[PB70] 児童生徒のコミュニケーション・トラブルの予防に向けて(1)
現実場面のいじめ経験とネットいじめを予測する要因
Keywords:中学生, いじめ, ネットいじめ
問題と目的
これまで日本におけるいじめ研究では,いじめの加害者と被害者,あるいは加害行動と被害行動に焦点をあてていじめの生起と関わる様々な要因について検討されることが多く(大西・黒川・吉田,2009;岡安・高山,2000など),いじめの加害と被害の両方を経験する者に関する研究はほとんどみられない。一方,海外では,いじめ加害と被害の両方を経験した者は‘bully-victims’(他者をいじめ,かつ,他者からいじめられる者)という呼称で取り上げられ,自尊感情やソーシャルスキル,仲間関係などの項目との間に高い負の相関のあることや学校での不適応が明らかにされてきた(Cook, Williams, Guerra, Kim, & Sadek,2010)。
インターネット利用率が中学生で80%ほど(内閣府,2015)の現在,子どもたちはSNSやLINEなどのツールを活用して,仲間内でのコミュニケーションを図ろうとするが,一方で,ネット上の対人トラブルが頻発していることも報告されている(総務省,2014)。Williams & Guerra(2007)では,学校風土を肯定的に評価する者ほどネットいじめへの関与が少ないことが示されており,現実場面での適応がネットいじめを抑制することが予想される。そこで,本研究では,現実場面でのいじめ加害と被害の両方を経験した者に焦点をあて,その特徴を探るとともに,現実場面でのいじめ経験がネット上でのいじめとどう関連するかについて実証的に検討することを目的とした。ネットいじめについては,傍観と加害の各経験を取り上げた。
方 法
使用尺度 ①現実場面でのいじめ経験:岡安・高山(2000)で用いられた加害と被害各3項目4件法 ②ネットでのいじめ経験:3項目4件法 ③自己受容/他者信頼:高坂(2011)を参考に7項目5件法 ④同調性傾向:新たに作成10項目5件法
調査時期と対象 2015年6月に中学1年生から3年生を対象に持ち帰りによる自宅回答での調査を実施。今回の分析対象は499名(女子50%)。
結果と考察
基礎統計量 調査時期から遡って過去3か月間における現実場面でのいじめ加害経験について3項目の平均は1.04~1.19と低く,いずれの項目も9割近くの生徒が「経験なし」と回答していた。そこで,いじめの加害と被害について4件法の回答のうち「経験なし」を「0」,それ以外の回答を「1」とする2値データに変換して分析することとした。そのうえで,分析対象者を経験の差異により「加害のみ経験群(25人)」,「被害のみ経験群(68人)」,「両経験群(48人)」,「(加害と被害の)経験なし群(358人)」の4群に分けた。他の尺度について因子分析を行った結果,自己受容(3項目α=.85),他者信頼(4項目α=.85),同調性傾向(10項目α=.81)と,それぞれ十分な内的整合性が確認された。
いじめの負の連鎖を予測する要因 いじめ経験の群間差を検討するため,自己受容,他者信頼,同調性傾向をそれぞれ従属変数とする1要因分散分析を行った結果(Table 1),いずれの変数においても群間の有意な差が確認された。現実場面でいじめの加害と被害の両方を経験した者は,どちらも経験していない者に比べて有意に同調傾向得点が高く,また,自己受容と他者信頼の各得点が有意に低いことが示され,両経験者の基本的信頼感の低さと他者への同調傾向が示唆された。
ネットいじめとの関連 ネットいじめ経験を問う3項目(「ネットでだれかの悪口を書いた(①)」「ネットでだれかを友だちリストからはずそうと仲間に呼びかけた(②)」「ネットでだれかが悪口を書かれたり,友だちリストからはずされたりするのをだまってみていた」)について,現実場面でのいじめ経験の差による違いを検討した結果,いずれの項目についても有意な群間差が確認され,現実場面でいじめの加害と被害の両方を経験した者はどちらも経験していないものに比べて,有意にネットいじめ場面での加害(①:p<.001;②:p<.05)と傍観行動(p<.001)の多いことが示された。
総合考察
現実場面でいじめ加害と被害の両方を経験する者は,他者に同調しやすく,基本的信頼感が低いことから,ネットいじめを傍観したり,ネットいじめの加害者となったりし易いのかもしれない。
