日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD48] 達成目標促進と授業実践型相互教授の効果(2)

児童の理解志向と学業達成度との関連

橘春菜1, 町岳2, 中谷素之3 (1.名古屋大学大学院, 2.大田区立東調布第一小学校, 3.名古屋大学大学院)

キーワード:授業実践型相互教授, 達成目標, 児童

問題と目的
 児童どうしの協同的な学習活動の効果にはさまざまな要因が関わっている(例 Gillies & Ashman, 2010)。なかでも,学習者に役割を与え,学習において相互にかかわる手続きを構造化する相互教授法は,学習の深い理解や課題成績に積極的な影響を与える可能性がある(例 Palincsar, 2010)。
 町・中谷(2014)は,授業実践場面での適用と効果を考慮した授業実践型相互教授(Reciprocal Teaching in the Classroom; 以下RTC)を提案し,その効果を実証した。しかしこれまでの関連する研究では,学習の重要な要素である動機づけ要因を考慮した相互教授の効果に注目した例はみられない。そこで本研究では,動機づけ促進を組み込んだ授業実践型相互教授を用いて,異なる動機づけによるRTC介入効果を検討する。特に,授業内容の本質的な理解をもたらす要因として,課題解決における理解志向に着目する。
方   法
 対象と時期 都内公立小学校6年生A学級40名(男子23名,女子17名),B学級39名(男子21名,女子18名)の,計79名(男子44名,女子35名)の児童を対象に,2015年9月に実施した。A学級を熟達目標促進型RTCを行う熟達目標群,B学級を遂行目標促進型RTCを行う遂行目標群とした。
 授業デザイン 6年生の算数「拡大図と縮図」(8時間扱い)の単元で,4回RTC介入を行った。グループ学習は,約15分間の集団検討場面で取り入れ,説明役と質問役の役割を交替した。
 達成目標介入 熟達目標群では,誤答モデルを示し,「〇〇さんが次に間違えないようにするためのアドバイスを考えよう」とした。遂行目標群では,「早く正確に答を求めよう」とし,早く答を求めた順に,回答を提出させた。誤答モデルを示した熟達目標群の方が,答を導き出すプロセスに焦点を当てた話し合いが行われるだろう。
 予備調査 単元開始前に,「レディネステスト」(東京書籍, 2011)を実施した結果,t(67)=.54で両群の習熟度に差はみられなかった。
 理解志向 各授業の内容に即した理解志向を測定する4項目(10件法)からなる質問紙を各授業後に配布し,回答を求めた。項目は,思考プロセス(2項目),既有知識の利用(1項目),他場面への活用(1項目)に関する内容で構成された。
 課題達成度テスト 本時の学習課題に対する達成度を測定するために,学習のまとめの場面で,学習課題の類題を出題した。類題は,(1)正誤判断課題(複数の選択肢から1つの答えを選ぶか,立式によって1つの答えを求める)と,(2)理由づけ課題(答の求め方や,その答になる理由を記述する)の2問からなる構成とした。
結果と考察
 異なるRTCを通じて理解志向に群間差がみられるかを検討した。その結果,理解志向得点(4回分の授業の合計)は,熟達目標群の方が遂行目標群よりも有意に高い傾向がみられた(t(63)=1.87, p<.10)。さらに,項目の内容別に検討したところ,「他場面への活用」と「思考プロセス」に関する項目において,熟達目標群の方が遂行目標群よりも得点が高かった(「他場面への活用」t(63)=2.06, p<.05;「思考プロセス」t(63)=1.95, p<.10)。
 次に,理解志向の程度とRTCの違いによって実際の課題達成度にどのような影響がみられるかを検討した。課題の内容(正誤判断課題/理由づけ課題)別に,群(2: 熟達目標群/遂行目標群)×理解志向(2: Low/High)の2要因分散分析を行った。その結果,正誤判断課題では,主効果および交互作用に有意差がみられなかった。理由づけ課題では,群の主効果(F(1,61)=13.63, p<.001)と理解志向の主効果(F(1,61)=7.43, p<.01)が有意であった(Figure 1)。
 以上より,熟達目標を促進するRTCでは,他者と答えを導くプロセスを確認しあう中で,学習内容の理解に対する意識が高められ,理由記述の場面でその効果が発揮されやすいことが示唆された。