[PF039] 根拠産出トレーニングの効果に関する検討
呈示される例の質は産出に影響するか
Keywords:根拠産出, 意見文, 大学生
問題と目的
量的・質的に優れた作文が産出されるには,作文前の過程を充実させることが重要である。意見文生成に至る過程を充実させる方法として,西森・三宮(2012,2014)は,意見文生成前の学習課題として「根拠産出トレーニング」を開発し,その効果を検討している。根拠産出トレーニングを通して,(1)産出される根拠数は増加すること,(2)根拠を考えるときの視点が多様化すること,(3)[自分の主張を支える根拠]だけでなく,[自分と異なる主張を支える根拠]も考えるようになること,が明らかになっている。ただし,これまでのところ,根拠産出トレーニングと同等の介入を比較した検討はなされていない。
そこで本稿では,作文前に書き手のイメージ喚起を支援する介入である「連想」(平山 1994)に着目し,連想産出を促す群を設定し,「根拠産出トレーニング」の効果について検討する。また,トレーニングの特徴の一つである「他者の産出した根拠例を参照する」について,呈示される根拠例の質(説得力の高低)が根拠産出に影響するのかどうか,併せて検討する。
方法
対象者 心理学の授業を受講する大学生。実験群1(説得力高)20名(男性10名,女性10名),実験群2(説得力低)20名(男性12名,女性8名),対照群(連想)15名(男性11名,女性4名)は,ランダムに割り当てられた。
手続きと材料 事前に作成されたインストラクションガイドに従い,第一筆者によって集団実験がおこなわれた。このとき,実験材料としてワークブック3種類が準備された。ワークブックは,(1)フェースシート,(2)事前問題(2問),(3)トレーニング問題(トピックの異なる5問。問題例:「国内の工場は海外へさらに移転すべきだ」という主張があります。この主張についてできるだけいろいろな根拠を(連想されることを)考えてください。),(4)事後問題(2問,うち1問は事前問題と共通),から構成された。このうち(3)のトレーニング問題は,(a)「ある主張」に対する賛成度・関心度の評定(1分間),(b)「ある主張」を支える根拠の産出(実験群1・2)/「ある主張」に関連する連想の産出(対照群)(いずれも3分間),(c)他者の産出した例(10例)の参照(1分間)の順番で進められた。なお,(c)他者の産出した例の参照では,実験群1(説得力高)には,大学生(対象者とは異なる45名)によって「説得力が高い」と評定された根拠を中心とする10例が,問題ごとに呈示された。実験群2(説得力低)には,同じく「説得力が低い」と評定された根拠10例が呈示された。対照群(連想)には,「他者が考えた連想」10例が呈示された。
結果
問題への誤反応等をチェックしたのち,根拠数(平均)を群ごとに算出した。結果をFigure 1に示す。事前・事後問題の根拠数の変化量を従属変数,条件(実験群1(説得力高)・実験群2(説得力低)・対照群(連想))を独立変数とする一要因分散分析をおこなったところ,条件の主効果が有意であった(F(2,52)=4.58, p<.05)。そのため,多重比較(Bonferroni)をおこなったところ,実験群1(説得力高)(M=2.00, SD=1.38)と対照群(連想)(M= 0.40, SD=1.77)の変化量の平均値に有意差が認められた(p<.05)。また,実験群2(説得力低)(M=1.60, SD=1.64)と対照群(連想)の変化量の平均値の差は,有意傾向(p<.10)であった。実験群1(説得力高)と実験群2(説得力低)の変化量の平均値に有意な差は認められなかった。
考察
分析の結果,根拠産出トレーニングを通して,根拠を考える力が促進されることが示された。また,トレーニングの特徴の一つである「他者の産出した根拠例を読む」に関しては,呈示される根拠例の質(説得力の高低)は,産出される根拠数に影響しないことが明らかになった。今後は,呈示される根拠例の質は,産出された根拠の内容(質)に影響するのかどうか分析を進める必要がある。
