日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF024] 目標設定と作文による振り返りが児童の目標設定能力と目標を踏まえた活動に及ぼす影響

学習発表会での活動に基づく考察

梶井芳明1, 中山遼子#2 (1.東京学芸大学, 2.札幌市立平岡公園小学校)

キーワード:目標設定の習慣, 学習発表会への有用感, 一枚ポートフォリオ

問題と目的
学校生活において,児童が目標やめあてを設定し,その達成を目指して活動することは,児童が活動に意欲的に取り組むことや達成感を感じることにつながるため,重要であるとされている。先行研究では,目標設定・活動・作文による振り返り・目標の再設定の循環を,一枚ポートフォリオを活用して取り組むことにより,児童の目標設定能力や,目標を踏まえた活動をする力が向上することが示されている(例えば,堀, 2009; 宮田, 2012; 梶井・仕道, 2014; 金谷・梶井, 2014)。しかし,これまでの研究では,児童の目標設定の習慣や学習内容に関する有用感,さらには児童評価と教師評価の比較から,十分な検討はなされていない。
そこで本研究では,学習発表会の準備活動における目標設定から目標の再設定の循環を,一枚ポートフォリオを活用して取り組む課題を扱う。この課題への取り組みが,児童の目標設定の習慣及び学習発表会への有用感に関する評価に及ぼす影響と,目標設定能力及び目標を踏まえて活動をする力に及ぼす影響を,それぞれ質問紙と行動観察により明らかにする。
方 法
調査対象:都内公立小学校第6学年に在籍する児童,計70名であった。さらに,調査開始時に実施した質問紙への回答結果から,目標設定の習慣があり学習発表会への有用感が低い児童(タイプA児)のうち,児童評価と教師評価が一致している児童とそうでない児童各1名,目標設定の習慣がなく学習発表会への有用感が低い児童(タイプB児)のうち,児童評価と教師評価が一致している児童とそうでない児童各1名,計4名を選出した。
調査期間:2014年10月から11月の間に実施した。
調査方法:質問紙調査法及び行動観察法を用いた。
質問紙調査:次の2種類の質問紙を使用した。1つは,学習発表会の準備活動における目標設定の習慣の有無を測る4項目と,学習発表会への有用感を測る4観点10項目の,計14項目からなる質問紙。もう1つは,学習発表会の準備活動における目標設定及び作文による振り返りをするためのワークシートであった。
行動観察:4名の選出児童について,学習発表会の準備活動・学習発表会本番の学習過程を縦断的に観察した。なお,観察は,上述の質問紙とワークシートの内容を関連づけて行った。
結果と考察
質問紙の回答結果より,タイプB児-一致において,目標設定の習慣が高まった後に学習発表会への有用感が高まるといった,仮説を支持する段階的な変容が見られた。一方,タイプB児-不一致は,2回目調査から3回目調査において,目標設定の習慣及び学習発表会への有用感がともに高まる変容が見られたことから,仮説の一部が支持された。
タイプA児-一致においては,目標設定の習慣は高まったものの,学習発表会への有用感には持続した高まりが見られなかった。一方,タイプA児-不一致は,学習発表会への有用感は高まるものの,目標設定の習慣は低まる変容が見られた。このように,タイプA児-一致,不一致においては,ともに仮説の一部が支持された。
以上のことから,タイプB児-一致及び不一致については,目標設定の習慣を身につけることが,学習発表会への有用感を高める一助となったことが示唆された。また,タイプA児-一致は,自分自身に関する(友達との協力に関する記述ではない)目標設定をする傾向が強いことが,学習発表会への有用感が高まらない一因となったと推察される。さらに,タイプA児-不一致は,自身の達成できなかったことを繰り返し目標設定したり,教師に受けた指導を目標設定や準備活動に十分に役立てることができなかったりしたことが,目標設定の習慣が低まる一因となったと推察される。
本研究の結果からは,タイプB児に対しては,本研究で実施した目標設定・活動・作文による振り返り・目標の再設定といった目標設定の習慣が,学習発表会への有用感を高める上で重要である。一方,タイプA児については,教師が,児童の目標設定の様子や達成できたことに注意し,自身が与えた指導を児童が行う目標設定に役立たせていくことが重要であると言える。
<付記>本研究は,第1著者の指導のもと,第2著者が,平成26年度に東京学芸大学教育学部教育心理学講座に提出した卒業論文の一部を加筆修正したものである。