[PE77] 児童の参加スタイルによる指示表現の使い分け
キーワード:小学校授業, 教室談話, 指示発話
問題と目的
本研究の目的は,授業において児童に求める参加の仕方や児童の参加の様子などの状況に応じ,教師が指示を行う際に発話表現を使い分ける様子,およびその使い分け方が示唆する教室内の人間関係を明らかにすることである。
発話表現を促す活動によって,付加的に用いられる語と指示のための中心的な語に多様性があることは明らかにされている(川島,2013)。この中では教師の発話の多様性と授業内での変化に焦点が当たり,活動による使い分けや促す行為による使い分けについては詳しく論じられていない。しかし,活動間ではもちろん,活動内でも児童毎に求められる行為が異なることが予想される。
そこで,本研究では,児童に求められる役割を参加スタイルと呼び,話し合い活動において観察された3種の参加スタイルにより,教師の発話表現の質が異なることを示す。児童の参加スタイルは,話す立場にある「話す児童」・聞く立場にあり聞こうとしている「聞く児童」・聞く立場にあり聞こうとしない「聞かない児童」である。
発話表現の質の違いは,児童の基本的心理欲求である3種のフェイスとの関係から示す。ポジティブ・フェイスとして,有能であるように見られたいという有能性フェイスと仲良くありたいという親密性フェイス,ネガティブ・フェイスとして他者に侵害されたくないという自律性フェイスが挙げられる(Goffman,1967;Brown & Levinson,1987;Lim & Bowers,1991)。各参加スタイルの児童に対する指示に,フェイスへの侵害あるいは配慮を示唆する表現が含まれることが想定される。
方 法
研究協力者 公立小学校1年生の北村教諭(仮名/教職歴25年以上/女性教諭)と児童(25名)
調査方法 協力者に了解をとり,教室前方からの映像記録・フィールドノーツをとった。
分析方法 国語における話し合い活動を事例として抽出し,フェイスへの侵害あるいは配慮という視点からの談話の分析を行った。
結果と考察
1.指示のための動詞が示唆する児童認知
北村教諭は「赤川さんがさっきのいらいらした顔じゃなくって,みんなが聞いてくれて安心だなって,聞いてくれて嬉しいなって気持ちで話せるように・・・見る」と聞くことを求めることで,聞く行為が教師と児童の間の親密性フェイスに関わるだけでなく,話す児童と聞く児童の間の親密性フェイスに関わることを明示していた。また,北村教諭は「聞き逃したよね」と確認することで,聞く行為をすべきことと理解し,聞くことが可能である児童として聞かない児童を定位し,有能性フェイスを満たしていることが明らかになった。
2.教師と児童の立ち位置を表す表現の頻度
北村教諭は,聞く児童に対しては他の参加スタイルの児童より自律性フェイスへの配慮が少なく,有能性フェイスと親密性フェイスへの配慮を多く用いていた。教諭と聞く児童は,話し合い活動において聞く立場にあるという共通点とポジティブ・フェイスへの配慮から,両者は仲間関係にあることが示唆された。
聞かない児童に対しては,権威の顕現を避けようとする表現(i.e.「今は,聞く番」)や仲間関係にあることを示す表現(i.e.「〜だよね」)が多く,気持ちへの理解や行為への賞賛といった有能性フェイスへの配慮は少なかった。有能性フェイスへの配慮が少ないことから聞かないことは行為として望ましくないことが示され,権威の顕現を避け自律性フェイスへの配慮を示すことは同時に教師が親密な立ち位置にいないことを示していた。一方で,仲間関係にあることを示す表現を用いることで,聞かない児童に対する相反する認知を示していた。
話す児童に対しては,権威の顕現を避けようとする表現が少なく,児童の行為が大事であることを示す有能性フェイスへの配慮(i.e.「話してくれる?」)が多かった。北村教諭は,児童に促す行為を価値づけながら,権威の顕現を避けないことで,自らが話す児童より下の立ち位置から依頼するという形を明示していた。
総括的考察
以上から,北村教諭は話す児童と聞く児童の間に仲間関係を築き,自らもその関係の中にいるような表現で,指示発話を行っていた。また,聞かない児童に対しては,より複雑な考えを持っていることが指示表現から示唆された。
