[PB57] セカンドチャンスに関する信念が日本人若年層の自尊感情に及ぼす効果
キーワード:自尊感情, セカンドチャンス, 年齢
問 題
日本人の自尊感情の水準はなぜ低いのか?自尊感情得点をさまざまな社会・文化圏において検討したSchmittらの研究によれば,日本人の自尊感情の水準は,53か国中最下位に位置づくとされる(Schmitt & Allik, 2005)。また,内閣府統計局のデータにおいても,日本の若者の自尊感情の水準は,諸外国と比べて極めて低い水準にあることが示されている(内閣府統計局,2014)。さらに,日本人の小・中学生データを学年別に分析すると,学年が上がるにつれて自尊感情がますます低下する傾向さえ示されている(古荘,2007)。
本研究の目的は,日本人若年層の自尊感情の低さおよび低下トレンドに対して,社会経済状況に対する人々の信念が影響を与えている可能性について検討することにある。具体的には,日本人若年層に顕著に示される自尊感情の水準の低さに対して,セカンドチャンスの少なさ――日本の社会において,たとえ失敗したとしても,再挑戦し成功を手にすることができる機会の少なさ――に関する信念が影響を与えている可能性について検討する。
方 法
調査会社クロスマーケティングを介して,成人1654名(男性827名,女性827名,平均年齢44.68歳)に回答を依頼した。調査対象者には,本研究で作成したセカンドチャンスの少なさに関する信念を測定する尺度(「この社会では,一度人生のレールから外れるとやり直しがきかない」,「この社会では,たとえ人生において何かに失敗したとしても,何度でもやりなおすことができる(逆転項目)」など)や自尊感情の水準を測定するためのローゼンバーグの自尊感情尺度(RSES; Rosenberg, 1965)等への回答を求めた。
結 果
信頼性係数 セカンドチャンスの少なさに関する信念尺度(5項目)のクロンバックのアルファ係数は0.79,ローゼンバーグの自尊感情尺度(10項目)のアルファ係数は0.84であった。
自尊感情に及ぼす効果 ローゼンバーグの自尊感情尺度の得点と年齢の間には正の相関が示され(r=.30),日本人若年層の自尊感情は老年層と比べて低い水準にとどまる傾向がまず確認された。次に,自尊感情尺度の得点を従属変数,年齢およびセカンドチャンスの少なさに関する信念を独立変数とする重回帰分析を行ったところ,年齢が自尊感情に対して正の効果を持つ(Standardized β=0.28,t(1650)=12.39,p<.001)だけでなく,セカンドチャンス信念の主効果(β=-0.29,t=12.39,p<.001)――すなわち,再挑戦し成功することが難しいと信じる人たちは自尊感情得点が低い――,さらにそれらの交互作用効果(β=0.09,t=3.88,p<.001)――若年層においてとくに,再挑戦し成功することが難しいと信じる人ほど自尊感情得点が低い――が示された(図1)。
考 察
本研究の目的は,セカンドチャンスの少なさに関する信念が現代日本社会を生きる若年層の自尊感情の低下をもたらしているという仮説を検証することにあった。本研究の結果は,まず若年層の方が自尊感情の水準が低いことを示していた。この結果は,自尊感情尺度を用いた国内査読紙掲載研究に焦点を合わせて,その経時的変化等を分析した小塩ら(2014)の知見と一貫する結果である。加えて本研究では,セカンドチャンスの少なさに関する信念尺度の得点が,個々人の自尊感情得点に負の効果を与えていること,そしてそうした効果が若年層においてより顕著に示されることも明らかにされた。今後の研究においては,主観的な見積もりだけでなく,より客観的なセカンドチャンスの少なさについても分析の射程に収め,本研究の結果の妥当性を高めることが必要となる。
日本人の自尊感情の水準はなぜ低いのか?自尊感情得点をさまざまな社会・文化圏において検討したSchmittらの研究によれば,日本人の自尊感情の水準は,53か国中最下位に位置づくとされる(Schmitt & Allik, 2005)。また,内閣府統計局のデータにおいても,日本の若者の自尊感情の水準は,諸外国と比べて極めて低い水準にあることが示されている(内閣府統計局,2014)。さらに,日本人の小・中学生データを学年別に分析すると,学年が上がるにつれて自尊感情がますます低下する傾向さえ示されている(古荘,2007)。
本研究の目的は,日本人若年層の自尊感情の低さおよび低下トレンドに対して,社会経済状況に対する人々の信念が影響を与えている可能性について検討することにある。具体的には,日本人若年層に顕著に示される自尊感情の水準の低さに対して,セカンドチャンスの少なさ――日本の社会において,たとえ失敗したとしても,再挑戦し成功を手にすることができる機会の少なさ――に関する信念が影響を与えている可能性について検討する。
方 法
調査会社クロスマーケティングを介して,成人1654名(男性827名,女性827名,平均年齢44.68歳)に回答を依頼した。調査対象者には,本研究で作成したセカンドチャンスの少なさに関する信念を測定する尺度(「この社会では,一度人生のレールから外れるとやり直しがきかない」,「この社会では,たとえ人生において何かに失敗したとしても,何度でもやりなおすことができる(逆転項目)」など)や自尊感情の水準を測定するためのローゼンバーグの自尊感情尺度(RSES; Rosenberg, 1965)等への回答を求めた。
結 果
信頼性係数 セカンドチャンスの少なさに関する信念尺度(5項目)のクロンバックのアルファ係数は0.79,ローゼンバーグの自尊感情尺度(10項目)のアルファ係数は0.84であった。
自尊感情に及ぼす効果 ローゼンバーグの自尊感情尺度の得点と年齢の間には正の相関が示され(r=.30),日本人若年層の自尊感情は老年層と比べて低い水準にとどまる傾向がまず確認された。次に,自尊感情尺度の得点を従属変数,年齢およびセカンドチャンスの少なさに関する信念を独立変数とする重回帰分析を行ったところ,年齢が自尊感情に対して正の効果を持つ(Standardized β=0.28,t(1650)=12.39,p<.001)だけでなく,セカンドチャンス信念の主効果(β=-0.29,t=12.39,p<.001)――すなわち,再挑戦し成功することが難しいと信じる人たちは自尊感情得点が低い――,さらにそれらの交互作用効果(β=0.09,t=3.88,p<.001)――若年層においてとくに,再挑戦し成功することが難しいと信じる人ほど自尊感情得点が低い――が示された(図1)。
考 察
本研究の目的は,セカンドチャンスの少なさに関する信念が現代日本社会を生きる若年層の自尊感情の低下をもたらしているという仮説を検証することにあった。本研究の結果は,まず若年層の方が自尊感情の水準が低いことを示していた。この結果は,自尊感情尺度を用いた国内査読紙掲載研究に焦点を合わせて,その経時的変化等を分析した小塩ら(2014)の知見と一貫する結果である。加えて本研究では,セカンドチャンスの少なさに関する信念尺度の得点が,個々人の自尊感情得点に負の効果を与えていること,そしてそうした効果が若年層においてより顕著に示されることも明らかにされた。今後の研究においては,主観的な見積もりだけでなく,より客観的なセカンドチャンスの少なさについても分析の射程に収め,本研究の結果の妥当性を高めることが必要となる。