日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD17] 児童と教師の認識する教師がほめる理由

青木直子 (藤女子大学)

キーワード:ほめ, 児童, 教師

問題と目的
 教師の用いる「ほめ」には,驚きや賞賛の自然な表出としての「ほめ」や,儀式としての「ほめ」など,さまざまな機能がある(Brophy, 1981)。そして,教師は,これらの機能を使い分けながら児童をほめる。しかし,教師が児童の行動がすばらしいと感じて児童をほめても,児童が皮肉・嫌味であると受け取る場合もあるなど,教師の意図したように「ほめ」が機能しないこともある。このようなほめる理由の認識のずれは,その後の児童の動機づけや児童と教師の関係性にも影響を与える。そこで,本研究では,教師がほめる理由について,児童と教師の両方の視点から検討する。
方   法
 小学生53名(男子16名,女子37名)と小学校教師2名(男性1名,女性1名)を対象としたインタビュー調査を行った。
 小学生対象の調査では,勉強に関することで教師からほめられる場面を提示し,各場面における感情・動機づけ・教師がほめる理由をたずねた。教師がほめる理由については,a)結果や過程への評価(e.g. すごいから・がんばったから),b)能力ややる気の向上(e.g. やる気になってほしいから),c)子どもの感情への配慮(e.g. 子どもに喜んでほしいから),d)将来への意識(e.g. 中学生になって困らないように),e)勉強・人間関係などへの態度変化の期待(e.g. 勉強や友達を好きになってほしいから),f)教師のポジティブな感情の表出(e.g. 先生はその子どもができてうれしかったから),g)見本や目標の提示(e.g. みんなにまねしてほしいから),h)その他に分類した。
 教師対象の調査でも同様の場面を提示し,児童の感情・動機づけ・それぞれの場面において児童をほめる理由について,低・中・高学年それぞれの場合についてたずねた。
結果と考察
 本発表では,児童の認識する教師がほめる理由と教師の回答したほめる理由について報告する。
 できなかった勉強ができてほめられた 低学年の児童の83%は,a)結果や過程の評価として教師がほめていると回答していたが,学年が上がるにつれてa)の比率は低下し,b)能力ややる気の向上のために教師はほめているとの回答が50%以上となった。教師は,低学年の児童に対しては「達成できたことを認めるためにほめる」といった,児童と同様の回答をしていた。また,教師からは中・高学年の児童には「失敗経験が増えるのでほめる・不安軽減のためにほめる」などの否定的な感情への配慮を意識した回答がみられた。中・高学年の児童は,教師は動機づけを高めるためにほめるといった未来志向的なねらいがあると認識しているが,教師は,現時点でのできた自分への働きかけを意識しているという違いがあるといえる。
 嫌いな勉強のことでほめられた 低学年の児童の回答では,a)がもっとも多く,61%であった。中・高学年の児童は,低学年では報告のみられなかったe)勉強・人間関係などへの態度変化の期待をもっとも多く挙げていた(42%)。教師は,低学年の児童には「苦手意識をもたせないためにほめる・やる気を高めるためほめる」といった,中・高学年の児童が挙げた理由と類似する回答をしていた。これらのことから,教師のほめる際のねらいが児童に理解されるまでに時間的なずれがある場合もあるといえる。また,教師は,高学年の児童には「できていることに意識を向けさせるためにほめる」と述べていた。これは,できなかった勉強ができた場面でも教師から挙げられた理由であり,教師が児童をほめる理由の中心的なものであることも示唆された。
 クラスメイトの前でほめられた 低学年の児童ではa)も44%と多かったが,どの学年群でもg)見本や目標の提示を挙げる児童が多かった(38~57%)。教師も,低学年の児童に対しては「ほめた児童の真似をしてほしいのでほめる」と回答していた。しかし,教師からは「高学年になると教師がほめることで友達の新たな一面に気付かせるためにほめる」という報告がみられ,児童の成果に注目するだけでなく,友達を多面的にとらえることを期待してほめていることが明らかになった。
 当たり前の勉強のことでほめられた 低学年の児童の回答は,a)が61%を占めていた。中・高学年になるとb)やg)の割合が増えた。教師からは「やる気を高める・あるべき状態を意識させる」といった回答がみられ,中学年以降は児童と教師の間に「ほめ」の理由のずれはみられず,両者ともに見られた「当たり前のことであっても忘れてはいけない」といった,学習の基盤となることがらを重視していることを指摘することができる。
*本研究はJSPS科研費15K17278の助成を受けたものです