日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE077] 大学入学者の大学生活への適応プロセスに関する研究(2)

1年次から2年次にかけての縦断的調査による検討

水野邦夫 (帝塚山大学)

キーワード:適応プロセス, 大学生, 縦断的研究

「大学全入時代」と言われるようになってから既に久しいが,大学入学者をいかにスムーズに適応させるかについては,多くの大学関係者が頭を痛めている問題でもある。一方で,適応プロセスを長期的な視点から扱った研究はあまりみられないように思われる。水野(2014)は大学入学者の1年間にわたる適応プロセスを報告しているが,本研究は,さらに縦断的調査を続け,より長期的な適応プロセスを検討することを目的とした。
方 法
被調査者 20XX年から20XX+2年にかけて近畿圏の一大学に入学し,心理学関連の科目を受講した大学生341名(男子121名,女子220名)。
心理尺度 学校生活に対する意識の調査項目(二宮, 1990):学校への適応感を測定する尺度で,「学校適応(大学への満足感や適応感)」と「仲間志向(大学での友人関係の良好さ)」の尺度からなる。回答方式は1~5の5段階評定によった。
手続き 授業時間の一部を利用し,被調査者の了承を得て,心理尺度への回答を求めた。調査は原則として,1年次から2年次の4月中旬,7月下旬,10月上旬,1月下旬に継続して実施した。
結 果
すべての調査(計7回)に記入漏れなく回答したデータを分析対象とした。
学校適応得点の変化 各回の学校適応得点を従属変数とした,2(性別)×3(学年)×7(調査時期)の分散分析を行った(分析対象数はM:42,F:116)。その結果,調査時期の主効果のみが有意であった(F(4.4, 676.3) = 20.31, p < .001, ηp2 = .118)。Bonferroni法による多重比較の結果,1年次4月の値が他よりも有意に高く,1年次1月が他の1年次や,2年次4月よりも有意に低く,2年次4月は他の2年次よりも有意に高いという結果が得られた(Figure 1参照)。
仲間志向得点の変化 仲間志向得点についても,同様の分散分析を行った(同M:43,F:117)。その結果,性別および調査時期の主効果が有意であった(各,F(1, 154) = 8.66, p < .01, ηp2 = .053;F(4.6, 709.8) = 2.35, p < .05, ηp2 = .015)。総じて女子の方が得点が高く,調査時期については1年次10月が同1月より有意に高かった(Figure 1参照)。
各調査時点における両得点の相関 次に,各調査時点における学校適応得点と仲間志向得点の相関係数を求めた。その結果をTable 1に示す。いずれも有意な相関であったが,2年次になると1年次よりも値が低くなっているのがわかる。
考 察
1年次4月の学校適応得点は大学生活への期待を反映していると考えられる。その後の低下は,平均値が中間値(3.0)を上回っていることから,現実的な適応へとシフトしたものであろう。2年次に再度上昇するのは,年度替りで「仕切り直し」という気持ちの表れとも考えられよう。仲間志向得点の一時期低下の原因は不明であるが,総じて大きな変化はみられず,安定した友人関係を形成していることが窺える。2年次に学校適応と仲間志向の相関が若干低下することから,2年次の大学適応は,別の要因が関与する可能性が示唆される。最後に,本データはいわば「適応者」のデータであり,今後はこの結果をベースに,不適応状態との差異を明らかにする必要があろう。