日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(65-88)

ポスター発表 PH(65-88)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PH87] 授業を観察する視点の検討

授業実践経験の違いに着目して

瀧本悠記子1, 岸俊行2 (1.福井大学, 2.福井大学)

キーワード:授業実践力, 授業観察, 視線分析

背   景
 授業実践力に関連した実証研究はこれまでも多くなされてきている(例えば齋藤・秋田2008,隈元 2010)。これらの研究は,従来名人芸として扱われているような非常に抽象的な授業実践力を一つの数値として客観的に測ろうと志向したものであり,その点において非常に意味のある取り組みと言える。しかしこの数値の取得に際して質問紙や記述式の自己評価を行っており,それらは少なからず主観が入り,客観的な指標といえるものではないと考える。しかし,授業実践力が教員養成における一つの視点となりうるのであれば,この授業実践力を客観的に測定していくことが求められるといえる。そこで本研究では,授業実践力を客観的に測定するための変数として,「授業を見る視点」を取り上げ,「授業を見る視点」を客観的に測定することを目的とした。その際に,授業を見る視点が授業実践力と密接に関連しているという仮説を立てた。具体的には,教職経験の豊富な教師と教職経験のない学生においては,授業実践力が異なるため,授業を見る視点も異なってくるという仮説を研究仮説とし,その検証を行った。
方   法
(1)実験概要
 本研究では教職経験は授業を見る視線に影響するのかを明らかにすることを目的としている。そのため授業を観察する際にはどのような点に着目しているのかの検討を行った。その際,視線分析を行うために予め撮影された授業ビデオを用い,それを観察者に提示することで観察者の視線の取得,解析を行った。
(2)実験対象授業
 首都圏にある公立小学校2年生3学級(便宜上A組,B組,C組とする)を実験対象授業とした。またA組,B組,C組の授業者はいずれも学級担任であり,A組は50歳代女性,B組は40歳代女性,C組は50歳代男性であった。本研究ではA,B組は教室後ろからC組は教室の右前方から撮影した授業記録を実験素材として使用した。
(3)観察者
 国公立大学に在籍する大学生及び教員16名 (1年生6名,4年生6名,教員4名)。1年生は教育実習にも行ったことがない学生,4年生は2回教育実習に行った学生である。さらに,教員はいずれも現場での教職経験10年以上を有する。
(4)実験手続
 観察者は各クラスの授業開始から一活動の終わるところまでの数分間の視聴を行った。その際に,Tobii Pro X2-60を用いた視線計測を行った。
(5)分析手続
 得られた視線データは,各クラスとも[右側の子ども][左側の子ども][中央の子ども][掲示物][教師]のように教室内をいくつかに分割したうえで,分析をおこなった(分割に関してはクラス毎に異なる)。実際の分析に関しては,以下の二つの分析を行った。一つは,上記の分割した個所に関して,どの程度の時間,そこを見ていたのかに関する数量的分析である。二つには,実際にどういった場所を見ているのかに関する感覚的分析である。
結果と考察
(1)数量的分析
 視線の動きを計測し,数量的に視線動向の分析を行った。その結果,A組の授業ビデオについて,教員は4年生より右側の子どもをより多くの回数,時間見ていること,教員は4年生に比べて教室中央の子どもを見る回数が多いこと,教員は1,4年生に比べて教師を見る1回あたりの時間が短いことが明らかとなった。
(2)感覚的分析
 授業ビデオの中から5秒ずついくつかの場面を取り出し,その5秒間にどこを見ていたのかの特徴の検討を行った。分析の結果,A組の授業ビデオの教師が子どもを指名し,板書をする場面では4年生は1年生,教員と比べ教師と黒板を多く見ていることが分かった。また子どもが教卓に立って発表している場面でも板書の場面と同様に4年生は1年生,教員と比べて教員を見ていることが分かる。このことからも4年生は教師の動きを中心に見ていることが考えられる。
 以上のことを踏まえると,教員は教室内の様々なところに目を向け,多くの情報を見取ろうとしていた。それに対し,4年生は教師に注目して見ており,これは教育実習での経験から自分なりの授業の見方が確立され,自分が重要だと思う点にのみ集中して授業を見る傾向があると言える。また,1年生は分析を行った結果,教員に近い分析結果が出た。しかし,教員のように様々な構成要素からクラスや授業の雰囲気を見取っているとは考えにくく,1年生は興味関心の赴くままに様々なところに視線を向けていると考えた。