[PB46] 大学生における肢体不自由者の能力に関する潜在的ステレオタイプと障害者観の関連
キーワード:身体障害, 潜在連合テスト(IAT), インクルーシブ教育
問 題
インクルーシブ教育の推進により,大学では健常学生と身体障害学生の交流が増えている。身体障害学生が大学に適応するには,学習支援や物理的・心理的に支え合える友人関係を築くことが有用だと考えられる。しかし,健常学生は身体障害学生との交流に抵抗感を抱きやすい(河内, 2004)。その一因に,健常学生が障害学生の能力を低く評価するステレオタイプを持ち,過度な同情や否定的態度を抱くことが考えられる。そこで本研究では,健常な大学生を対象に,障害者の能力に対する潜在的ステレオタイプと障害者との交流や教育に関する障害者観との関連を検討する。なお,本研究では身体障害の種類を肢体不自由に限定した。
方 法
調査協力者 大学生24名(男性6名,女性18名)。内,身体障害者へのボランティア経験あり9名,経験なし7名,身体障害の友人あり8名(友人が学内6名,学外2名)であった。
潜在的ステレオタイプ 予備調査で選定した刺激(Table 1)を用いて潜在連合テスト(IAT)を行った。IATはE-prime3.0(Psychology Software Tools)で作成した。タブレットPC(FKH-00014,Microsoft)の画面中央に呈示された刺激を左右の正しいカテゴリーに分類する反応時間を測定し(Table 2),Greenwald et al.(2003)の計算式でIAT得点を算出した。IAT得点は,正の値が大きいほど「能力が低い」,負の値が大きいほど「能力が高い」という潜在的ステレオタイプを示している。
障害者観 障害者観尺度(河合,2004)を「全く同意できる(6点)-全く同意できない(1点)」で評定させた。下位尺度は,教育尺度(「身体障害の子どもは,普通学校の中で十分に活動できる」など8項目),当惑尺度(「身体障害の人とつきあうにはひどく気をつかう」など8項目)であり,下位尺度別に項目平均値を算出した。
結果・考察
全体平均値はIAT得点が0.95点(SD = 0.66),教育尺度が3.91点(SD = 0.66),当惑尺度が3.14点(SD = 0.71)であった。IAT得点と教育尺度(Figure 1),及び,当惑尺度(Figure 2)の散布図を示す。IAT得点と教育尺度は負の弱い相関が有意であり(r = -.48, p < .05),障害者の「能力が低い」というステレオタイプが弱いほど障害者と学ぶ統合教育に同意していた。IAT得点と当惑尺度の相関はなかった(r = .16, n.s.)。なお,外れ値とみなせる1名(IAT得点が-1.11点)を除いた相関は,IAT得点と教育尺度がr = -.37(p < .10),当惑尺度がr = .32(n.s.)だった。
IAT得点は多くの協力者で正の値だったが,学内に身体障害の友人を持つ2名は負の値だった。そのため,この2名に追加面接を行った結果,身体障害の友人は「勉強や学内行事を頑張っている」,「困った時に良い助言をくれる」など,物理面以外の能力の高さについて言及した。以上より,健常学生は身体障害学生と共に学修しながら交流する経験を通して,障害者の物理面以外に着目でき,ステレオタイプが弱くなる可能性が示唆された。
引用文献
Greenwald, A.G., Nosek, B.A., & Banaji, M.R. (2003). Understanding and using the implicit association test:Ⅰ. An improved scoring algorithm. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 197-216.
河内清彦 (2004). 障害学生との交流に関する健常大学生の自己効力感及び障害者観に及ぼす障害条件, 対人場面及び個人的要因の影響. 教育心理学研究, 52, 437-447.
インクルーシブ教育の推進により,大学では健常学生と身体障害学生の交流が増えている。身体障害学生が大学に適応するには,学習支援や物理的・心理的に支え合える友人関係を築くことが有用だと考えられる。しかし,健常学生は身体障害学生との交流に抵抗感を抱きやすい(河内, 2004)。その一因に,健常学生が障害学生の能力を低く評価するステレオタイプを持ち,過度な同情や否定的態度を抱くことが考えられる。そこで本研究では,健常な大学生を対象に,障害者の能力に対する潜在的ステレオタイプと障害者との交流や教育に関する障害者観との関連を検討する。なお,本研究では身体障害の種類を肢体不自由に限定した。
方 法
調査協力者 大学生24名(男性6名,女性18名)。内,身体障害者へのボランティア経験あり9名,経験なし7名,身体障害の友人あり8名(友人が学内6名,学外2名)であった。
潜在的ステレオタイプ 予備調査で選定した刺激(Table 1)を用いて潜在連合テスト(IAT)を行った。IATはE-prime3.0(Psychology Software Tools)で作成した。タブレットPC(FKH-00014,Microsoft)の画面中央に呈示された刺激を左右の正しいカテゴリーに分類する反応時間を測定し(Table 2),Greenwald et al.(2003)の計算式でIAT得点を算出した。IAT得点は,正の値が大きいほど「能力が低い」,負の値が大きいほど「能力が高い」という潜在的ステレオタイプを示している。
障害者観 障害者観尺度(河合,2004)を「全く同意できる(6点)-全く同意できない(1点)」で評定させた。下位尺度は,教育尺度(「身体障害の子どもは,普通学校の中で十分に活動できる」など8項目),当惑尺度(「身体障害の人とつきあうにはひどく気をつかう」など8項目)であり,下位尺度別に項目平均値を算出した。
結果・考察
全体平均値はIAT得点が0.95点(SD = 0.66),教育尺度が3.91点(SD = 0.66),当惑尺度が3.14点(SD = 0.71)であった。IAT得点と教育尺度(Figure 1),及び,当惑尺度(Figure 2)の散布図を示す。IAT得点と教育尺度は負の弱い相関が有意であり(r = -.48, p < .05),障害者の「能力が低い」というステレオタイプが弱いほど障害者と学ぶ統合教育に同意していた。IAT得点と当惑尺度の相関はなかった(r = .16, n.s.)。なお,外れ値とみなせる1名(IAT得点が-1.11点)を除いた相関は,IAT得点と教育尺度がr = -.37(p < .10),当惑尺度がr = .32(n.s.)だった。
IAT得点は多くの協力者で正の値だったが,学内に身体障害の友人を持つ2名は負の値だった。そのため,この2名に追加面接を行った結果,身体障害の友人は「勉強や学内行事を頑張っている」,「困った時に良い助言をくれる」など,物理面以外の能力の高さについて言及した。以上より,健常学生は身体障害学生と共に学修しながら交流する経験を通して,障害者の物理面以外に着目でき,ステレオタイプが弱くなる可能性が示唆された。
引用文献
Greenwald, A.G., Nosek, B.A., & Banaji, M.R. (2003). Understanding and using the implicit association test:Ⅰ. An improved scoring algorithm. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 197-216.
河内清彦 (2004). 障害学生との交流に関する健常大学生の自己効力感及び障害者観に及ぼす障害条件, 対人場面及び個人的要因の影響. 教育心理学研究, 52, 437-447.