[PA65] 家庭生活を語らない貧困家庭の子どもの教育的アセスメント事例
描画法及び模擬紙幣を使用した取り組み
キーワード:貧困家庭, 描画法, 金銭理解
始めに
貧困家庭で養育放棄にあっている子どもは,保護者や家庭の状況について自ら語らないことが少なくない。こうした自ら語らない子どもの苦難について,今井(2012)が家族療法の視点から述べているように,学校でできることは子どもの見守りと,子どもを親元から「分化」させていくための教育である。子どもへの学習保障と社会生活に必要な知識を教えていくことが,分化の一つの手法であろう。以上のような視点から貧困家庭で養育放棄にあっているが自らは状況を口外しない子どもへの支援方針を立てるために,家庭の状況を知ることと,子どもの学力,生活力の把握アセスメントを実施した。
対象 ●普通級に在籍する生活保護家庭の小6女児(以下,A子)。事例は個人が特定されないように,いくつかの似た事例をまとめたものであることを断っておく。●A子は母親と妹との三人暮らし。母親はギャンブルを好み遊技場に夜間までいる姿が数回目撃されていえ,夜中まで自宅に戻らず,姉妹が自宅近くの公園で夜間遊んでいる姿が地域の人により学校に連絡があった。姉妹は1か月に1回,各自5千円を母親から渡されて食事や学用品,ゲーム代にしている。授業を聞くことが好きで人懐こい。会話のセンテンスが短く知的障害の疑いがもたれていた。休まず登校している。空腹のことが多く給食をたくさん食べる。体格は学年で最も小さい。身体や衣服の汚れが目立つ。母親へ学校からの連絡がつきにくい。
方 法
週に1回,1時間,相談室で個別面接をおこなう。A子が言語化しない家庭の様子や,A子の思いと知的水準の大まかな確認を目的とした。・カレンダーの利用により家庭内のエピソードの収集,描画法によるA子の家庭観の把握,おもちゃ銀行の模擬貨幣を使用した金銭概念の確認をおこなった。同時に担任,A子の過去の担任などから学習の様子を聞き取りしていった。描画法は藤岡(2002)による「円形枠描画法」「火山爆発」の2種を使用した。
結 果
カレンダーを使用した家庭内のエピソードの収集:A子の好む買い物やゲームの話題から,直近の1週間の生活情報を確認しながらA子にカレンダーに「行った場所」「食べたもの」などを記録してもらった。記録内容とA子が教員(担任とは限らない)にぽつりと語る内容に大きな違いがあることが度々あり現実の生活について確認することが困難だった。・描画法によるA子の家庭観:面接時に「家庭のイメージ」を円形枠描画法で,A子のストレスをチェックするために「火山の絵を塗って」という指示で実施した。
円形枠内に,ピンクや水色で3人の人物が何も載っていない丸いテーブルを囲んで笑っており周囲にはハートや花が沢山浮かんでいる絵を描いた。火山は「蓋をして富士山にする」と言い,山頂に蓋を描きこみ山体を青く塗り白い雪を加えた。この描画法は5回実施。途中で小噴火や水が噴き出す絵があり,五回目は緑の山体と夜空に星が輝く絵だった。円形枠法は二回,三回はハンバーガーやケーキの絵だった。四回目は大きなリボンをつけた女児,五回目は天井から電気が下がっている下に母親らしき人物とA子らしい人物が笑っている顔だった。ハートや花は毎回描かれていた。・金銭概念:口頭で千円札が〇枚でいくら?という質問には5千円まで正解した。千円札10枚では「10万円」と回答し通常使用している5千円までは千円札,500円玉等の硬貨の組み合わせで理解していた。時折,祖父母から10万円もらった,という話を担任等がA子から聞いていたが,A子は5千円を超える金銭は理解できていないことがわかった。算数は繰り上がりのない足し算は3桁まで可。この模擬紙幣やチラシを切り抜いたファーストフードの写真を使用して「いつ食べた」「今はいくら残っている」というやり取りの中で,食べ物がないから祖父母宅まで徒歩で行き,畑の野菜をもらって食べた,などという現実が少しずつあきらかになっていった。また,金銭感覚が着実に定着していった。
考 察
計算は3桁の足し算より伸びなかったが,生活に必要な金銭を使用した金銭感覚の理解のアセスメントは,金銭学習の効果と家庭生活を語りA子を安定させるカウンセリング効果もあった。それは描画法にも表れた。模擬貨幣で金銭理解が進んだことがA子に自信を与え火山爆発描画が噴火から安定した夜空へと変化をした。
