[PA52] タブレット版の児童用セルフ・エスティーム(SE)潜在連合テストの開発
適応的なSEをクラス集団で測定するための予備的研究
キーワード:セルフ・エスティーム, 潜在連合テスト, 心理測定法
目 的
セルフ・エスティーム(Self-Esteem, 自尊感情,自己肯定感, 以下SE)は,子どもたちの健康や適応を高める心的特性として,教育実践や質問紙などを用いた心理測定が盛んに行われている。一方で,近年の研究では,高めることで不健康や不適応に繋がるSEの一面が指摘されており(e.g., contingent SE, Deci & Ryan, 1995; fragile high SE, Kernis, 2003),学校教育では健康・適応に寄与するSEの側面を高めることが重要であると主張されている(山崎ら, 2017)。測定法の観点からも非意識レベルの適応的SEを測定するための方法論が提案されている(横嶋ら, 2017)。
横嶋ら(2017)の測定法は,紙筆版の潜在連合テスト(IAT)を用いて適応的な自律的SE(山崎ら, 2017)の測定を狙ったものであり,学校教育の場で複数児童を対象に一斉調査ができる。紙筆版IATは紙とペンだけで測定が行えることがメリットである。デメリットは,冊子の作成や採点に時間的コストがかかることが挙げられる。
一方で,そもそもIATはパソコン(以下, PC版)を用いたものが主流であり,PC版は紙筆版と比べて集計も容易である。PC版は児童や幼児への実施例もあることや(e.g., Cvencek et al., 2016; Leeuwis et al., 2015),近年,教育現場にICT環境(タブレット等)の導入が進んでいる傾向を見ても,これらを用いた児童用の自律的SEの測定方法を開発する意義は大きい。しかし,PC版のIATは個別検査の形態が一般的であり,複数の児童を対象とした一斉調査に不向きであるという課題がある。また,PC版には自律的SEの測定法として妥当性を備えたものが存在しない。
そこで,児童でも扱いやすいタブレット端末を用いて,児童用の自律的SEの測定法を開発することを最終目的としながら,本研究では,教育現場で複数児童を対象に一斉実施が可能な測定プログラムを作成することを目的として研究を行った。
方 法
タブレット版SE-IAT 横嶋ら(2017)で開発されたSE-IATの構成(全7ブロック)と刺激語を参考にタブレット版として作成されたものを使用した(Figure 1)。また,複数児童への一斉検査を円滑に進めることを重視し,紙筆版と同様に制限時間(20秒)以内にIAT課題を行い,正答数をカウントする方法を採用した。調査には,ASUS社Zen Pad 8.0とBLUEDOT社BNT-791Wのタブレットを用いた。
調査対象と環境 小学校(1校)の4年生25名(男児11名,女児14名)を対象に実施した。調査は学級単位で一斉に実施し,時間はおよそ15分程度であった。得点化に使う3,4および6,7ブロックのエラー数が正答数に対して4割を超えないこと有効回答の基準したところ,1名を除いた計24名を有効回答として分析に使用した。
結果と考察
まず,本調査では紙筆版と同様の方法をタブレット版で再現することで,複数児童への同時調査の実施を試みたものであったが,検査時に大きな問題は確認されず,全般的に円滑な進行であった。
次に,得点の正規性を確認するためにヒストグラムを作成し,Shapiro-Wilkの検定を行った。その結果,ヒストグラムは正規分布に近い形状であり,正規性の検定も有意ではなかったため(p > .05, 尖度-1.30, 歪度.19, 最大値17, 最小値0),ほぼ正規分布であると考えられた。また,全体の得点傾向として,平均値8.33,標準偏差5.25であり,紙筆版(横嶋ら, 2017)と同様に平均的に自己と不快よりも自己と快刺激の潜在連合が強い傾向にあると考えられた。