本研究の目的は,授業において児童に求める参加の仕方や児童の参加の様子などの状況に応じ,教師が指示を行う際に発話表現を使い分ける様子,およびその使い分け方が示唆する教室内の人間関係を明らかにすることである。
発話表現を促す活動によって,付加的に用いられる語と指示のための中心的な語に多様性があることは明らかにされている(川島,2013)。この中では教師の発話の多様性と授業内での変化に焦点が当たり,活動による使い分けや促す行為による使い分けについては詳しく論じられていない。しかし,活動間ではもちろん,活動内でも児童毎に求められる行為が異なることが予想される。
そこで,本研究では,児童に求められる役割を参加スタイルと呼び,話し合い活動において観察された3種の参加スタイルにより,教師の発話表現の質が異なることを示す。児童の参加スタイルは,話す立場にある「話す児童」・聞く立場にあり聞こうとしている「聞く児童」・聞く立場にあり聞こうとしない「聞かない児童」である。
発話表現の質の違いは,児童の基本的心理欲求である3種のフェイスとの関係から示す。ポジティブ・フェイスとして,有能であるように見られたいという有能性フェイスと仲良くありたいという親密性フェイス,ネガティブ・フェイスとして他者に侵害されたくないという自律性フェイスが挙げられる(Goffman,1967;Brown & Levinson,1987;Lim & Bowers,1991)。各参加スタイルの児童に対する指示に,フェイスへの侵害あるいは配慮を示唆する表現が含まれることが想定される。
方 法
研究協力者 公立小学校1年生の北村教諭(仮名/教職歴25年以上/女性教諭)と児童(25名)
調査方法 協力者に了解をとり,教室前方からの映像記録・フィールドノーツをとった。
分析方法 国語における話し合い活動を事例として抽出し,フェイスへの侵害あるいは配慮という視点からの談話の分析を行った。
結果と考察
1.指示のための動詞が示唆する児童認知
北村教諭は「赤川さんがさっきのいらいらした顔じゃなくって,みんなが聞いてくれて安心だなって,聞いてくれて嬉しいなって気持ちで話せるように・・・見る」と聞くことを求めることで,聞く行為が教師と児童の間の親密性フェイスに関わるだけでなく,話す児童と聞く児童の間の親密性フェイスに関わることを明示していた。また,北村教諭は「聞き逃したよね」と確認することで,聞く行為をすべきことと理解し,聞くことが可能である児童として聞かない児童を定位し,有能性フェイスを満たしていることが明らかになった。
2.教師と児童の立ち位置を表す表現の頻度
北村教諭は,聞く児童に対しては他の参加スタイルの児童より自律性フェイスへの配慮が少なく,有能性フェイスと親密性フェイスへの配慮を多く用いていた。教諭と聞く児童は,話し合い活動において聞く立場にあるという共通点とポジティブ・フェイスへの配慮から,両者は仲間関係にあることが示唆された。
聞かない児童に対しては,権威の顕現を避けようとする表現(i.e.「今は,聞く番」)や仲間関係にあることを示す表現(i.e.「〜だよね」)が多く,気持ちへの理解や行為への賞賛といった有能性フェイスへの配慮は少なかった。有能性フェイスへの配慮が少ないことから聞かないことは行為として望ましくないことが示され,権威の顕現を避け自律性フェイスへの配慮を示すことは同時に教師が親密な立ち位置にいないことを示していた。一方で,仲間関係にあることを示す表現を用いることで,聞かない児童に対する相反する認知を示していた。
話す児童に対しては,権威の顕現を避けようとする表現が少なく,児童の行為が大事であることを示す有能性フェイスへの配慮(i.e.「話してくれる?」)が多かった。北村教諭は,児童に促す行為を価値づけながら,権威の顕現を避けないことで,自らが話す児童より下の立ち位置から依頼するという形を明示していた。
総括的考察
以上から,北村教諭は話す児童と聞く児童の間に仲間関係を築き,自らもその関係の中にいるような表現で,指示発話を行っていた。また,聞かない児童に対しては,より複雑な考えを持っていることが指示表現から示唆された。