日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF61] ローゼンバーグ自尊感情尺度の2因子と 自己愛人格傾向の関連

反映的自己評価を基にした検討

福留広大1, 森永康子2 (1.広島大学・日本学術振興会, 2.広島大学)

キーワード:自尊感情, 自己愛, 反映的自己評価

 福留・藤田・中島・森永(2015)ではローゼンバーグ自尊感情尺度(RSES)が逆転項目群因子(NSE)と順項目群因子(PSE)に分かれる可能性を,自己愛人格傾向との関連をもとに示唆している。自己愛人格に寄与するRSESの因子はNSEというよりはむしろPSEであり,PSEと自己愛人格傾向尺度の下位因子の正相関は,NSEとの正相関よりも強かった。特に,(自己愛的)注目欲求については,PSE-注目欲求の相関とNSE-注目欲求の相関の係数間に有意な差が得られている。これらの結果は,PSEに“very good”の意味が含まれていることを示唆する。つまり,PSEには“自己像を良く評価する”という意味が存在し,NSEには“自己像をダメなわけではない(not bad)と評価する”という意味が反映されていると考えられる。では,なぜ注目欲求を第3の基準変数とした場合においてRSESの2因子が弁別されるのであろうか。注目欲求とは,端的に述べると“もっと私のことを見て”という,他者の存在を前提とした傾向を指す。一方,RSESは自己に対する評価姿勢を測定するものであり,本来他者からの注目は主要な要素として考慮されていない。しかし,(a)PSEと注目欲求が関連する背景には,高い自己評価とそれに対する賞賛,すなわち,“こんなにも良い自分(PSE)をもっと注目して(注目欲求)”という,他者存在が意識されている可能性を予想できる。一方で,“悪いわけでもない(NSE)側面を注目してほしい”という精神病理はないだろう。そもそも,自己評価の形成過程には他者からの評価が影響する。他者からの評価は,個人の他者からどのように思われているかという判断を経て,自己評価となる。この過程がRSES測定時に生起している可能性が考えられる。そして,自己評価は自己愛的な精神病理に帰結する。この一連の媒介過程を検証することで,PSEとNSEが特に注目欲求によって弁別され,主にPSEが自己愛に寄与する背景が検討できるだろう。つまり,高いPSEに至るには,他者から良い評価を受けているという判断が想定され,その結果としてPSEとNSEは自己愛的注目欲求との関連性において,顕著な違いを持つものと予想する。他者からどのように評価されていると思うか,という側面は反映的自己評価と呼ばれ,これはローゼンバーグの自尊感情尺度を“他者からどのように思われているか”という形式に置き換えたものによっても測定される(長谷川,2000)。上記の予想(a)より,反映的PSE(以下,RPSE)は,自己愛と,自己愛の下位因子である注目欲求と特に強く関連するだろう。反映的NSE(以下,RNSE)は自己愛と,注目欲求との関連が弱い,もしくは関連がないと予想する。また,RPSEと自己愛ではPSEが媒介するだろう。
方   法
 参加者:日本全国の18歳から25歳の400名(男性200名;女性200名)。インターネット調査会社に調査を委託した。質問項目:(1)Rosenberg自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982),(2)RSESに基づく反映的自己評価尺度(長谷川,2000),(3)自己愛人格傾向尺度NPI-35(小西・大川・橋本,2006)を5件法で使用した。なお,(1)と(2)の提示順は参加者毎にランダムとし,RSESにおける項目8は(1),(2)ともに分析に使用しない。
結果と考察
 Table 1に各変数間の相関係数を示した(NSEは逆転処理済みの値を使用)。PSEとNSEは自己愛によって異なる相関パターンとなることが示された。また,RPSEとRNSEは自己愛によってより明確に弁別されることが示された。
 媒介過程の検討をAmos23.0のベイズ推定により行った。NSEではRNSEを説明変数,自己愛を従属変数とする単回帰分析が有意でなかったため,媒介過程の検討を中止した。一方,PSEの媒介過程が認められた(Figure 1)。よって,PSEは他者評価に基づく評価であり,これが注目欲求に特徴的となる自己愛的精神病理をもたらすと考えられる。