日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE37] 効果的な学習方略使用はいかにして方略志向に結びつくのか

有効性の認知の媒介過程

赤松大輔1, 中谷素之2 (1.名古屋大学大学院, 2.名古屋大学大学院)

キーワード:学習観, 学習方略, 有効性の認知

問題と目的
 学習観とは,効果的な学習の成立に対する信念と定義される (植木, 2002)。学習観のなかでも,学習方法を重視する方略志向は,メタ認知的方略,深い処理方略,自律的援助要請といった効果的な学習方略の使用を促すことが示されてきた。
 近年,方略志向と効果的な学習方略使用の間には,方略志向から学習方略使用への因果関係に加えて,学習方略使用から方略志向への因果関係も存在することが示されており,効果的な学習方略使用が方略志向を形成する可能性が示唆されている (Akamatsu & Nakaya, 2018)。しかしながら,効果的な学習方略の使用がどのようなプロセスを経て方略志向に結びつくのかについては実証されていない。有効な学習方略をただ用いるだけで方略志向が形成されていくとはいえないだろう。
 本研究では,効果的な学習方略使用が方略志向を形成する過程において,学習方略に対する有効性の認知が媒介していることを想定する。いくつかの先行研究において,有効な学習方略を実際に使用して学習成果を挙げること (植阪, 2010) や,学習方略を使用しその効果を実感する経験を繰り返すこと (進藤, 2012) で,方略志向が強化されていくことが示唆されているためである。よって,学習方略使用と方略志向の媒介要因として有効性の認知を取り上げ,媒介分析を用いた検討により,学習方略使用が有効性の認知に媒介されることで方略志向に結びつくことを明らかにする。

方  法
調査時期 T1: 2016年12月 T2: 2017年1月
調査協力者 西日本の大学に在籍する大学生1―4年生105名 (男性42名,女性63名,平均年齢19.77歳 (SD=0.84)) を対象とした。
質問紙 方略志向 (T2) 植木 (2002) より6項目を使用した。 メタ認知的方略 (T1) 梅本 (2013) を参考にプランニング方略3項目,モニタリング方略3項目を使用した。 深い処理方略 (T1) 梅本 (2012) より体制化方略3項目,精緻化方略3項目を使用した。 自律的援助要請 (T1) 瀬尾 (2007) を参考に3項目を使用した。 有効性の認知 (T2) 各学習方略に対してどの程度有効と思うかを尋ねた。

結  果
 学習方略使用を独立変数,有効性の認知を媒介変数,方略志向を結果変数とした媒介分析を行った (Table 1)。精緻化方略に関しては,有効性の認知から方略志向への回帰係数が有意とならなかったため,媒介分析から除外した。媒介分析の結果,どの学習方略使用を独立変数とした場合も,有効性の認知を介した間接効果が示された (ab=.05―.12 [95%CL: .01―.21])。学習方略使用から方略志向への直接効果はみられず,完全な媒介効果が示された。

考  察
 媒介分析の結果,全ての学習方略において,有効性の認知による完全な媒介効果が示された。ここから,学習者が学習方略の有効性を認知していることにより,効果的な学習方略の使用が方略志向に結びつくことが示唆される。この結果は,植阪 (2010) や 進藤 (2012) が示唆してきた有効性の実感を介して方略志向が形成される過程を支持する結果といえる。有効性の認知を伴わない場合は,効果的な学習方略を用いても方略志向が形成されにくく,学習成果のフィードバックを効果的に与えるなどして,学習者に学習方略の有効性を実感させる工夫を施すことが重要となるだろう。
 本研究の課題として,サンプルが限定的で,結果の一般化には注意すべきであることがある。また,プランニング方略の直接効果は間接効果とほぼ同程度であり,媒介効果の解釈は慎重に行うべきである。最後に,今回は効果的でないとされている学習方略を取り上げていないため,その効果について検討できていない。今後は,そのような学習方略も含めた検討が求められるといえる。