量的・質的に優れた作文が産出されるには,作文前の過程を充実させることが重要である。意見文生成に至る過程を充実させる方法として,西森・三宮(2012,2014)は,意見文生成前の学習課題として「根拠産出トレーニング」を開発し,その効果を検討している。根拠産出トレーニングを通して,(1)産出される根拠数は増加すること,(2)根拠を考えるときの視点が多様化すること,(3)[自分の主張を支える根拠]だけでなく,[自分と異なる主張を支える根拠]も考えるようになること,が明らかになっている。ただし,これまでのところ,根拠産出トレーニングと同等の介入を比較した検討はなされていない。
そこで本稿では,作文前に書き手のイメージ喚起を支援する介入である「連想」(平山 1994)に着目し,連想産出を促す群を設定し,「根拠産出トレーニング」の効果について検討する。また,トレーニングの特徴の一つである「他者の産出した根拠例を参照する」について,呈示される根拠例の質(説得力の高低)が根拠産出に影響するのかどうか,併せて検討する。
方法
対象者 心理学の授業を受講する大学生。実験群1(説得力高)20名(男性10名,女性10名),実験群2(説得力低)20名(男性12名,女性8名),対照群(連想)15名(男性11名,女性4名)は,ランダムに割り当てられた。
手続きと材料 事前に作成されたインストラクションガイドに従い,第一筆者によって集団実験がおこなわれた。このとき,実験材料としてワークブック3種類が準備された。ワークブックは,(1)フェースシート,(2)事前問題(2問),(3)トレーニング問題(トピックの異なる5問。問題例:「国内の工場は海外へさらに移転すべきだ」という主張があります。この主張についてできるだけいろいろな根拠を(連想されることを)考えてください。),(4)事後問題(2問,うち1問は事前問題と共通),から構成された。このうち(3)のトレーニング問題は,(a)「ある主張」に対する賛成度・関心度の評定(1分間),(b)「ある主張」を支える根拠の産出(実験群1・2)/「ある主張」に関連する連想の産出(対照群)(いずれも3分間),(c)他者の産出した例(10例)の参照(1分間)の順番で進められた。なお,(c)他者の産出した例の参照では,実験群1(説得力高)には,大学生(対象者とは異なる45名)によって「説得力が高い」と評定された根拠を中心とする10例が,問題ごとに呈示された。実験群2(説得力低)には,同じく「説得力が低い」と評定された根拠10例が呈示された。対照群(連想)には,「他者が考えた連想」10例が呈示された。
結果
問題への誤反応等をチェックしたのち,根拠数(平均)を群ごとに算出した。結果をFigure 1に示す。事前・事後問題の根拠数の変化量を従属変数,条件(実験群1(説得力高)・実験群2(説得力低)・対照群(連想))を独立変数とする一要因分散分析をおこなったところ,条件の主効果が有意であった(F(2,52)=4.58, p<.05)。そのため,多重比較(Bonferroni)をおこなったところ,実験群1(説得力高)(M=2.00, SD=1.38)と対照群(連想)(M= 0.40, SD=1.77)の変化量の平均値に有意差が認められた(p<.05)。また,実験群2(説得力低)(M=1.60, SD=1.64)と対照群(連想)の変化量の平均値の差は,有意傾向(p<.10)であった。実験群1(説得力高)と実験群2(説得力低)の変化量の平均値に有意な差は認められなかった。
考察
分析の結果,根拠産出トレーニングを通して,根拠を考える力が促進されることが示された。また,トレーニングの特徴の一つである「他者の産出した根拠例を読む」に関しては,呈示される根拠例の質(説得力の高低)は,産出される根拠数に影響しないことが明らかになった。今後は,呈示される根拠例の質は,産出された根拠の内容(質)に影響するのかどうか分析を進める必要がある。