日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH49] 女性専門職従事者の職業選択過程について

職業選択とロールモデルの関連から

岩田英以子 (青山学院大学)

キーワード:キャリア, 職業選択

目   的
 日本における女性の社会進出が期待されており,男女共同参画推進本部から,「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%になるよう期待する」と表明されている。しかしながら2008年の国際労働機関の調査によると,日本の女性の幹部登用率は9%に留まっている。その理由の一つとして,家庭の事情等で就業を継続することができず,キャリアの早い段階で離職をせざるを得ないことが挙げられてきた。加藤(2004)は,身近に就業継続している女性が多いと,目標が立てやすくキャリア展望を描くことができ,就業を継続することができるとロールモデルの影響について述べている。働く女性は周囲の人間を就労行動のロールモデルとしてどのように受け止めているのだろうか。そこで本発表では,現在管理職,もしくは専門職に就いている女性が,職業選択をする過程において,ロールモデルの存在がどのように影響を与えているかについてインタビュー調査から検討する。
方   法
 協力者は企業の管理職3名,獣医師1名,医師1名の計5名である。37歳から43歳の女性で,既婚者5名,子どもありは3名である。職業選択の際に影響を受けた人,物について語ってもらった。
結   果
 女性管理職,専門職5名のインタビューから,各々がどのように職業を選択し,継続してきたかを,児童期・青年期・成人期以降に分けて聞き取り,まとめた。児童期においては,女性でもやりたいことは本人の意思で選択することができるという,男女平等の考え方の影響を受けていた。青年期においては,特に大学進学時に母親から①母親が入学したくても行けなかった学校に入学して欲しい②母親が一旦離職後,再就職が難しかったために再就職し易い資格を持てる大学に入学して欲しい,という母親の無念を娘に託す形の意向を受け入れて進路を選択していた。逆に,専業主婦の母を見て,同じようにはなりたくないと反面教師として,就業を続ける選択をしていることも分かった。成人期以降の就業行動に直接的な影響を与えた特定の人物はほとんど存在せず,就業者の先輩として,祖母,父親,兄等身近な複数の人物を手本としていた。渡辺(2009)は女性のキャリア形成は非常に個人差,世代間格差が大きく,女性を一括りにはできないと述べている。管理職や専門家として就業を継続するために,誰か特定の人物をロールモデルとして模倣し,同じように生きているのではなく,自分なりのキャリアを考え,選択していることが分かった。また,結婚や出産を機に,仕事内容や働き方を変更していた。母親や身近な先輩の生き方を情報源として活かし,自分に必要な能力・知識を開発しており,それが市場からも評価されていた。
考   察
 今回の5名の対象者のうち,職業選択に影響を与えた人物として,母,兄,父親,祖母等の身近な人物を挙げていた。直接的に職業選択について示唆があった場合もあるが,職業を身近に感じることで,あのような働き方がしたいという憧れから自身の職業選択に影響を与えていた。画一されたロールモデルが存在しない中で,自分なりのキャリアを発達させていくためには,それぞれの状況に応じて,柔軟に対応していくための能力を育成していくことが必要であろう。
引用文献
加藤豊子(2004).製薬企業における女性研究者の育成と活用-就業継続の可能性 日本労働研究雑誌,71-86.
渡辺三枝子(2009).女性のキャリア形成支援のあり方-国立女性教育会館研究ジャーナル,13,16-26.