4%),中学校における活動は9名(34.6%)であった。
活動を通して感じた自己の成長:総抽出語数は186語,出現回数の平均は1.88(SD=2.85)であった。共起ネットワークによる分析の結果,3つの領域に分けられた。1つ目は,小学校での活動における生活場面に関する領域である。特に,児童及び教師の行動をよりよく観察する力を成長として捉えていることが推測された。2つ目は,中学校での活動における学習場面に関する領域である。特に,生徒がよりよく理解するための指導方法の習得を成長として捉えていることが推測された。3つ目は,小学校・中学校に共通した領域であり,特に,子どもに対応する力や教師との信頼関係の構築といった,関係作りの深化を成長として捉えていることが推測された(Figure 1)。
活動を通して身に付けた価値(強み):総抽出語数は198語,出現回数の平均は1.69(SD=2.22)であった。共起ネットワークによる分析の結果,学校種による差異はなく,1つの領域として示された。小学校・中学校での活動において,特に,子どもの観察を通して適切な対応を考え,自覚して行動する力を身に付けた価値(強み)として捉えていることが推測された。また,現場の教師と直接関わりを持つことが出来たという経験自体も価値(強み)であると推測された(Figure 2)。
考 察
学校支援ボランティア活動は,学生が子どもの理解に必要な観察力や対応力の向上をもたらす効果があることが示唆された。また,学校現場で直接教師に出会い,信頼関係を築くプロセスを体験する貴重な機会となり,活動自体が学生自身の価値(強み)として位置づけられることも推察された。今後,本活動の教育的効果を促進していく一方策として,子どもの発達段階を視野に入れ,学生の個人要因や活動期間による気づきの特徴を考慮し,専門知識の提供やOJT等を取り入れた授業カリキュラムを開発していくことが課題である。