日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ハラスメント防止委員会企画講演

若手研究者の雇用環境の変化とハラスメント問題

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールB (2階)

講演:戒能民江#(お茶の水女子大学), 指定討論:鈴木華子#(筑波大学), 司会:原田悦子(筑波大学)

13:30 〜 15:30

[harass01] 若手研究者の雇用環境の変化とハラスメント問題

戒能民江#1, 鈴木華子#2, 原田悦子3 (1.お茶の水女子大学, 2.筑波大学, 3.筑波大学)

キーワード:若手研究者, 雇用環境の変化, ハラスメント問題

【企画趣旨】
最近,国立大学などで新たな講座やコースを設置するということで概算要求をする際には,新たな教員ポストは,基本的には要求できないとされてきています。それを実現するためには,各大学は,既存のポストのスクラップ・アンド・ビルドによって対応しなければなりません。あるいは,5年程の単位で,何らかのプロジェクトを提案することによって,そのプロジェクト期間に雇用する特任ポストで対応するということがしばしば見られるようになってきています。この傾向は,国立大学のみならず,国公私含めて全般的な風潮と言えるでしょう。一方で,大学教員の定年は延長される傾向にあり,しかも,定員削減の方針の下,退任教員のポストは埋められないという事態も散見されるところです。その結果,大学のいわゆるテニュアポストはなかなか空きにくくもなっており,若手研究者にとっては,まずは大学の任期付きポストなどに就くことを考えねばならないといったことが,むしろ当たり前の時代になってきていると言えます。
流動性が急激に増したそのような若手研究者にとっての雇用環境の変化は,海外への発信も含めて研究活動の活性化をもたらしたというメリットも確かにあるものの,成果を求めるばかりにさまざまな研究倫理上の問題が発生したり,また,次のポストを得る準備もしなければならないという状況のなか,雇用側の上司との間で往々にしてハラスメント関係が生み出されやすくなっていたりもしています。そんな状況にあって,若手研究者がしっかり育っていってもらわなければ学会の発展はあり得ませんし,また,若手研究者自身も,主体的に,そういう時代をどう切り拓いていったらよいかを共に探り,共に動いていく必要もあるのだろうと思います。
そこで,本講演会では,まず,若手研究者の雇用環境の変化に関わる現状と課題,そこで起こりやすくもなっているハラスメントの問題について,お茶の水女子大学で先駆的に設置された人権侵害防止委員会の初代委員長を務められ,理事・副学長として大学の運営面でのご経験もある戒能民江先生よりご講演をいただきます。また,若手研究者のコミュニティ形成を実践されてもいる鈴木華子先生に,若手の視点からの指定討論をお願いいたしました。
ハラスメントに関わる問題は,当事者でなければ他人事と通り過ぎられてしまう嫌いもありますが,この問題は,若手研究者はもちろんのこと,どんな世代の研究者にとっても重要な課題として,情報の共有をはじめ,さまざまな視点からの捉え方に触れておくべき時代が来ていると思います。そして,今までの講演会でも浮き彫りにされてきていることでもありますが,ハラスメントの問題は,決して一人で解決できることでもありません。是非,多くの方にご参加いただき,みなさんと共に,この課題に取り組んでいければと思います。

【講演者紹介】戒能民江氏
1944年中国旧満州生まれ。1967年早稲田大学第一法学部卒。1973年同大学院法学研究科博士課程修了。東邦学園短期大学教授を経て,1999年お茶の水女子大学生活科学部教授。2004年同学部長。2009年国立大学法人お茶の水女子大学理事・副学長。第21期・第22期日本学術会議会員,内閣府「配偶者からの暴力被害者支援官官・官民連携促進ワークショップ」企画委員会委員長,厚生労働省「婦人保護事業検討会議」座長等を歴任。専門はジェンダー法学・女性に対する暴力研究。主な著作は『危機をのりこえる女たち』(編著・信山社),『フェミニズム法学』(共著・明石書店),『ドメスティック・バイオレンス』(不磨書房・2002年山川菊栄賞受賞),『ドメスティック・バイオレンス防止法』(編著・尚学社)など。2005年,NGO人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)共同代表者の一人として,第一回平塚らいてう賞(顕彰)受賞。

【指定討論者紹介】鈴木華子氏
筑波大学グローバル・コモンズ機構学生交流支援部門助教。2007年にボストンカレッジでカウンセリング心理学の修士,2012年に熊本大学で博士(医学)を取得。専門は,カウンセリング心理学,メンタルヘルス,多文化カウンセリングなど。日本心理学会において,共同代表者の一人として,「日本心理学会若手の会」を発足させる。主な著書として,『多文化メンタルウェルネス心理教育プログラム-大学キャンパスにおける多文化共生の促進-(留学交流, 2014)』,『The roles of early career psychologists in empowering female students (The Feminist Psychologist, 2014)』など。