日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH007] 学童保育サポートシステムの構築に関する研究

指導員が感じている問題

木村文香1, 中村干城#2 (1.江戸川大学, 2.江戸川大学)

キーワード:学童保育所, 間接支援, グループワーク

問題と目的
都市部においては保育所のみならず,学童保育の利用のニーズも大きい。学齢期の放課後の過ごし方に関しては,2007年に文部科学省と厚生労働省が「放課後子どもプラン」を創設し,文部科学省による「放課後子ども教室」,厚生労働省による「放課後児童健全育成事業」が推進されている。しかしその一方で,規定や運営に関する詳細は,指導者の資格も含め自治体ごとに異なる。また,実証研究も子どもの発達,指導者の資質,建築,といった複数の観点から始まりつつあるものの(e.g.,浦川・桂・池田,2013;赤津・金谷,2011;五十嵐,2012),いずれも現状を詳細に明らかにし,子どもや子育てにとって最善の方略を探るところまでいっているとはいえない。
そこで本研究は,学童保育の指導員が感じている問題点を質的に明らかにすることを目的とし,公設学童保育所のサポートシステム構築の第一段階とする。
方法
手続き
公設学童保育所の児童指導員向け研修会において質的なデータの収集を行った。データ収集の方法は,「学童保育の現場が抱えている問題を抽出する」ことを目指すグループワーク形式で行った。手順は以下の通りであった。
手順1 6~7人で構成された9グループに分かれてもらった。グループは,稼働している事業所が分散し,経験年数が近い参加者同士が同じになるようにあらかじめ調査者が指定した。
手順2 各個人で感じる問題を挙げ,挙げた問題を1つずつ付箋紙に記入してもらった。
手順3 グループ内で各個人の挙げた問題点を共有してもらった。
手順4 グループ内で共有した問題点を,各グループでカテゴリー分けして模造紙に貼り,カテゴリー名を模造紙に記入してもらった。
手順5 「手順4」で得られたカテゴリーを基に,カテゴリー間での関係を各グループで検討し,模造紙に記入してもらった。
手順6 各グループでの話し合いの結果を,模造紙を見ながら全体で共有した。
なお,参加した児童指導員が稼働する公設学童保育所は,運営に指定管理者制度が採用されている自治体が設置しており,当該研修会は指定管理者連絡協議会と自治体が共催していた。この自治体は首都圏近郊に位置し,鉄道の新線の開通も相まって,急速なスピードで都市部からの人口の流入を伴う都市開発事業が行われてきた地区である。
実施日
2014年2月
対象者
前述の研修会に参加した公設学童保育所の指導員58名であった。指導員歴は,6か月から26年(平均56.85ヶ月,SD=56.09)。うち,保育士2名,教員免許保持者6名(幼稚園2名,小学校3名,中学校1名)であった。対象者は,「日ごろ感じている問題点を様々な指導員と共有する」という当該研修会への参加を希望した指導員から,各指定管理者が経験年数等を基に定員に達するまで選定を行った。なお,当該研修会での内容が,研究目的で使用されることについては,主催者,参加者共に了承済みである。
グループワーカー兼分析者
臨床心理学の専門家1名と精神保健学の専門家1名で行った。両名ともグループアプローチを主な臨床技法とする。
結果と考察
各グループで分けられた問題点のカテゴリーを,さらに9グループ全体で分類したところ4つに分類された。これらの4分類の下にまとめられた問題点は以下の通りであった。
ⅰ)運営 働く環境,組織運営,施設,危機管理,学校,地域との関係
ⅱ)指導員のスキル,マネジメント これについては,「個人的な技術」「指導員間の情報共有」等,12の問題点が挙げられた。
ⅲ)内容 保育内容,学習,遊び,発達障害
ⅳ)利用者の関係 子ども同士の関係,子どもと指導員の関係,保護者とのコミュニケーション
各分類の問題点は,分類自体は共通していたものの,指導員経験歴によって質・量共に異なっていた。このことから指導員研修は,経験年数によって分けるものと分けないものを企画する必要がある可能性が示唆されたといえる。
今後はさらに実態を網羅的に把握し,学童保育の利用者,指導員,運営者を間接的,直接的にサポートするシステム構築を目指す。