日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE071] 児童養護施設の高校生における進路選択

希望進路と予測進路に関連する要因の探索的検討

平井美佳1, 林恵子#2 (1.横浜市立大学, 2.NPO法人ブリッジフォースマイル)

キーワード:児童養護施設, 高校生, 進路選択

問題と目的
わが国の社会的養護制度の主流は里親ではなく児童養護施設である。2013年の時点で28,831人の子どもたちが生活し,そのうち半数以上が虐待を受けた経験がある(厚生労働省,2014)。社会的養護の対象となる子どもたちには,貧困,孤立と排除,被害や疾病・障害など質的に異なる困難が複合し,不利が重なり合う(松本,2012)。家族中心の政策の外に置かれた子どもたちの社会的排除とその連鎖の解消には,子どもたちの進学や就労への継続的支援が必要であると考えられる。
施設児の高校進学率は上がってきたものの,大学と専修学校への進学率は依然として全国のそれと著しい開きがある(全国平均76.9%,児童養護施設児22.6%,厚生労働省,2014)。この背景について,経済,社会,心理的な要因から検討し,この格差を縮めるための糸口を見出す必要がある。
本研究では,全国の児童養護施設で暮らす高校生を対象として,高校生らの考える希望進路と予測進路,および,それに関連する要因について明らかにすることを目的とする。関連要因としては,ここでは限定的であるが性別,学年,希望職種の有無,貯金額,アルバイトの有無,自己肯定感,および,退所後の不安を取り上げ,検討を行う。
方法
【調査協力者】児童養護施設に生活する高校1~3年の女子522名,男子551名の計1,079 名。児童擁護施設に生活する子どもの自立支援を行うNPO法人ブリッジフォースマイルが全国の596施設に2014年6月に質問紙調査を依頼し,各施設から高校生に配布・回収されたものである。回収率は約18%であった。
【調査内容】 1.自己肯定感15項目(文部科学省が用いている項目と同じもの,4段階評定),2.進路希望(希望進路,予測進路,希望職種の有無),3.退所後に心配なこと13項目(東京都福祉局による調査に用いられたものと同じ項目,4段階評定)。その他,貯金額やアルバイト時間,など。
結果と考察
1.希望進路と予測進路
サンプル全体における希望進路と予測進路は,それぞれ「進学」が35.3%,27.1%,「就職」が48.6%,50.6%,「わからない」が13.6%,19.3%であった。希望進路においてより「進学」が多く,予測進路で「わからない」が多かった(χ2(2)= 22.69, p<.01)。
性別には,希望進路(χ2(2)=17.80, p<.01)も予測進路(χ2(2)=12.46, p<.01)もともに,女子で「進学」が多く男子で「就職」が多かった。また,学年別にみると,希望進路(χ2(4)=32.04, p<.01)と予測進路(χ2(4)=47.56, p<.01)においてともに,1年生で「就職」が少なく「わからない」が多く,3年生は「わからない」が少なく「就職」が多かった(Figure 1)。特に希望進路において,学年が上がるにつれて進学ではなく就職が増えていく傾向がわかる。

さらに,希望職種の有無(あり785名,なし268名)別には希望職種が「ある」と答えた者,また,貯金の高低群(20万円を切点とした)では高群で,アルバイトの有無別ではアルバイトをしている子どもで「進学」を選択した者が多かった。
2.自己肯定感と退所後の不安との関連
希望進路と予測進路の組み合わせについて”一貫進学群”(希望も予測も「進学」282名),”進学あきらめ群”(「進学」を希望するが予測は「就職」か「わからない」105名),”一貫就職群”(希望も予測も「就職」487名),”未決定群”(希望も予測も「わからない」132名+希望は「就職」だが予測は「わからない」29名)の4群に分類し,これを1要因としたANOVAにより検討したところ,自己肯定感(分布の異なる2項目を除く13項目の平均)は一貫して進学または就職を選択した高校生で高かった(F (3,982)=19.28, p <.01)。また,退所後の不安については,全体的には”進学あきらめ群”と”未決定群”で得点が高かった (F (3,993)=5.44, p<.01)。しかし,下位領域別に見ると,経済的な不安については進学群でも高い値を示した。