日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE15] 前言語期乳児に対する母親の調律的応答が幼児期の共感的行動発達に与える影響

非線形的関係に着目して

蒲谷槙介 (愛知淑徳大学)

キーワード:調律的応答, 共感性, 縦断研究

問   題
 近年,養育者-子ども間のアタッチメントの質が子どもの向社会的発達に影響を与えうるとの見解(see Mikulincer & Shaver, 2015)が示されているが,その具体的機序には不明な点が多い。これに関して蒲谷(2013)は母子相互作用の観察を通じて,アタッチメントスタイル安定型の母親が乳児の泣きやむずかりに対して調律的応答(乳児の心境と自身の心境を峻別した上での,乳児の心境のミラーリング)を行うことを見出し,これが子どもの共感性発達に寄与する可能性を示した。
 本研究では縦断サンプルを用いて,前言語期における母親の調律的応答の多寡が,幼児期の共感的行動の生起をいかに予測するのかを検証する。
方   法
 40組の乳児-母親ペアについて,対象児が生後8ヶ月時(n=39)および生後20ヶ月時(n=36)に観察調査を実施した。生後8ヶ月時には蒲谷(2013)の方法を踏襲し,20分間の母子相互作用を観察し,乳児のネガティブ情動表出に対する母親の各種応答をコーディングした。母親の一般他者アタッチメントスタイルと関連する調律的応答1種(「無表情のままの心境言及」),非調律的応答2種(「ポジティブ表情を伴った単純応答」「無反応」)を抽出し,各応答の生起率をもとに主成分分析を行い,1次元の「調律得点」を作成した。調律得点の低さは非調律的応答の多さを反映する一方,調律得点の高さは調律的応答の多さを反映する。
 生後20ヶ月時にはZahn-Waxler et al.(1992)の方法を踏襲し,対象児の目の前で母親に膝を痛めた演技を1分間してもらい,それに対する幼児の反応を,情動表出(3種)×行動(6種)の18パターンに分け,5秒単位でコーディングした。実際に生じた12種の反応の生起頻度をもとに主成分分析を行った結果,5つの成分が抽出された。このうち幼児の他者慰撫行動と関連性の高い成分を,共感性を反映した成分とみなし,その主成分得点を「共感的行動得点」とした。
 生後8ヶ月時の調律得点を説明変数,生後20ヶ月時の共感的行動得点を従属変数として,線形推定および曲線推定を実施した。統計解析にはPASW Statistics 18を用いた。
結果と考察
 生後8ヶ月時の母親の調律得点と生後20ヶ月時の幼児の共感的行動得点との間の関連性は,線形ではなく,2次式が最もよく適合した(Figure 1)。すなわち,調律的応答が過少である(a領域),あるいは過多である(c領域)場合には,その後の共感的行動発達に負の影響が及ぶことが示唆された。また,共感的行動得点が平均以上となる部分(>0)と調律得点との対応を吟味した結果,生後8ヶ月時において,乳児の泣きやむずかりに対し,中程度に調律を行っていた場合(b領域)に,生後20ヶ月時の共感的行動発達が最も促進されたことが示された。
 このような非線形的結果は篠原(2013)と類似するものと考えられ,子どもの情動表出に対する適度な足場かけが成されるミラーリングが,最も子どもの共感性を育みうることを示唆する。
文   献
蒲谷槙介(2013).前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する母親の調律的応答-母親の内的作業モデルおよび乳児の気質との関連.発達心理学研究,24(4),507-517.
付記:本研究は日本学術振興会より科学研究費助成を受けた(特別研究員奨励費:研究課題番号13J09403)