日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD57] 他人が素手で作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼす要因

強迫傾向と親子の信頼関係の観点からの検討

向居暁 (県立広島大学)

キーワード:食行動, 強迫傾向, 親子の信頼関係

目   的
 「他人が作ったおにぎりが食べられない」という報告がインターネットを中心に散見される。このような報告では,除菌に代表される衛生意識の高まりが,その理由として挙げられることが多いようである(e.g., 森, 2015)。石井・田戸岡(2015, 2016)は,一般成人において,病原体嫌悪のような生理的な衛生意識はもちろんのこと,他者に対する信頼感や不安感のような対人的要因が,家族以外の他人が握ったおにぎりを食べることへの抵抗感に影響することを実証した。
 このような背景から,おにぎりを素手ではなく,ラップを用いて作ることが多いようである。常識的には,抵抗感を抱きやすいのは素手で作ったおにぎりだとするのが普通であるが,先行研究では「素手かラップか」が明記されていないため,調査協力者は,素手で作ったおにぎりのみを対象にして調査に回答していない可能性が残される。
 そこで,本研究では,素手で作ったことを明示して,他人が作ったおにぎりに対する抵抗感に及ぼす要因を検討することを目的とした。本研究で検討する要因については,先行研究より,生理的な衛生意識に対応するパーソナリティ特性として「強迫傾向」を,そして,対人的要因に対応するものとして,他者への信頼関係の基盤になると考えられる「親子の信頼関係」を取り上げた。
方   法
 調査対象者 大学生274名(男性62名,女性212名)であり,平均年齢19.5歳(SD =1.04)であった。
 手続き 家族(母親,父親,祖母,祖父,兄弟,姉妹)や家族以外(親戚のおじさん・おばさん,友達のお母さん・お父さん,友達,隣人,同じ町内の人,留学生)が,素手で作ったおにぎりにどの程度の抵抗感を感じるかをそれぞれ「「1(全くない)~6(かなりある)」の6件法で回答してもらった。強迫傾向を測定する尺度として,J-PI32 (鈴木, 2004)を用いた(「疑惑」,「汚染」,「確認」,「正確」,「衝動」の5因子で構成,回答方法を「1(全く当てはまらない)~5(かなり当てはまる)」の5件法に変更)。親子の信頼関係を測定するために,浜崎他(2012)が作成した尺度を用いた(「見守られ」,「相談相手」,「自己受容」,「親役割」,「親の向上心」,「親の支援」,「親の感情抑制」の7因子で構成,J-PI32と同様の5件法で母親・父親別に回答)。
結果と考察
 家族が素手で作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数とし,①J-PI32の下位因子と②親子の信頼関係尺度の下位因子を説明変数とした重回帰分析を行った結果,①の「汚染」(ß =.35),②の父親の「相談相手」(ß =-.27),母親の「支援」(ß =-.16)が,抵抗感に有意に影響していた(修正R2=.35**)。また,家族以外が素手で作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数として同様の重回帰分析を行った結果,①の「汚染」(ß =.43),②の母親の「支援」(ß =-.27),父親の「相談相手」(ß =-.21)および,父親の「感情抑制」(ß =-.14)が,抵抗感に有意に影響を与えていた(修正R2=.28**)。「家族以外」の結果も「家族」の結果もほぼ同様であった。
 まとめると,「家族・家族以外」に関係なく,強迫傾向の「汚染」,つまり,汚れることを過剰に恐れ,洗浄行為をする傾向が,他人が素手で作ったおにぎりに対する抵抗感に最も影響することがわかった。また,親子の信頼関係において,父親が相談相手になってくれないと感じているほど(加えて,「家族以外」では,感情的なほど),また,母親が支援してくれていないと感じているほど,他人が素手で作ったおにぎりに対して抵抗感を感じやすいことが示された。母親と父親では,信頼関係における異なった因子が影響していた。
 本研究の結果は,生理的な衛生意識,そして,他者に対する信頼感などの対人的要因が,他人が作ったおにぎりへの抵抗感に影響を与えると示した先行研究の結果と概ね一致するものである。今後の課題として,ラップを使用して作ったおにぎりに対する抵抗感についても検討する必要があるだろう。素手で作っていないにもかかわらず,抵抗感があるのならば,影響する要因やその影響の仕方に差違が見られる可能性があるからである。
主要引用文献
石井国雄・田戸岡好香 (2016). 他人の作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼす要因の検討(2)-成人教職員に対する調査- 日本パーソナリティ心理学会第25回大会発表論文集, 148.
謝   辞
本研究は,著者の指導により行われた中垣有紀子さんの卒業論文(2016年度・県立広島大学人間文化学部)のデータをもとに,加筆・修正したものである。ここに記して感謝の意を表す。