貧困家庭で養育放棄にあっている子どもは,保護者や家庭の状況について自ら語らないことが少なくない。こうした自ら語らない子どもの苦難について,今井(2012)が家族療法の視点から述べているように,学校でできることは子どもの見守りと,子どもを親元から「分化」させていくための教育である。子どもへの学習保障と社会生活に必要な知識を教えていくことが,分化の一つの手法であろう。以上のような視点から貧困家庭で養育放棄にあっているが自らは状況を口外しない子どもへの支援方針を立てるために,家庭の状況を知ることと,子どもの学力,生活力の把握アセスメントを実施した。
対象 ●普通級に在籍する生活保護家庭の小6女児(以下,A子)。事例は個人が特定されないように,いくつかの似た事例をまとめたものであることを断っておく。●A子は母親と妹との三人暮らし。母親はギャンブルを好み遊技場に夜間までいる姿が数回目撃されていえ,夜中まで自宅に戻らず,姉妹が自宅近くの公園で夜間遊んでいる姿が地域の人により学校に連絡があった。姉妹は1か月に1回,各自5千円を母親から渡されて食事や学用品,ゲーム代にしている。授業を聞くことが好きで人懐こい。会話のセンテンスが短く知的障害の疑いがもたれていた。休まず登校している。空腹のことが多く給食をたくさん食べる。体格は学年で最も小さい。身体や衣服の汚れが目立つ。母親へ学校からの連絡がつきにくい。
方 法
週に1回,1時間,相談室で個別面接をおこなう。A子が言語化しない家庭の様子や,A子の思いと知的水準の大まかな確認を目的とした。・カレンダーの利用により家庭内のエピソードの収集,描画法によるA子の家庭観の把握,おもちゃ銀行の模擬貨幣を使用した金銭概念の確認をおこなった。同時に担任,A子の過去の担任などから学習の様子を聞き取りしていった。描画法は藤岡(2002)による「円形枠描画法」「火山爆発」の2種を使用した。
結 果
カレンダーを使用した家庭内のエピソードの収集:A子の好む買い物やゲームの話題から,直近の1週間の生活情報を確認しながらA子にカレンダーに「行った場所」「食べたもの」などを記録してもらった。記録内容とA子が教員(担任とは限らない)にぽつりと語る内容に大きな違いがあることが度々あり現実の生活について確認することが困難だった。・描画法によるA子の家庭観:面接時に「家庭のイメージ」を円形枠描画法で,A子のストレスをチェックするために「火山の絵を塗って」という指示で実施した。
円形枠内に,ピンクや水色で3人の人物が何も載っていない丸いテーブルを囲んで笑っており周囲にはハートや花が沢山浮かんでいる絵を描いた。火山は「蓋をして富士山にする」と言い,山頂に蓋を描きこみ山体を青く塗り白い雪を加えた。この描画法は5回実施。途中で小噴火や水が噴き出す絵があり,五回目は緑の山体と夜空に星が輝く絵だった。円形枠法は二回,三回はハンバーガーやケーキの絵だった。四回目は大きなリボンをつけた女児,五回目は天井から電気が下がっている下に母親らしき人物とA子らしい人物が笑っている顔だった。ハートや花は毎回描かれていた。・金銭概念:口頭で千円札が〇枚でいくら?という質問には5千円まで正解した。千円札10枚では「10万円」と回答し通常使用している5千円までは千円札,500円玉等の硬貨の組み合わせで理解していた。時折,祖父母から10万円もらった,という話を担任等がA子から聞いていたが,A子は5千円を超える金銭は理解できていないことがわかった。算数は繰り上がりのない足し算は3桁まで可。この模擬紙幣やチラシを切り抜いたファーストフードの写真を使用して「いつ食べた」「今はいくら残っている」というやり取りの中で,食べ物がないから祖父母宅まで徒歩で行き,畑の野菜をもらって食べた,などという現実が少しずつあきらかになっていった。また,金銭感覚が着実に定着していった。
考 察
計算は3桁の足し算より伸びなかったが,生活に必要な金銭を使用した金銭感覚の理解のアセスメントは,金銭学習の効果と家庭生活を語りA子を安定させるカウンセリング効果もあった。それは描画法にも表れた。模擬貨幣で金銭理解が進んだことがA子に自信を与え火山爆発描画が噴火から安定した夜空へと変化をした。