The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD44] 自己評価式モラルシンキング尺度(中学生版)の開発

考え,議論する道徳:社会・集団とのかかわり編

池田まさみ1, 森津太子2, 高比良美詠子3 (1.十文字学園女子大学, 2.放送大学, 3.立正大学)

Keywords:道徳, クリティカルシンキング, 中学生

問題と目的
 小中学校の「道徳」授業は,平成27年,「特別の教科 道徳」として一般教科に位置付けられることになった。小学校では平成30年度,中学校では31年度に新しい道徳授業が始まる。その最大の特徴は「考え,議論する」点にある。つまり,単にモラルを教わる・知る授業から,問題や課題を「自分ごと」として捉え・考える授業,すなわち“モラルシンキング”を育成する授業へと転換される。
 新しい道徳の教材や学習指導要領を見ると,小中学校共に,(1)自分自身に関すること,(2)他の人とのかかわりに関すること,(3)自然や崇高なものとのかかわりに関すること,(4)集団や社会とのかかわりに関すること,の4つのテーマに大別されている。各テーマの学習目標はいずれも,論理的思考を基盤として自己と他者の双方の思考に目を向け,物事の因果関係をエビデンスに基づいて推論する「クリティカルシンキング」(批判的思考)や,個々人が社会の一員としての自覚をもって行動する「キャリア基礎力」などの能力・資質に通じるものとなっている。
 そこで,児童・生徒がモラルシンキングを身に付けるには,キャリア発達や批判的思考を見据えた教授法や教材を開発する必要があると同時に,現場では,生徒が自身の思考や行動を振り返り,様々な視点から「気づき」(メタ認知)を得ることが重要になる。具体的には,生徒自身でモラルシンキングの達成度を自己評価することが有効であろう。本研究では,そうした支援の第一歩として,新しい道徳の特徴でもある「(4)集団・社会とのかかわり」に関する学習項目を整理し,自己評価式モラルシンキング尺度(中学生版)の開発を試みた。これが現場で定期的に活用される形になれば,生徒一人一人の思考・行動の成長を辿ることができる「モラルシンキング・ポートフォリオ」としても有意義なものとなる。さらに,その結果に基づいて教授法や教材を改善していくことで,発達段階に応じた道徳教育を展開できると考える。

方  法
調査対象 都内私立女子中学1年生94名(平均12.96歳,SD=0.2歳)。
調査時期 2018年3月13日
調査内容 「私たちの道徳 中学校」(文部科学省,2014)の「4.社会に生きる一員として」の学習項目をすべて抜き出し,「行動」に着目した全41項目を作成し4件法で回答を得た。妥当性検証のため,(a)青年期クリティカルシンキング尺度(池田他,2015),(b)キャリア基礎力尺度(池田他,2015),(c)中学生用J-WLEIS(豊田・桜井,2007)の3つの尺度を用い,いずれも6件法で回答を得た。

結果と考察
 探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,対角SMC平行分析,MAP,固有値1以上の基準および解釈のしやすさから5因子を抽出した。第1因子は“自分が所属する集団をよりよくするために自分に何ができるかを考える”などの項目で「責任ある個人」,第2因子は“誰に対しても公平に接する”などの項目で「公正な個人」,第3因子は“日本の伝統と文化を守るために日本人としてできることを考える”などの項目で「貢献する個人」,第4因子は“社会の一員として,将来働くことをイメージする”などの項目で「共生する個人」,第5因子は“自分を育ててくれている家族に感謝する”などの項目で「感謝する個人」と命名した。5つの因子はいずれも高い信頼性係数を示した(Table 1)。また(a)~(c)の3つの尺度の全10因子との間には,いずれも予想された有意な正の相関が確認された(rs=.38 - .84,ps<.01)。
 今後は,本尺度の項目をさらに精査すると共に,本尺度を基にモラルシンキング育成のための効果的な教授法と教材の開発を進めていく。


引用文献
池田まさみ他(2015)高校生のキャリア教育とクリティカルシンキング(自主企画シンポジウム)日本教育心理学会総会発表論文集,57,84-85.
豊田弘司・桜井裕子(2007)中学生用情動知能尺度の開発 教育実践総合センター研究紀要(奈良教育大学),16,13-17.

付  記
本研究はJSPS 科研費(基盤研究C)17K01091の助成を受けて遂行した。
研究は十文字学園女子大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて実施した。