日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC33] 文字の音声情報が読解行動に及ぼす影響

音読と読み聞かせの比較から

高橋麻衣子 (日本学術振興会/東京大学)

キーワード:読解, 音声, 眼球運動

問題と目的
 近年,電子書籍をはじめとする視聴覚メディアの発展と普及により文章を「読む」と同時に「聞く」ことが容易にできるようになった。本研究は読解時に同時に提示される音声情報が読解行動に及ぼす影響を検討するものである。
 これまで,文字の音声情報の提示が読解成績に及ぼす影響についてはさまざまな報告がなされているが,そのような理解成績を産出するまでの読解行動の違いについての検討は不十分であった。そこで本研究では音声情報の提示が読み手の読解行動にどのような影響を及ぼすのかについて,読解中の読み手の視線を分析することで検討する。
 読解中に文字の音声情報が提示される状況としては,他者の音声が提示される“読み聞かせ”のみならず,自分が発声した音声がフィードバックされる“音読”の状況もある。音読によって音声情報が提示されることは,読解に習熟していない読み手の読解を促進する一方で,熟達した読み手における貢献度は低いことが指摘されている(髙橋,2013,教育心理学研究)。したがって,熟達した読み手は他者の音声が提示される“読み聞かせ”状況においても,音声情報が提示されていない“黙読”時と同じように読解を進める可能性が指摘できる。本研究ではこの点に着目し,成人の読み聞かせ時の眼球運動が黙読と音読のどちらに類似するのかを明らかにすることで,音声情報の役割について考察する。
方   法
実験参加者 日本語を母語とする大学生36名
刺激 200字程度の説明的文章を18文章用意した。各文章に対して,逐語的な記憶を問う逐語記憶課題と,内容の意味理解を問う内容理解課題を4問ずつ作成した。
手続き 各参加者には黙読・音読・読み聞かせの3種類の読み方でコンピュータ画面に提示された文章を読むように教示した。読解中の参加者の視線をトビーテクノロジージャパン社アイトラッカーT60(検出レート60Hz)で計測した。文章の提示終了後,逐語記憶課題と内容理解課題を4問ずつ提示し,回答を求めた。1つの条件につき6文章を提示した。
結果と考察
 全参加者の逐語記憶課題と内容理解課題の正答率,文章の読解に要した時間,読解中の停留回数とそれぞれの停留時間をTable 1に示す。それぞれの値について読み方を要因とした1要因3水準の分散分析を行なった。その結果,逐語記憶課題,内容理解課題双方の正答率においては有意な差は検出されなかった(Fs < .55)。成人の読解においては,文字の音声情報の提示が文章の記憶や理解を促進したり阻害したりするわけではないことが考えられる。
 読解に費やした時間は3条件間に有意な差が生じ,黙読が一番短く,音読が一番長いことが示された(F(2,70) = 26.31, p < .01)。停留回数と停留時間においても要因の効果が有意となり(Fs > 14.27),黙読条件と読み聞かせ条件には差がなく,音読条件において他の条件よりも停留回数が多く1回の停留時間も長いことが示された。他者の音声が提示されても黙読と同様に視覚処理を行っており,音声提示の影響が小さいことが推察される。
 以上の結果から,読解に熟達した読み手は,文字の音声情報が提示されても,音声が提示されない状況と同じプロセスで読解を進め,音読時とは異なった処理がなされている可能性が高いことが指摘できた。成人が音読する際には視点が発声点よりも2,3文字先行する(Kondo & Mazuka, 1996, Journal of Psycholinguistic Research)ことが報告されている。今後,読み聞かせ時も音読時と同様に視点が音声提示点よりも先行しているのかを分析し,効果的な読解のための音声情報の提示方法についての提案を行う予定である。
謝   辞
実験実施の支援をしてくださった東京女子大学・田中章浩教授に感謝する。本研究の一部は科研費(15J40206)の助成を受けた。