[PG012] 学校危機に遭遇した教師の体験に関する実証的研究(9)
生徒の突然の病死に遭遇した教頭の事例から
キーワード:緊急支援, 複線径路・等至性モデル
問題と目的
突然の災害,事件・事故に遭遇して危機に陥った学校へより効果的な支援を行うには,自らも大きな影響を受けながら危機対応の中心とならざるを得ない教師の体験を明らかにすることが求められる。われわれは学校危機に遭遇した教師へのインタビュー調査を行い,異なった事案に遭遇した立場の異なる教師の体験に検討を加えてきた(丸山ら,2013他)が,まだまだその数は少ない。そこで本研究は,生徒の突然の病死に遭遇した教頭の事例を分析し,学校危機に対する,より効果的な支援のあり方を検討する基礎資料を得ることを目的とする。
方法
【インタビュー参加者】生徒の突然の病死に遭遇したA県D市E中学校教頭。インタビュー参加について所定の書式で同意を得た。
【事故の概要】体育祭前日の練習時,生徒が突然倒れ救急搬送されたが,その1週間後死亡した。本事案に対しては,臨床心理士2名による支援が延べ3日なされ,こころの健康調査,生徒へのカウンセリング等が行われた。
【データ収集方法】事故発生から2年以上経過した後に,危機遭遇時の教師の体験について半構造化面接が実施された。項目は丸山ら(2013)を参照。名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会承認(PR13-299)を得た。
【分析方法】①インタビューデータを基に逐語録を作成し,②時系列に並べて,KJ法の手順を用いてカテゴリーを抽出したのち,③各カテゴリーを複線径路・等至性モデル(TEM)の方法に従って分析した。等至点(EFP:Equifinality Point)として「学校の落ち着き」を設定し,「事故の発生」から「学校の落ち着き」に至る過程を記述した。
結果と考察
本事例は,体育祭前日の練習中に生徒が救急搬送された事例である。事の大きさから,翌日に開催される体育祭を実施していいかの判断に迷いが生じた。結果的に体育祭を実施したが,学校行事の運営と当該生徒への支援を「同時進行」で対応しなければならなかった。そのような中で,学校内に教頭だけではなく「学校運営の柱になる教員」である生徒指導主事と相談しながら対応することで乗り切ることができた。加えて,この生徒指導主事とは「前任校でも生徒の事故死に対応した経験」があり,このことも支援を行っていく上で促進要因になっていたように思われる。このような学校経営参画者・支援者としてのパートナーの存在は一人で抱え込まないためにも重要であると考えられる。
また,緊急支援チームの支援について,「専門的分野で,教師ができないことをしてくれたので,安心できた」と語っている。加えて,緊急支援チームに当該校SCの存在への安心感も併せて語っている。このように外部からの支援者である緊急支援チームの中に,日頃から信頼関係を築いていた当該校SCがメンバーとしていたことが学校との協働に大きく影響していたことが考えられる。
今回の事案で,パートナーとしての生徒指導主事の存在が大きかったこと,日常的に必要なこととして“危機管理能力の研修の充実”が語られたことから,教員に対する学校コミュニティの危機に関する研修の充実が求められる。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。
突然の災害,事件・事故に遭遇して危機に陥った学校へより効果的な支援を行うには,自らも大きな影響を受けながら危機対応の中心とならざるを得ない教師の体験を明らかにすることが求められる。われわれは学校危機に遭遇した教師へのインタビュー調査を行い,異なった事案に遭遇した立場の異なる教師の体験に検討を加えてきた(丸山ら,2013他)が,まだまだその数は少ない。そこで本研究は,生徒の突然の病死に遭遇した教頭の事例を分析し,学校危機に対する,より効果的な支援のあり方を検討する基礎資料を得ることを目的とする。
方法
【インタビュー参加者】生徒の突然の病死に遭遇したA県D市E中学校教頭。インタビュー参加について所定の書式で同意を得た。
【事故の概要】体育祭前日の練習時,生徒が突然倒れ救急搬送されたが,その1週間後死亡した。本事案に対しては,臨床心理士2名による支援が延べ3日なされ,こころの健康調査,生徒へのカウンセリング等が行われた。
【データ収集方法】事故発生から2年以上経過した後に,危機遭遇時の教師の体験について半構造化面接が実施された。項目は丸山ら(2013)を参照。名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会承認(PR13-299)を得た。
【分析方法】①インタビューデータを基に逐語録を作成し,②時系列に並べて,KJ法の手順を用いてカテゴリーを抽出したのち,③各カテゴリーを複線径路・等至性モデル(TEM)の方法に従って分析した。等至点(EFP:Equifinality Point)として「学校の落ち着き」を設定し,「事故の発生」から「学校の落ち着き」に至る過程を記述した。
結果と考察
本事例は,体育祭前日の練習中に生徒が救急搬送された事例である。事の大きさから,翌日に開催される体育祭を実施していいかの判断に迷いが生じた。結果的に体育祭を実施したが,学校行事の運営と当該生徒への支援を「同時進行」で対応しなければならなかった。そのような中で,学校内に教頭だけではなく「学校運営の柱になる教員」である生徒指導主事と相談しながら対応することで乗り切ることができた。加えて,この生徒指導主事とは「前任校でも生徒の事故死に対応した経験」があり,このことも支援を行っていく上で促進要因になっていたように思われる。このような学校経営参画者・支援者としてのパートナーの存在は一人で抱え込まないためにも重要であると考えられる。
また,緊急支援チームの支援について,「専門的分野で,教師ができないことをしてくれたので,安心できた」と語っている。加えて,緊急支援チームに当該校SCの存在への安心感も併せて語っている。このように外部からの支援者である緊急支援チームの中に,日頃から信頼関係を築いていた当該校SCがメンバーとしていたことが学校との協働に大きく影響していたことが考えられる。
今回の事案で,パートナーとしての生徒指導主事の存在が大きかったこと,日常的に必要なこととして“危機管理能力の研修の充実”が語られたことから,教員に対する学校コミュニティの危機に関する研修の充実が求められる。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。