本研究はJSPS科研費26380913の助成を受けた。
これまで日本におけるいじめ研究では,いじめの加害者と被害者,あるいは加害行動と被害行動に焦点をあてていじめの生起と関わる様々な要因について検討されることが多く(大西・黒川・吉田,2009;岡安・高山,2000など),いじめの加害と被害の両方を経験する者に関する研究はほとんどみられない。一方,海外では,いじめ加害と被害の両方を経験した者は‘bully-victims’(他者をいじめ,かつ,他者からいじめられる者)という呼称で取り上げられ,自尊感情やソーシャルスキル,仲間関係などの項目との間に高い負の相関のあることや学校での不適応が明らかにされてきた(Cook, Williams, Guerra, Kim, & Sadek,2010)。
インターネット利用率が中学生で80%ほど(内閣府,2015)の現在,子どもたちはSNSやLINEなどのツールを活用して,仲間内でのコミュニケーションを図ろうとするが,一方で,ネット上の対人トラブルが頻発していることも報告されている(総務省,2014)。Williams & Guerra(2007)では,学校風土を肯定的に評価する者ほどネットいじめへの関与が少ないことが示されており,現実場面での適応がネットいじめを抑制することが予想される。そこで,本研究では,現実場面でのいじめ加害と被害の両方を経験した者に焦点をあて,その特徴を探るとともに,現実場面でのいじめ経験がネット上でのいじめとどう関連するかについて実証的に検討することを目的とした。ネットいじめについては,傍観と加害の各経験を取り上げた。
方 法
使用尺度 ①現実場面でのいじめ経験:岡安・高山(2000)で用いられた加害と被害各3項目4件法 ②ネットでのいじめ経験:3項目4件法 ③自己受容/他者信頼:高坂(2011)を参考に7項目5件法 ④同調性傾向:新たに作成10項目5件法
調査時期と対象 2015年6月に中学1年生から3年生を対象に持ち帰りによる自宅回答での調査を実施。今回の分析対象は499名(女子50%)。
結果と考察
基礎統計量 調査時期から遡って過去3か月間における現実場面でのいじめ加害経験について3項目の平均は1.04~1.19と低く,いずれの項目も9割近くの生徒が「経験なし」と回答していた。そこで,いじめの加害と被害について4件法の回答のうち「経験なし」を「0」,それ以外の回答を「1」とする2値データに変換して分析することとした。そのうえで,分析対象者を経験の差異により「加害のみ経験群(25人)」,「被害のみ経験群(68人)」,「両経験群(48人)」,「(加害と被害の)経験なし群(358人)」の4群に分けた。他の尺度について因子分析を行った結果,自己受容(3項目α=.85),他者信頼(4項目α=.85),同調性傾向(10項目α=.81)と,それぞれ十分な内的整合性が確認された。
いじめの負の連鎖を予測する要因 いじめ経験の群間差を検討するため,自己受容,他者信頼,同調性傾向をそれぞれ従属変数とする1要因分散分析を行った結果(Table 1),いずれの変数においても群間の有意な差が確認された。現実場面でいじめの加害と被害の両方を経験した者は,どちらも経験していない者に比べて有意に同調傾向得点が高く,また,自己受容と他者信頼の各得点が有意に低いことが示され,両経験者の基本的信頼感の低さと他者への同調傾向が示唆された。
ネットいじめとの関連 ネットいじめ経験を問う3項目(「ネットでだれかの悪口を書いた(①)」「ネットでだれかを友だちリストからはずそうと仲間に呼びかけた(②)」「ネットでだれかが悪口を書かれたり,友だちリストからはずされたりするのをだまってみていた」)について,現実場面でのいじめ経験の差による違いを検討した結果,いずれの項目についても有意な群間差が確認され,現実場面でいじめの加害と被害の両方を経験した者はどちらも経験していないものに比べて,有意にネットいじめ場面での加害(①:p<.001;②:p<.05)と傍観行動(p<.001)の多いことが示された。
総合考察
現実場面でいじめ加害と被害の両方を経験する者は,他者に同調しやすく,基本的信頼感が低いことから,ネットいじめを傍観したり,ネットいじめの加害者となったりし易いのかもしれない。
本研究はJSPS科研費26380913の助成を受けた。