日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA21] 参加型学習を取り入れた学習プログラムが地球市民意識に及ぼす影響

小学校6年社会科「世界のなかの日本とわたしたち」の実践から

荒井隆一 (教育研究グループShinka)

キーワード:参加型学習, 地球市民意識, 社会科

問題と目的
 現在,国家を中心とした観点だけでは認識や解決が難しい地球規模の問題が発生している。グローバル社会の中で,異なる互いを理解する地球市民意識を育てることは,小学校の社会科の授業を通して,その実現を目指す重要なねらいである。本研究は,以下の仮説を検証することが主たる目的である。
1.「参加型学習を取り入れた学習プログラム(以下,本学習プログラム)」を実施すれば「世界の実態と国際協力」の理解を促進させることができるだろう。
2.本学習プログラムを実施すれば「地球市民意識」を向上させることができるだろう。
3.統制性と熟慮性が低い子どもが,本学習プログラムの中で,授業内容に着目できるようなワークシートを使用すれば,学習のねらいが達成できるだろう。

実践1
目的 「世界の実態と国際協力の理解の促進」「地球市民意識の向上」を検証する。
分析対象者 H県内の小学6年生38名。
期間 H26年2月6~7日にクラスAに実施。
手続き 事前調査(約15分),参加型学習を取り入れた学習プログラムの授業(225分),事後調査(15分)を実施。
結果 「世界の実態と国際協力」のテストでは,全カテゴリーが正答率80%以上の高得点を示し,全体の平均得点も事前から事後へ8.13(SD=2.71)→12.37(SD=1.94)と有意な上昇が見られた (t=9.04,df=37,p<.01)。
「地球市民意識」を測定するアンケートでは,全カテゴリーで3点満点中2.9以上の高い得点を示し,全体の平均値も事前から事後へ35.5(SD=2.64)→38.61(SD=0.82)有意な上昇が見られた(t=7.26,df=37,p<.01)。

実践2
目的 ①「調べ学習プログラム」で学んだ児童に「本学習プログラム」を実施した際の「世界の実態と国際協力の理解の促進」「地球市民意識の向上」を検証する。②ワークシートを使用することによって統制性と熟慮性が低い児童が学習のねらいを達成できるかを検証する。 
分析対象者 H県内の小学6年生38名。
期間 H26年3月11~12日にクラスBに実施。
手続き 予備調査(360分),事前調査(約15分),参加型学習を取り入れた学習プログラムの授業(270分),事後調査(15分)を実施。
結果 「世界の実態と国際協力」の理解度は,全カテゴリーが正答率75%以上の高得点を示し,全体の平均得点も事前から事後へ9.0(SD=2.66)→11.84(SD=2.76)と有意な上昇が見られた(t=9.38,df=37,p<.01)。「地球市民意識」は,全カテゴリーで3点満点中2.6以上の高い得点を示していた。
 統制性と熟慮性が低い児童については,「世界の実態と国際協力の理解」と「地球市民意識」の結果は,事前事後の伸びが認められ,事後の正答率や得点でも8割を超える高い値を示していた。これらの値は,学級全体の平均値と比較しても大きな差は認められなかった。
 統制性と熟慮性が低い児童が,学習のねらいを達成できた理由として,ワークシートの記述内容,授業記録,振り返りカードの内容から,①交流する前に「ワークシート」に自分の考えを書く作業を入れたこと。②話の内容を広げ深めるために提示していた「オープンクエスチョン」と「あいづち例」を児童が上手に活用したことで,統制性と熟慮性が低い児童も話し合いから外れることなく参加できたことが示された。

総合考察
 実践1・2により,本学習プログラムを実施すれば,世界の実態と国際協力の理解を促進させ,地球市民意識が向上することが示唆された。統制性と熟慮性が低い児童にも学習のねらいを達成できることが示唆された。
 児童の記述内容や授業記録と調査結果から明らかになったことは,児童は,まず,ロールプレイやシミュレーション手法を用いた参加型学習で,世界の貧困や格差の現状を実感的に学び,世界で起こっている問題に気づくことができた。次に,フォトランゲージ手法を用いた参加型学習で,世界の国や地域によって,食べ物や食べ方,考え方に違いがあることを想像的に学び,人間の尊厳と世界の文化の多様性を認識することができた。続いて,難民の生活に焦点を当てた参加型学習で,難民の生活や難民になった原因も理解することで,自分も何か力になりたいと考えるようになった。そして,最後の講義型学習では,世界の問題を実感的に学んだ児童だからこそ,問題解決のために組織されている国際連合の重要な役割が理解でき,世界の問題解決のために活躍している日本や日本人にほこりを持ち,地球市民として自分にできることを具体化できたということである。