一方で,本研究はサンプルサイズが小さいため,統計分析の結果は,人数を増やした今後の調査で詳細な検討を行う必要がある。また,自律的SEの測定法としての妥当性の研究や信頼性の確認も,今後の課題に挙げられる。
セルフ・エスティーム(Self-Esteem, 自尊感情,自己肯定感, 以下SE)は,子どもたちの健康や適応を高める心的特性として,教育実践や質問紙などを用いた心理測定が盛んに行われている。一方で,近年の研究では,高めることで不健康や不適応に繋がるSEの一面が指摘されており(e.g., contingent SE, Deci & Ryan, 1995; fragile high SE, Kernis, 2003),学校教育では健康・適応に寄与するSEの側面を高めることが重要であると主張されている(山崎ら, 2017)。測定法の観点からも非意識レベルの適応的SEを測定するための方法論が提案されている(横嶋ら, 2017)。
横嶋ら(2017)の測定法は,紙筆版の潜在連合テスト(IAT)を用いて適応的な自律的SE(山崎ら, 2017)の測定を狙ったものであり,学校教育の場で複数児童を対象に一斉調査ができる。紙筆版IATは紙とペンだけで測定が行えることがメリットである。デメリットは,冊子の作成や採点に時間的コストがかかることが挙げられる。
一方で,そもそもIATはパソコン(以下, PC版)を用いたものが主流であり,PC版は紙筆版と比べて集計も容易である。PC版は児童や幼児への実施例もあることや(e.g., Cvencek et al., 2016; Leeuwis et al., 2015),近年,教育現場にICT環境(タブレット等)の導入が進んでいる傾向を見ても,これらを用いた児童用の自律的SEの測定方法を開発する意義は大きい。しかし,PC版のIATは個別検査の形態が一般的であり,複数の児童を対象とした一斉調査に不向きであるという課題がある。また,PC版には自律的SEの測定法として妥当性を備えたものが存在しない。
そこで,児童でも扱いやすいタブレット端末を用いて,児童用の自律的SEの測定法を開発することを最終目的としながら,本研究では,教育現場で複数児童を対象に一斉実施が可能な測定プログラムを作成することを目的として研究を行った。
方 法
タブレット版SE-IAT 横嶋ら(2017)で開発されたSE-IATの構成(全7ブロック)と刺激語を参考にタブレット版として作成されたものを使用した(Figure 1)。また,複数児童への一斉検査を円滑に進めることを重視し,紙筆版と同様に制限時間(20秒)以内にIAT課題を行い,正答数をカウントする方法を採用した。調査には,ASUS社Zen Pad 8.0とBLUEDOT社BNT-791Wのタブレットを用いた。
調査対象と環境 小学校(1校)の4年生25名(男児11名,女児14名)を対象に実施した。調査は学級単位で一斉に実施し,時間はおよそ15分程度であった。得点化に使う3,4および6,7ブロックのエラー数が正答数に対して4割を超えないこと有効回答の基準したところ,1名を除いた計24名を有効回答として分析に使用した。
結果と考察
まず,本調査では紙筆版と同様の方法をタブレット版で再現することで,複数児童への同時調査の実施を試みたものであったが,検査時に大きな問題は確認されず,全般的に円滑な進行であった。
次に,得点の正規性を確認するためにヒストグラムを作成し,Shapiro-Wilkの検定を行った。その結果,ヒストグラムは正規分布に近い形状であり,正規性の検定も有意ではなかったため(p > .05, 尖度-1.30, 歪度.19, 最大値17, 最小値0),ほぼ正規分布であると考えられた。また,全体の得点傾向として,平均値8.33,標準偏差5.25であり,紙筆版(横嶋ら, 2017)と同様に平均的に自己と不快よりも自己と快刺激の潜在連合が強い傾向にあると考えられた。
一方で,本研究はサンプルサイズが小さいため,統計分析の結果は,人数を増やした今後の調査で詳細な検討を行う必要がある。また,自律的SEの測定法としての妥当性の研究や信頼性の確認も,今後の課題に挙げられる。