The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

4:00 PM - 6:00 PM

[PF08] 青年期前期における援助要請結果期待尺度作成の試み

大学生を対象とした回顧的インタビュー調査

天井響子 (東京大学大学院)

Keywords:援助要請, 結果期待, 青年期前期

問題と目的
 いじめ等による中学生の心の問題への対応策として,文部科学省は,スクールカウンセラーやソーシャルワーカー等の育成・配置を行ってきた(文部科学省, 2013)。しかし,それらのサポートは,悩みを抱える中学生自らが相談等の援助要請行動を起こさなければ機能しない。そのため,彼らが援助要請行動を起こす際の内的および外的要因,さらには,援助要請行動後の長期的アウトカムの解明が喫緊の課題となっている。先行研究では,直接的問題解決を目的とした道具的援助要請の肯定的アウトカムは安定して報告されている(e.g. Hoffman et al., 1992)一方,情緒的安定を目的とした情緒的援助要請については肯定的な報告と否定的な報告が混在している(e.g. 高本&相川, 2013 )。それは,情緒的援助要請に対する結果期待が区別されずに検討されてきたことが一因と考えられる。例えば,問題に対峙するための情緒的支援を期待した場合と,問題から回避した状態の不安軽減を期待した場合では,援助要請という行動表出が同じでも帰結が異なると予測されるのである。援助要請の結果期待を分析に含めた先行研究は現在のところ存在しないため,この観点の導入は,援助要請のアウトカム研究の方法の精緻化に繋がり,今後の知見の蓄積にも貢献しうる重要な試みである。
 そこで本研究では,今後の援助要請研究で応用可能な,情緒的援助要請を含む,援助要請行動の結果期待尺度の作成を目的とする。
方   法
インタビュー調査
 援助要請時の結果期待を抽出するため,中学または高校在学時の心理・社会的問題について,他者へ援助要請行動を起こした経験がある大学生・大学院生を対象に,45分程度の半構造化面接を行った。内容は,(a)当時の問題について,(b)援助要請対象について,(c)援助者への期待と評価(例:その人に頼った時,こんなことを言ってほしい,してほしい等,ご自身が期待していたことはあったと思いますか?)の主に3点であった。協力者のリクルートは,発表者の知人を通したスノーボールサンプリングで行われた。
インタビューデータの分析
 スクリプトを作成し,Coffey & Atkinson(1996)および徳田(2004)の質的コード化手法を参考に,結果期待のカテゴリとパターンを抽出した。コード化は複数人で飽和状態になるまで行い,結果から援助要請の結果期待尺度の項目案を作成した。
妥当性の確認
 作成した項目案の因子構造と妥当性を確認するため,大学生400名対象の質問紙調査を実施する。人間関係の悩みに直面した際の対処を想定し,作成した援助要請結果期待尺度,および日本語版COPE(Carcer,1989; 大塚, 2008)に回答して頂く。(発表抄録提出後に実施し,大会で報告予定。)
結   果
 インタビュー協力者は,大学生3名,大学院生8名の11名,平均年齢は22.9歳であった(Table1)。
 語りから,援助要請行動の結果期待として9項目を抽出し,道具的/情緒的援助要請および問題近接/回避の枠組みでカテゴリ化した(Table2)。
 本研究の着眼点である,情緒的援助要請に対する結果期待の違いとしては,心情の「理解」と「同調」の差が挙げられた。問題近接状態では,自身の心情を他者に「理解」してもらうことで情緒的な満足感はが得られるのに対し,回避状態にある時は「同調」が重要であり,援助要請対象も,類似した境遇の仲間であることが重要であった。
考   察
 今後は,抽出された援助要請の結果期待から作成した尺度の因子構造および妥当性を,問題近接/回避的方略との関係から統計的に検討し,尺度を改善することが必要である。(大会で報告予定。)