[PB45] 多国間連携による平和構築・紛争予防教育の評価
受講者インタビューから
キーワード:紛争予防教育, 平和教育, プログラム評価
問題と目的
本研究では,平和構築・紛争予防を目指して実施している,多国間連携による教育プログラムのプログラム評価を目的としている。このプログラムでは,インターネットを用いた遠隔会議システムを利用して,日本,インド,パキスタン,カンボジアなどアジアの紛争経験国に所在する大学を結び,紛争解決,予防のための実践的知識,スキルの獲得に加え,宗教,イデオロギー等が異なる学生が共に学びあう環境を提供することで,多文化理解の促進や,紛争に対する視点の多様化などの教育目標の達成を目指している。
これまで,教育効果に対する数量的検討から,本教育プログラムの受講によって,紛争の原因や解決方略に対して当事者意識が醸成されることや,道徳逸脱行為の抑制を弱める道徳不活性の程度に影響が及ぶことなどが示されている(池田・福田・宮城,2015など)。したがって,本研究で取り上げるプログラムは,アジアの紛争経験国に限らず,平和構築へ向けた教育的取り組みとして,広く汎用性があるといえる。
しかしこうした教育プログラムを継続させ,広く普及させるためには,プログラムに効果があることを示すだけでは不十分であり,効率性,内容の適切さや必要性を明らかにする必要がある。そこで本研究では,過去に本教育プログラムを受講した学生を対象に,プログラムに対する印象を訪ね,プログラムの普及へ向けた効率性向上,改善への指針を得ることを目的とする。
方 法
調査対象者
Quaid-i-Azam大学(イスラマバード)の政治学・国際関係学部に在学する学生40名を対象に,半構造化インタビューを行った。インタビュー実施に際しては2名を一組とし,所要時間は一組につき30~40分程度であった。なおインタビューはすべて英語で実施した。
調査内容
インタビューでは,(1)受講動機,(2)授業内容や方法に対する印象や感想,(3)授業を受けたことで得た学びや自身の中に生じた変化,(4)授業の改善へ向けたコメントの4点を中心に聞き取りを行った。
結果と考察
(1)受講動機
教育プログラムの受講動機として,大きく「文化的多様性への関心」と「紛争解決・予防への関心」の二つが語られた。本調査の対象者が在籍する学部には,主に国内政治を取り扱う政治学コースと,国際関係コースがあり,特に前者の場合は,必ずしも国際的な紛争の解決に関心を持っているわけではなく,広く政治的関心として本コースを選択した者もいた。
(2)印象・感想
内容的にも形式的にも,他に例のないプログラムとして,好印象を抱いている学生が多かった。特に印象的な授業内容として多く語られたのは,他大学の学生とのディスカッションの部分であった。中でも,同じパキスタン国内でもカシミール地方にある大学の学生とのディスカッションが印象的という語り多かった。
(3)学びや変化
学びや変化として特に特徴的だったものとして,上記のカシミール地方にある大学の学生とのディスカッションを挙げ,「カシミール紛争について,首都と,カシミール地方の当事者とでは,解決へ向けた考え方が異なることを知り,驚いた」というものが挙げられる。これは民族自決という,近年の紛争解決における中心的な考え方を,体験的に学んだといえよう。
(4)改善
改善についてのコメントは,ほとんどが機材トラブル,通信回線の不安定さに関わるものだった。
総合考察
インタビューから,本教育プログラムの中で,他国の学生との交流の機会があることが,紛争に対する視点の多様化を促進するうえで有効に作用していることが示された。
引用文献
池田満・福田彩・宮城徹(2015).紛争当事国の学生が抱く紛争認識―原因,解決における主体的関与の意識,応用心理学研究,41,98-99.
付 記
本研究は科研費(16K03514)の助成を受けたものである。また本研究は,南山大学「人を対象とする研究」倫理審査の承認を受けて実施された(承認番号:17-073)。
本研究では,平和構築・紛争予防を目指して実施している,多国間連携による教育プログラムのプログラム評価を目的としている。このプログラムでは,インターネットを用いた遠隔会議システムを利用して,日本,インド,パキスタン,カンボジアなどアジアの紛争経験国に所在する大学を結び,紛争解決,予防のための実践的知識,スキルの獲得に加え,宗教,イデオロギー等が異なる学生が共に学びあう環境を提供することで,多文化理解の促進や,紛争に対する視点の多様化などの教育目標の達成を目指している。
これまで,教育効果に対する数量的検討から,本教育プログラムの受講によって,紛争の原因や解決方略に対して当事者意識が醸成されることや,道徳逸脱行為の抑制を弱める道徳不活性の程度に影響が及ぶことなどが示されている(池田・福田・宮城,2015など)。したがって,本研究で取り上げるプログラムは,アジアの紛争経験国に限らず,平和構築へ向けた教育的取り組みとして,広く汎用性があるといえる。
しかしこうした教育プログラムを継続させ,広く普及させるためには,プログラムに効果があることを示すだけでは不十分であり,効率性,内容の適切さや必要性を明らかにする必要がある。そこで本研究では,過去に本教育プログラムを受講した学生を対象に,プログラムに対する印象を訪ね,プログラムの普及へ向けた効率性向上,改善への指針を得ることを目的とする。
方 法
調査対象者
Quaid-i-Azam大学(イスラマバード)の政治学・国際関係学部に在学する学生40名を対象に,半構造化インタビューを行った。インタビュー実施に際しては2名を一組とし,所要時間は一組につき30~40分程度であった。なおインタビューはすべて英語で実施した。
調査内容
インタビューでは,(1)受講動機,(2)授業内容や方法に対する印象や感想,(3)授業を受けたことで得た学びや自身の中に生じた変化,(4)授業の改善へ向けたコメントの4点を中心に聞き取りを行った。
結果と考察
(1)受講動機
教育プログラムの受講動機として,大きく「文化的多様性への関心」と「紛争解決・予防への関心」の二つが語られた。本調査の対象者が在籍する学部には,主に国内政治を取り扱う政治学コースと,国際関係コースがあり,特に前者の場合は,必ずしも国際的な紛争の解決に関心を持っているわけではなく,広く政治的関心として本コースを選択した者もいた。
(2)印象・感想
内容的にも形式的にも,他に例のないプログラムとして,好印象を抱いている学生が多かった。特に印象的な授業内容として多く語られたのは,他大学の学生とのディスカッションの部分であった。中でも,同じパキスタン国内でもカシミール地方にある大学の学生とのディスカッションが印象的という語り多かった。
(3)学びや変化
学びや変化として特に特徴的だったものとして,上記のカシミール地方にある大学の学生とのディスカッションを挙げ,「カシミール紛争について,首都と,カシミール地方の当事者とでは,解決へ向けた考え方が異なることを知り,驚いた」というものが挙げられる。これは民族自決という,近年の紛争解決における中心的な考え方を,体験的に学んだといえよう。
(4)改善
改善についてのコメントは,ほとんどが機材トラブル,通信回線の不安定さに関わるものだった。
総合考察
インタビューから,本教育プログラムの中で,他国の学生との交流の機会があることが,紛争に対する視点の多様化を促進するうえで有効に作用していることが示された。
引用文献
池田満・福田彩・宮城徹(2015).紛争当事国の学生が抱く紛争認識―原因,解決における主体的関与の意識,応用心理学研究,41,98-99.
付 記
本研究は科研費(16K03514)の助成を受けたものである。また本研究は,南山大学「人を対象とする研究」倫理審査の承認を受けて実施された(承認番号:17-073)。